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カエル事件

何年も一緒に暮らしながらお母さんに色々な事を教えてもらった。

まず、お母さんのような2本足の生き物は”人間”という生き物。

わたしの体は”白竜ホワイト ドラゴン”という生き物。

4本足の茶色い生き物は、”馬”。

銀色の棒は、”剣”。


お母さんの体は、細くって髪と瞳は真っ黒。

わたしより2~3倍くらいの背の高さ。

人間の中では、普通くらいだって言ってた。


わたしの体は、中くらいの犬っころくらいの大きさってお母さんに言われた。

白い硬いうろこに覆われ、背中には同色の翼が生えている。

飛べそうだけど、まだ上手に飛べない。

足が2本、手が2本で立派な爪が付いている。


それ以外にも物の名前、地名、季節、野菜の作り方、お金について・・・一緒に暮らしながらいっぱい教えてもらった。

人間の言葉や文字、発音方法も教えてもらった。

わたしの話していた言葉はお母さんには聞こえるけど、他の人間には動物の鳴声みたいに聞こえて意思疎通できないらしい。

お母さんは、人より耳が少し良いらしくって特別に分かるらしい。

お母さんの耳では、他の動物の鳴き声もちゃんとした言葉で聞こえるらしく「お魚とか料理するとき困らない?」って聞いたら「もう慣れた。」って言ってた。

あと、人間が頭で考えている事も勝手に聞こえてくるから困るって話も聞いた。

わたしとお母さんの住んでいる所は、町と呼ばれる人間がいっぱい住んでいる場所より少し離れた場所であることも教わった。

1ヶ月に1回くらい町にお母さんは、庭で作った野菜や森で摘んだ薬草を煎じた薬等を持って行き、帰りは小麦等を買って帰ってきた。


人間が住んでる場所の中では、この辺りは冬は険しい地方に住んでいるらしい。

その険しい冬の後には、また春がやってきた。

若々しい黄緑の葉っぱが沢山生え、生き物も動き回る時期。


ある日、お母さんと畑仕事していた時、温かくてわたしは、何だか嬉しくなって庭を駆け回っていた。

そこにカエルが目の前を横切った。


――ピョコン、ピョン、ピョコン。

地面を蹴り上げ跳ねるカエル。

面白くってまねっこ。

わたしもピョン、ピョン跳ねた。

驚いたカエルは、逃げて若葉の生い茂る草むらの中に入っていった。


「待ってっ。」

追いかけて手で草をより分ける。


「見つけた、今度は逃がさない。」

――ぺシッ。

手で叩いて、噛んで動かなくする。

こうしたらもう逃げれない、昔、人間にこうしたら逃げなくなった。

動かなくなったカエルを摘んでプラプラ。


「スノーラ!!!」

険しい顔のお母さんがこっちを見ていた。


――パシッ。

右頬が急に痛くなった。


「命を無駄にするんじゃない!!」


「お母さんだって、お魚や鶏を殺すじゃない。」


「お前は、カエルを食べるのかい?」


「・・・ううん。」

首をフルフル振った。

カエルは苦くて食べれない。


「生き物は、栄養を得る為に命を食べる。

 だけど、スノーラのした事は、命をもてあそんだだけ。」


「・・・・。」


「意味の無い殺しは・・・しては駄目だ。」


「・・・ごめんなさい。」


「謝っても命はかえってこない。土に返してやろう。」

そういうと、家の裏に連れて来られた。

そこは、低木と色とりどりの花が咲いている綺麗な場所。

少し向こうに歩くと大きな川が流れている。

耳を澄ませば、その音が聞こえる素敵な場所。

わたしは、スコップで穴を掘りそして、カエルを埋めた。


「土に返れば、草木の栄養となり、草木は動物の栄養となる。

 そして動物は、再び土に返る。

 この世にあるものは、鎖のように互いに繋がり生きているんだよ。」


「・・・。」


「感情に任せ理由無く殺生はしてはいけないよ。」


「うん、わかった。」

その一言を聞くと、お母さんは嬉しそうに私の頭を撫でた。

いつもの温かい手に緊張していた気持ちも和らぎ、ほっとする。


「ねぇ、お母さん。」


「なんだい。」


「ここキレイだね。」


「あぁ・・・私のお気に入りの場所なんだ。」

眼を細めお母さんは答えた。

そうだ、前から気になっていた事を聞こう。


「あのね、あそこにある並んだ石はなあに?」

お花畑の一角にある不自然に並んだ私ほどの大きさの石が2つ。

まるでお花畑を見守るみたいに並んでいて気になっていた。

もしかしたら、絵本に出てきたあれと同じ、そう、宝の隠し場所かな?


「あぁ・・・あれは、私の大切なものだよ。」


「やっぱり、あそこには金銀財宝が眠っているんだ。」

わたしは、嬉しさのあまり声が大きくなる。

対照的に、お母さんの声はなんだか小さくなった。


「そういう価値の物ではないよ。」


「え?違うの?」

キョトンとしてしまう。


「あそこには、お母さんのお父さんと・・・・。」

お母さんのお父さんって事は・・・えっとお爺ちゃんか。

これも習ったから知ってる。

人間も死んだら土に返るんだ。


「それと、娘が眠っているんだよ。」


「ムスメ?」


「そう、スノーラのお姉ちゃんだ。」

お姉ちゃん?ってなんだろう、まだ教えてもらってない。

聞きたいけど・・・お母さんは笑ってるけど・・・目が泣きそう。

そんなお母さんを見ていたら・・・なんだろ、胸がギュッとする。

シクシクって感じもする。

眼から涙がこぼれた。


「なんて顔をしている。」

お母さんが、先に口を開いた。


「この世には、あらゆる不幸も満ちているが、それは永遠には続かない。

 私には、スノーラが居る。

 生きていれば、こんなにも幸せにも出会えるのだから・・・スノーラが泣く事はないんだよ。」

私をギュッと抱きしめてくれる。

そして、言葉を続けた。


「私の代わりに泣いてくれてありがとう。」

優しく、やさしく呟いた。


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