分からぬ意図
昨日の出来事は気にも留めていないのか、男は今日も病室を訪ねてきた。
奥のベッドへと歩みを進める男に対し、私は勢いよくカーテンを開けると、語気も荒々しく言葉を放つ。
狼狽える男に対して、私は更に言葉を重ねる。
「娘さんは、もうここにはいないんでしょう!」
こいつは気付かれないと思っていたんだろうか。
違和感を感じた翌日も、この男はいつものように病室を訪れた。
その翌日も、その次の日も、奴は毎日、本を読みに来た。
最初は気のせいかと思ったが、間違いない。
何よりも、あいつの声が語っていた。
私が違和感を感じた日、この病室から音が減った日から、この病室には私一人だったんだ。
それでもお前が訪ねてくる理由があるとすれば…それは、きっと……。
「俺への哀れみかよ!」
激昂した言葉を叩きつけられても、貴方は口を開かない。
「それとも私が面白かった?世界を失っても必死に足掻く私の姿が滑稽だったの?」
やっぱり無言を貫く貴様。
「どう思っていたんだよ!何とか言ってみなさいよ!」
ねえ、答えてよ。
怒鳴り散らす私の言葉を聞き終えると、男はひとつだけ謝罪の言葉を残して、病室を後にした。
今日もまた、眠れない夜が訪れる。