第三十七話−失踪−
「あいつはどうかしているよ。 最近は、俺も理解できなくなってきた」
リップからその話を聞いたとたん、僕は深刻な問題をたたきつけられた気がして、午後は気が気じゃなかった。
放課後にでも、気分を落ち着かせるためにチョコレートを買いに行きたいところだったが、ジェシーとの約束をすっぽかすワケには行かなかい。
仕方なく、僕はシルヴァニア公園へ行くことになった。
そんな中で、僕は本日二度目のビックリを体験することになる。
帰宅後、僕は学校でジェシーに渡された猫の缶詰めを持って、シルヴァニア公園へ向かった。
シルヴァニア公園というのは、いつでも洞窟の中のような暗い公園だ。 遊びにくるような人はまずいない。 なんと言ったって、あそこは不気味の一言につきる。
昼間でもほとんど公園に日が射さないからね。
うっそうとした木々は、夏の風でさえ、氷の女王が吹いた北風のように変えさせる力を持っている。
今日もシルヴァニア公園は、ひどい湿気で地面はぐっちょぐちょにぬかるんでいた。
霧も出るようになっている。
もう秋ということもあるのか、ここのところ、雨続きだ。 そのためか、町はすっかり湿って落ち込んでいる。
枯れ葉の匂いが立ち込む、どこのどんなに古くさい雑木林よりも陰気で不気味なシルヴァニア公園を入っていけば、丁度、中央に当たる部分に”ひだまり広場”がある。
ここは、唯一、ルヴァニア公園の中でも、ましな場所だといえよう。
なんといったって、奇跡的にも、ここには日が差し込んでいるのだから!
ほんのわずかだけどね。
でも、今は雨が降りそうなほど空がぐづついているから、ほんのわずかな日の光さえも、届いていなかった。
ひだまり広場には、真中の赤いさびついた時計塔を囲むように、四つのさびついたベンチがそれぞれ向かい合わせで並んでいる。 その中でも、特に劣化が激しくて、ほとんど茶色にしか見えないようなベンチの後ろにある、雑草で生い茂った花壇の中に、ケケの入ったケーキ箱がある。
僕は、そのケーキ箱に近寄った。
「さあ、ケケ。ごはんだぞ」
しかし、何の反応も無い。
「あれ? ケケ?」
僕はケーキ箱の中を覗いたが、ケケはその中にはいなかった。
きっと、どこかに出かけているのだろう。ネコだって、散歩くらいするものだ。
僕は、ケケの隠れそうな草陰や、木陰を探してみた。
ひだまり広場の草木を一通り調べ終わることには、手も足もドロだらけになっていたが、已然としてネコはみつからない。
……もしかしたら、もっと遠くのほうへ言っているのかも。
日はもう暮れかかっていた。
雲で白く覆われた空は、相変わらずのままだったが、あたりはうすぐらく、木の陰が黒く濃くなってゆく。
僕は早いところ帰りたい気分だった。 あまり遅くなると、また母にしかられる。 外出禁止もいいところだ。
しかし、ここ何日かシルヴァニア公園に通っていたせいもあって、僕は暗闇が嫌じゃなくなった。
これがなれというものなのか。 少しくらいの暗がりなら、良く見えるようになったし。
早く猫を探し出さねば。 完全に暗くなる前にね。
僕は、ひだまり広場から抜け出して、広場に近いところから順に猫を探しまわった。
ぬかるんでいるシルヴァニア公園を移動するときには、足元に気をつけなければならない。
だから、僕は何度もぬかるみに引っかかった。
だが、すっこけそうになりながらも、せかせかと小道を進んでいった。
氷の女王が域を吹くたびに、木の葉がざわめき、冷たい雫が雨のまねをして落ちる。
それが、僕の顔や腕のところどころにあたって、気づく頃には、じっとりと濡れた服が体に張り付いていた。
うーっ、寒い!
やっぱり帰ろう。 ケケなら明日でも探せる。
ケケが逃げ出したことについては、ジェシーに謝っておこう。
僕は、あけないままの猫缶をもって、シルヴァニア公園を後にした。