第三十六話−死の発覚−
「まったく、最近遅いわよ?」 ほら、やっぱり。
今日も母にしかられた。 早く帰らなきゃいけないって言う思考はあるよ?
でも、どうしてもそのとおりに行かないってのが、人生ってもんだ。
そんなことを言っている僕だけど、リトルとの約束は絶対に守らなくちゃいけない。
どうしてか。 あの日約束したんだ。というか、おどされた。
何が何でもこの計画を成功させなければ、僕の命が無いってね。
あの人は、僕を脅してばっかりで、一体何をたくらんでいるのか、わかったもんじゃない。
でも、約束を守らなかったら、ジェシーが危ないってのは、わかっている。
だから僕は、あのリトルに従わざるを得なかった……。
次の日、僕はとんでもないことを知ってしまう。
今日は何故かいつもよりずっと早く目が覚めたおかげで、いつも一番乗りで学校に来るジャッキーの次に早く着いてしまった。
ジャッキーはおしゃべりな女の子だ。
しかし、僕はジェシー以外の女の子に接したことがほとんど無い。
不運なことに、僕は、ジャッキーとしばらく二人きりで過ごす羽目になった。
「おはよう……じ、ジャッキー」
すると、ジャッキーは珍しくジェシー以外に話し掛けた僕を不思議な視線で見つめた。
「お、おはよう?」
しまった。 ジャッキーはおしゃべりだ。 しかし、女の子と二人きりなんて、気まずすぎる!
まともに何かを話す気になれない! まだ五分しか経っていないけど、僕は何万年も教室にいたような気がして、あやうく、カチコチの化石になるところだった!
だが、ジャッキーが他のクラスのところへ言ってくれたおかげで、僕はほっと息をつくことが出来た。
金色の朝日が教室を照らす中、しばらくひとりで本を読んでいると、不意に立て付けの悪い教室のドアが開かれた。 珍しく、リップがひとりで教室に入ってきた。
「あ、おはよう。リップ」
すると、リップは僕をちらとだけ見た。 そして、気がすすまない声で「ああ」といい、席に座る。
それからは、時計の音だけが聞こえ、一秒一秒が耳につくほど感じる中、何を話そうかとリップは話題を考えているようだった。
僕が何だろうと、リップの様子をうかがいながら本を読んでいると、不意にリップが大きな溜息をついた。
「ハアア、なあレンディ、聞いてくれよ〜」
きっと独り善がりなグチだ。僕は本を読みながら答えた。
「うん、何?」
「最近、ケビンの様子がおかしいんだ」
ほら、きた。 ケビンのことだから。
「あいつは、いつもひとりで何かぶつぶついってやがる。もしかしたら、精神病にでもかかったんじゃないかって」
確かに、それも言えている。
「そのことを聞いたんだけど、気のせいだろっていうばかりなんだ。 それにあいつ、なんていったと思う?」
「何?」
「”お前も夢魔に殺されるぞ”だってさ」
まさか! あいつは未だに夢魔だとかなんとかいうものを気にかけていたのか?
いや、リトルのことで頭が一杯になっていた僕も人のこと言えた立場じゃないけど。
それよりも、気になるのは……
「お前も?」
「そうなんだよ。俺も気になってたんだ。
お前もってことは、他に誰か殺された奴でもいるのかよって話だよな」
僕は黙ってリップの話を聞いた。
「ここだけの話だぞ?」
リップは、まゆをひそめて、唇に人差し指を当て、ひそひそ声で喋った。
「うわさによると、ケビンの兄のケレックって奴が、以前死んだらしいんだ」
「え?!」
僕は耳を疑った。
「おい、声がでかいぞ!」
僕はリップの言った言葉が信じられなかった。
じゃあ、ケビンがこの前無断で休んだのは、そのせいだったのか?
妙な思い込みが頭の中を駆け巡る。
「いいか、落ち着いて聞けよ? どうやらそのケレックは、朝起きたときにはもう死んでいたらしいんだ。 原因は今のところ良くわからないんだけど、阿多起きたときには、そいつの体がもう真っ青だったみたいだぜ? まるで血を抜き取られたみたいによ。 本当、吸血鬼にでも襲われたのかよって話だよな。 でも、ケビンはこう思っているらしいんだ。 いや、ケビンだけじゃないかも」
あのケビンがどう思っているって……? もう答えは目に見えている。
僕は、ごくりと唾を飲み込んだ。
「”夢魔に襲われた”だとよ」
リップは片方のまゆを吊り上げて、まるで信じられないだろ? と、でも言いたそうに、僕の顔を覗きこんだ。
そういえば、ケビンはあの時、”そのうち大量殺人が起こるかもしれない”と言っていた。
嘘だ……。今、まさしくそれが、本当になったとでもいうのか? たかが、ケビンの予言が?
しかし、僕は体中に悪寒が走るのを感じた。
まさか……。