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第三十八話−さよなら、ケケ−

僕が家に着く頃には、日がとっくに暮れ、あたりはほとんど夜になっていた。

その晩、僕はジェシーに謝るために、電話をかけることにした。


「仕方が無いわよ。 私も、それくらいのことは予想していたわ」


ジェシーが頑張って、僕を元気付けようとしているのはわかったが、彼女の声はひどく落胆していた。


「明日はきっと、見つかるよね」


「そうね。もう一度探しましょう?」


受話器を置いた後、僕は思わずためいきをついた。

ここ何日かは、嫌なこと続きで気分が最悪だ。


この前、ジェシーと一緒に大道芸を見に行ったときは、大量のカラスに襲われたし、リップはケビンの兄が殺されたと言っていたし、それに今回の猫の件もある。

こんなに、嫌なことが重なるときはどうしようもない。 運が良くなるのを待つしかないか。


翌日。運の神様は、いたずらに僕に微笑んでくれた。


今日はいつもどおりの授業だった。放課後になるのが待ち遠しい。早く授業が終わらないかな。


やっとの思いで授業が終わったあと、僕はジェシーと一緒に、急いでシルヴァニア公園へと向かった。

早くケケを探し出したいという思いが募る中、シルヴァニア公園はいつもと同じようにじめじめと湿っている。

あと、もうすこしでひだまり広場だ。しかし、そんなとき、足元をさっと横切る何かをジェシーが捕えた。


「あら? 今、何かが私のそばを通っていったわ」


そういって、彼女は後ろを振り向く。

どうせ何かの見間違いに決まっている。

僕は、

「何かの間違えじゃない?」

と言ってジェシーをからかったが、ジェシーは「違うわ」といった。


「ケケよ! ほらみて、あの毛の色! ケケに違いないわ」


僕はまさかと思って、さっと後ろを振り返った。

するとそこには、尻尾を振ってそそくさと去って行くケケの姿が……!


僕らは、はじかれたようにケケのあとを追いかけた。

しかし、ケケと僕等の感覚はどんどん離れてゆく……僕等が走ればねケケもそれをわかっているかのように走り出すのだ。ったく、賢いやつめ。 取り逃すわけには行かない。

僕とジェシーは息を切らして、ケケの後を追った。

やがてシルヴァニア公園の外に出てきた。


シルヴァニア公園のゲートを抜けたとき、すぐさま左右に目を走らせた。

すると、右側にある信号を渡っている人たちにまぎれて、道路を横断しているケケの姿が見えた!


僕は、信号を渡っている人たちを避けながら、必死でケケを捕まえようとした。しかし、ケケのすばしっこい動きにひけを取っ手、結局信号のところでは捕まえられなかった……。

しかも、四人の人にぶつかった。


続いて僕たちは、ケケを追って、徐々に商店街のほうへと向かっていった。

そろそろ息が切れてへなってくる……しかし、せっかく見つけられたケケを逃がすワケにはいかない!


少し休んだ後で、再び僕は猫を追いかけた。ジェシーも劣らずついてくる。

もしかしたらジェシーのほうが体力が上なんじゃないかと思った。だが、それについては、後だ。


自転車やトレコードショップを右肩越しに通り過ぎた。

そして、古本屋と肉屋の隙間にある狭い路地に突き当たったとき、ケケはそこへ逃げ込んだ!


よし、路地を入ったところには、レンガでできた壁がある。

猫はもう逃がさないぞ! ……と、思った瞬間。


なんと、ケケは、レンガでできた壁の、やっと腕が入りそうなくらい小さな隙間から、逃げ出そうとしているではないか! これは一大事だ。


僕は、急いでレンガの壁に駈け寄った。レンガのところどころにある、わずかなでこぼこに足を引っ掛けて上れば、向こう側にいける。


しかし、この壁というのが、なかなかの厄介者で、思うようには上れなかった。なんと言ったって、つるつる滑る! でこぼこの加減が充分ではないようだ。

やっとの思いで上りきれた頃には、もうそこにケケの姿はなかった。


かわりに、銀色の長い髪をした、女の人がいた。


その女は、突然壁の向こうから現れた僕にたいそう驚き、二、三歩あとずさる。

そして、疑い深い目つきで僕をにらんだ。


僕は、はずむ息を抑えながら

「あの、猫を見かけませんでしたか?」と、問い掛けた。


すると、女は、かなりえらそうな口調で

「猫? そんなもの知らないわよ。 なんかの見間違いなんじゃない?」

といった。


「そうですか……ハアハア。 ありがとうございました」


その後、僕は壁に上らず、遠回りをしてジェシーの元へと帰っていった。

ジェシーは僕の姿を見るなり、飛びついてきた。


「どうだったの? 猫は見つかった?」


僕は、その期待を裏切るように、うなだれた。


「ごめん……」


するとジェシーは僕と頃へそっと寄り添うようにして、肩に手を伸ばす。


「もともとあの子は野良猫だったもの。 きっと、お母さんの下へ帰りたかったんだわ」


僕は、ばつが悪くて口を経の字に曲げた。


「レンディが気にすることじゃないと思う。 今回のことは忘れましょう? 猫がいなくたって、私は平気だもの」


僕は最後の言葉にはっとした。

しかし、なんと答えたらいいのかわからない。

それからジェシーは僕は、ほとんど何も話さずに各々の家へと帰った。


もう、これで毎日、僕とジェシーが変わりばんこで猫を育てる夢は終わった……。


短い間だったけど、大好きだった。


 さよなら、ケケ。

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