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ア・イ・シ・テ・イ・ル

市場に行ってから数週間後、もういつ雪が降ってもおかしくない頃。

わたしは家の横の畑で最後の収穫をしていた。

雪が降る前に終わらせなきゃいけない、降り積もればもう、次の春まで地面は見えなくなる。


「スノーラ、後は任せたよ。」

残り少しとなり、お母さんは夕ごはんの準備に、と家の中に帰っていった。

もう、何回もしているからコツは掴んでいる。

捻って抜く、捻って抜く、捻って・・・・黙々と繰り返せば、残りはあと一つ。

これが終われば、お母さんとご飯だと思うとすっごくワクワク、今日は木の実パンって言ってた。

家から漂うパンの良い匂いがたまらない♪


あ?足音、パンが焼けたからお母さんが呼びに来てくれたのかな。

そう、思ってそっちを振り向くと・・・知らない人間が居た。

ううん、知ってる。

一回だけ会った事がある、あの男。


「な・・・何故、こんなところに白竜が!!」

驚愕し後ずさりながら叫んだ。

それは、こっちの台詞だよ。

何であなたがここに?っと、問おうと思ったけどその前にお母さんが慌てて家から飛び出してきた。

その声がお母さんにも聞こえたのだろう。


「ケルヴィン!?」

お母さんも何故ここに?と、言った顔だ。


「町からの帰り、後をつけたのか!?」

お母さんが一層怖い顔をする。

どうしよう・・・このケルヴィンって人・・・私も怖い。

気づけば、そいつは震える手に銀色の棒、剣を握ってた。


「お母さんっ。」

助けを求め、お母さんのほうに走りよると・・・


「ルーナティアナ危ない!!!!」

ケルヴィンが、剣が私に向かってきた。

昔と一緒だ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

痛い事を、わたしにする気だ!!!!!!!!!!!!!

なら、昔と同様・・・・・噛み付いてやる!!!!!!!!!!!!!

わたしは目をカッと見開き、口を大きく開けた。


「スノーラ危ないっ。」

だけど、わたしの口がケルヴィンを噛む前にお母さんに抱きしめられる。

わたしが受けるはずだった痛い事を、お母さんが受けた。


「な・・・な・・・・何故だ!!何故だ!!何故だ!!何故だ!!何故だ!!何故だ!!」

ケルヴィンは、悲鳴のような雄叫びを上げながら立ったまま呆然とし、剣を落とす。


「オレは悪くない!!竜が、竜が!!!!!!何故、竜を庇った!!!!!」

けたたましく恫喝どうかつし、そしてこの場から走り逃げた。

その間、わたしは・・・お母さんを抱きしめる返す事しか出来なかった。


「ス・・・ノォ・・ラ・・・だいじょう・・・ぶ・・かい?」

酷く辛そうな声で私を心配する。

何で?お母さんのほうがどう見ても辛そうじゃない?


「大丈夫だよ、お母さん。」

それを聞くと安心したようで、力なく微笑む。


「どうしよう、お母さん。どうしたらいいの?」

必死でお母さんに聞く。

だって、嫌な匂いがする。

嫌な色が目に入る。

昔、”まま”が居なくなった時、ひときわ大きな樹の下で経験と同じ。


「ス・・・ノ・・・時が・・・来たら・えら・・・びな・・さい・・・。」

だんだん小さくなっていくお母さんの声を必死に拾う。


「何を?」

目から涙がどんどん溢れれたけど、お母さんは拭いてくれない。

拭けないみたい。


「竜・・に・なるか・・・人に・・なるか・・・。」

ゴホゴホと咳込む、その度にお母さんの顔は蒼白になっていく。


「それ・・・までは・・・にげなさ・・・い・・・また・人間が・・・く・るまえ」

さらに咳込む、その後はヒュー、ヒューと口をパクパクさせるだけ。

その口は、ずっと繰り返す。

『ア・イ・シ・テ・イ・ル』と。


「お母さんっお母さんっお母さんっお母さんっお母さんっお母さんっお母さんっお母さんっお母さんっお母さ・・・・」


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