いつか
――ポリポリ、パリパリ、ポリパリ・・・
「美味しいか?スノーラ。」
帰り道、お母さんは、予定より少し遅くなったので少し急ぎ足で歩きながら話しかけてきた。
「うん、市場で食べたのがサックサックでアマアマだったの。
こっちはパリアマなの♪」
「良かったな。」
乳母車に乗ったままだったからお母さんがどんな顔しているかは見えないけど、いつものやさしい心地よい声。
「あの人達は私の小さい頃からお世話になってる人達だ。」
「わたしより小さい頃?」
「あぁそうだ、生まれた時から。
いや、生まれる前から・・・父と母も・・・家族ぐるみで仲良くしていたんだ。」
「へー。
じゃ~なんで、今は別々なの?
仲良しなら隣に住めばいいじゃん、そしたら毎日遊べるよ。」
「そうだな、それはとても素敵なアイディアだ。
だがな、私の耳は他人より”少し耳が良い”と教えただろ。」
やさしいけど少し寂しそうな声で続けた。
「町で暮らすには、私の耳は向いていないんだよ。
多くの人は、心の声を聞かれるのを嫌う生き物なんだよ。
だから、父と森に引っ越した。」
母は、その前に死んだと、付け加えた。
「そうなんだ・・・。」
「もしも私に何かあったら・・・あの人達を頼りなさい。」
「?」
「お母さんも生き物だ、いつか必ず・・・
それは唐突かもしれないし、ゆっくりかもしれない・・・それでもいつか死ぬだろう。」
「・・・・・・。」
喉がギュッとして声が出ない。
また、あの”さみしい”思いをする日が来るとお母さんが言ってる。
それがどうしても認めれない。
「約束してくれるかい?」
お母さんが言った台詞は、行き道と同じだったけど、わたしは行き道と同じように素直に頷けなかった。