表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/28

第四十五話−戦い−

彼はそういうと、即座に部屋の中へと戻っていった。

しかし、気がかりな発言に、僕は彼の姿を見ずにはいられない。

私を嫌いたくないのなら、と彼は言っていたが、そんなことを言われれば、人間誰しもが気にかけて、その真意を突き止めようとする。

僕も、例外ではない。 彼の起こそうとしている行動が気になって仕方が無かった。


僕は、彼の行動を観察すべく、少しだけ開いている窓の隙間から、部屋の中を覗くことにした。


リトルはこれから、何をするつもり何だろう……?

僕のマフラーを手で広げている。マフラーがだらんと垂れた。

そして、リトルはマフラーの端をつかむと、それを鞭のようにして宙にはたきかかった。


え……?!


僕は、だんだんと彼のことが心配になってきた。


しかし、そんなことよりも、マフラーの安否のほうが心配だ!


止めにいったほうが良い。絶対に。

あのままでは、間違いなくジェシー達に気付かれるし、僕がせっかく編んだマフラーがどうなってしまうのか、知れないじゃないか!


窓のカギは、さっきリトルが開けて、そのままになっている。

僕は、勇気を振り絞って、部屋の中へ入ることを決意した。


部屋の中は、外とはうってかわった温かさだった。

ヒーターは消されているようだったが、部屋の空気にまだその余熱が残っている。


壁にあいたドーム型の穴を潜り抜けると、マフラーをふりまわしていたリトルがさっと振り向いた。


「来るなといっただろうが!」

「僕、どうしても納得か゛いかないよ。 リトルが戦っているのは、誰?」


するとリトルは、”言うまでも無い”といつ多様に鼻を鳴らし、ふたたび戦いに取り掛かった。


”お前には奴か゛見えないだろう。 しかし、寝てみればわかるだろうな。 死をもって”


そう言った瞬間、マフラーがこなごなに砕け散った。

まるで見えない爆発が起こったかのように、マフラーの毛くずが飛んでくる。

一瞬にして、姿を消した僕のマフラーを目前に、心の底からわきあがる疑問と悲しみに、僕の頭は占領された。


「……どうやら姿を消したようだな」


リトルは、僕のことなど気に止めず、こなごなに砕け散ったマフラーのくずを拾い始めた。

僕もすかさず、マフラーの残骸に飛びつく。


ああ、僕のマフラーが……


「よかったぞ。 レンディ。 これで一件落着だ」


「何が良かっただよ! せっかく編み上げたマフラーが台無しじゃないか!」


本当なら大声を出して叫んでやりたい。

しかし、僕等のすぐ傍らではジェシー達が、しずかな寝息をかいて眠っているのだ。

僕は、やりきれない思いで、唇を噛み締めた。

すると、リトルはやっと僕の様子に気がついたらしく、何かを少し考えた後、口を重々しく開いた。


「お前のマフラーがなければ、彼女の……いや、彼等の命も助からなかっただろう。 レンディ? お前が彼女にあげた最高のプレゼントにまだ気付いていないのか?」


僕が、懇親の思いで作った、手づくりのマフラーをなくしてしまった今、手元にプレゼントと呼べそうな物は、一つも無い。


「何だよ。 最高のプレゼントって?」


すると、リトルはゆっくりと微笑んでこう言った。


「変わらない日常という、最高のプレゼントさ」


きっと、僕には、リトルや本当の魔術師についての理解なんて、これっぽっちも無かったんだろう。

正直なところ、喜んだらいいのかすらも、判断できない。


ただひとつ。今の僕にわかることがあれば、変わらない日常が幸せだということに対する疑問だ。

だって、


「ジェシーにとってはね」


そう。 僕はもう、変わってしまった日常の中にいるから。

毛くずを一通り集め終わると、リトルは僕に質問をした。


「他に、記憶を消さなければならない人はいるのか?」


「そうだな……」


しまった。今までジェシーのことばかりに木をとられていたせいで、あの時のメンバーを思い出せない。

僕は、今にもほつれそうな糸を辿る思いで、記憶をさかのぼっていった。

確か、あの時……そう、ケビンに僕とジェシーが神殿に行くところを目撃されたときに、居合わせていたメンバーだ。

僕と、ジェシーと、ケビンと……


「リップだ!」


そう、次はリップのところへいかなければ、ならなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ