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第三十九話−予想外のできごと−

あれから僕は、必死でマフラーを編みつづけた。

リトルが以前、「編物は慣れれば速くできるようになる」と言っていたことは本当らしく、ここ何週間かで、僕はおどろくほど上達した。


あと何日かしたら冬休みが始まる。 そんなとき、僕が教室の片隅で教科書やノートの整理をしていると、マックがこんなことを言い出した。


「カップル限定のクリスマスパーティが今年も始まるそうだぜ?」


そういって、パーティのチラシをクラスの皆に見せびらかす。

チラシには、「クリスマスパーティ」たる文字列が並んでいた。


「おいおい、それは上級生だけが参加できるパーティじゃねえのかよ?」


そう言ったのは、かたわらでチラシを見ていた歯ブラシ少年のマーフィだ。


 しかし、マックはマーフィの意見には目をくれることも無く、周りの衆に”お前はどうだ?”とでも言いたそうな目つきで目配せをする。 すると、そこへケビンが、われさきにと周りの衆を押しのけて、マックの掲げていたチラシに飛びついてきた。

 クラスメイトたちの中には、邪魔そうな目つきで彼を見るものもいれば、彼を、待ってました!と、はやし立てるものもちらほら。


「何してんだ、お前ら? 楽しそうなことやってるじゃねえか」


 すると、マックは、意気込んでケビンの肩をつかんだ。


「ようよう、ケビンちゃん。 お前なら、このパーティに出てくれるよな?」


 そう言って、パーティのチラシをケビンに見せた。

 するとケビンはそれを見て、さも悪巧みをしていそうな笑みを浮かべる。


「へえ、面白そうじゃん。 で、女子は?」


「あ……」


マックは重大なことに気づいたようだ。


「おいおい、カップル限定だってのに、女がいなけりゃ、話にならねえだろうが」


そういって、ケビンはマックの腕を振りほどく。


「そうだよな……」


しかしそのとき、ケビンが何かひらめいたらしく、


「お、そうだ。 俺にいい考えがあるぞ?」


と、言ってマックに耳打ちをした。

するとマックはケビンの話を聞くなり、にんまりとした表情で互いに目を合わせると、クスクスと笑い始めた。


どうせまたくだらないことでも考えているんだ。 僕は、教科書の整とんをつづけた。

しかし二人の向かった先は……


「やあやあ、レンディ君。 冬休みの計画はもう練ってあるかい?」


ああ、やっぱり!

マックが元気そうにいうと、今度はケビンが口を開いた。


「お前とジェシーは仲がいいだろ?」


ケッ。

ふたりとも、神父さんのような優しい微笑みを浮かべているが、腹の中は悪魔そのものに違いない。


「それでパーティに参加しろってのは、お断りだよ」


僕は、勇気を出して、二人に立ち向かった。 どうして、ジェシーと一緒にパーティに出なきゃいけないのさ! だいたい、彼女とは恋人でもなんでもなくて……しかし、帰ってくるのは、一方的なせがみだけだった。


「何だと? お前、俺の言うことが聞けないってのか」


ケビンが鼻にしわを寄せている。 今にも、えりくびをつかまれそうだ……

するとマックは、いきり立つケビンを抑えて、彼の変わりに前に出てきた。


「そんなこというなって、レンディちゃ〜ん。 俺達はキミに素敵な体験をして欲しくて、パーティに招待してるんじゃねえか」


ケビンはマックの背後から怖い顔をして脅してくるが、マックのほうは、まだやさしい笑顔だ。

今なら、言ってやれる!


「うるさいなァ。 いかないといったら、行かないのさ。 キミがなんと言おうがね」


しかし、僕が言ってやった! と喜んでいたのもつかの間、ケビンは僕の机に山積みになっている教科書の仲から一冊の本をとりあげた。


そ、それは……!


「この本を返してほしけりゃあ、パーティにでるんだな!」


嫌なら俺から取り返してごらん! とでも、言うように、黒くて少し厚みのある本を高々とあげた。 あれは……僕の父さんの日記だ!


僕はすぐさまケビンから、その日記を取り返そうとした。


「おい、返せよ!」


「やなこった。 そう簡単に返すかよ」


僕は、必死になってケビンから日記を取り返そうとしたが、ケビンの身長にはとどきそうで届かない。

ジェシーに助けを請おうとしたが、あいにく、ジエシーは席をはずしている。

そしてとうとう、僕がケビンから日記を取り返す前に、巨人のうめき声が鳴ってしまった。



* * *


お昼休み。


「それで……キミにもパーティに来てもらわなくちゃいけなさそうなんだ」


僕が浮かない顔でそうつげると、続いてすっとんきょうな声が廊下に響き渡った。


「嘘でしょ?! どうして、その本を取り返してやらなかったのよ!」


そう言ったのは、ジェシーだった。 彼女は、イライラとじだんだを踏みならす。 そして、僕がやらかした(主にケビンとマックが原因だが)できごとにあきれ果てた様子で肩を落とした。


「それで、今は誰がその本を持っているの?」


ジェシーは溜息をつき腕を組んで、僕がなんと言い出すのかをまった。 かなり不機嫌そうだ。


「きっと……ケビンがその本、いや、その日記を隠し持ってるんだよ。 僕の大事な父さんの日記なのに……」


「ケビンったら、どこまでも嫌な子! ……でも、仕方が無いわ」


彼女は僕のことを言っているのか、それともケビンのことを言っているのか。

どちらにせよ、僕は自分の背の低さをとことん恨みたい気分になった。

今なら、牛乳でもぶら下がり機でも、どーんとこいだ!


しばらくすると、ジェシーが何かひらめいたらしく、両手の握りこぶしで中を叩いた。


「ねえ、レンディ? あの子なら、机に日記を入れておくんじゃないかしら?」


しかし、僕はむっつりと答える。


「普段からいたずらばっかりしてるような奴が、そんなバカな真似をすると思うか?」


だが、ジェシーは引き下がることなく


「でも、やってみるしかないわよ!」 と、言って自分の意見を押した。


その後、僕が何度か断ったにも関わらず、ジェシーはせがみつづけた。 そしてとうとう僕は、根負けしてジェシーの意見を飲み込んだ。 納得のいかないことを飲み込むのには難があったが、僕は心変わりした。 そこまで言うならやってみようじゃないか。

物はためしだ。 あれこれ考えていたら、遅れをとるに決まっている。

先手必勝、相手の隙をついて、日記を奪い取ることをジェシーは考えているのだろう……


放課後、僕たちはケビンがいないところを狙って、彼の机をのぞき見た。


「どう?」


ジェシーが後ろからひそひそと話し掛けてくる。

僕は、次々と教科書の間に指を挟んで、何度も往復したが、黒い影すら見つけられなかった。

そしてとうとう頭を上げ、そっけなく返事をした。


「……無いよ」


「本当に? まって。 私も探すわ」


ジェシーが歩み出てきたので、僕は彼女と交代した。

しかし、結局彼女も僕の日記を見つけられなかった。


「ほらね。 きっとあいつのことだから、もっと難しい場所に隠しているんだよ」


「本人の家とか?」


僕はしばらく思考を巡らせた。


あいつならどこに隠す? 

ジェシーが言っているとおり、本人の家に隠しているという場合も考えうる。

彼は家に日記を隠し持っているのなら、どうしようもない。 あいつの家に忍び込むのか?

いや、それはダメだ。

そういえば、今まであいつは僕にいたずらをするとき、必ず僕の性格を利用してきた。(これは僕の分析した彼のデータだ)

だから、きっとあいつは僕がパーティに出たがらないことを利用して日記を隠しているのでは?

何せ僕は、自分でもチキンだという自覚がある。


だとしたら、あいつが「返してほしけりや、パーティに出るんだな」といったことに筋合いがつくじゃないか!


僕はパーティに出ようとおもった。 そうさ。 相手のすきを狙えないワケじゃない。 まだチャンスがあるんだ。

でも、ジェシーは賛成してくれるかな……。

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