”まま”
(まま・・・まだかな?おなか、へったな・・・。)
雪で辺り一面、真っ白。
ママの歩いた足跡も もう消えちゃった。
お出かけに出たママは、お日様が昇って、沈んでを7回繰り返しても戻ってこなかった。
「外はまだ一人では危ないから出てきちゃ駄目よ。
あなたは、いい子、言い付けは守るのよ。」
ママは、出かける前にいつもそう言ってたからず~~~~っと守ってきた。
だって、わたしはいい子だから。
だけど、お腹へって・・・寒くって・・・寂しくて・・・
(わるいこになろう。)
悪い事をしたらママに叱られるけど、初めてお家を出ることにした。
怒ったママは、大きな声で大地を揺らし、すっごくすっごく怖いから嫌だけど、その後、ギュッと抱きしめてくれて「可愛い娘、大好きだよ。」って頬を合わせて言ってくれるんだ。
すっごく、すっごく、すっごく温かくてふわふわして優しい気持ちになるんだ。
だから、悪い子になって・・・すっごく嫌だけど怒られて、最後にギュッとしてもらおう。
冷たいな雪。
だけど、前に行こう。
ママはあっちに行ったから。
いっぱい、いっぱい歩いて足が冷たくなり過ぎて痛くなった。
でも、前に進んだ。
お日様が沈んでお月様が顔を出した。
いつもは寝る時間だけど、前に進んだ。
そして見えたのは、緑。
たくさんのツンツンした葉っぱを茂らせた樹。
それがポツポツ増えてきた頃、匂いがした☆
『ままっ。』
微かにだけど匂いがした。
痛みなんて忘れて駆け出した。
ずっとずっと、走って、走って・・・息をするのが苦しくって咳込んだけど走った。
気づけば辺り一面、ツンツン葉っぱの樹が生えていた。
その中でも ひときわ大きな樹の下にママの匂いが染みついていた。
そこは、赤がいっぱい。
何度も何度も樹の周りをぐるぐる回って探すけどママの姿は見えなかった。
目から涙がこぼれた。
(かくれんぼかな?)
いつもは泣いたら出てきてくれるのに今日は出てきてくれない。
『わたしは、わるいこ。
だから おこってよ。』
ありったけの声で叫んだけど山に響いては、むなしく山びこになって返ってくるだけだった。
そこでお日様が昇るまで待った。
お日様の光を浴びたら疲れでウトウトしちゃった。
急に大きな音、獣が鳴く音がした。
目を開けると遠くから茶色い大きな4本足の生き物がこっちに来た。
1匹じゃない、2匹来た。
雪を蹴り上げながらパカパカと足音をさせている。
「おい、子供がいる。」
「母親を追ってきたのか?」
「幸運だ、こいつも国に売れば儲かるぞ。2人でやれるか?」
「子供だし、大丈夫だろう。
母親同様、やって売ってしまおう。」
4本足の生き物以外にもそれに乗った、2本足の生き物がいた。
乗り物から降りた2本足の生き物達は、難しい話をしながら銀色に光る長い棒を出して近づいてきた。
すっごく怖い眼、お口はニヤニヤしてた。
『さみしいの、ままのこと・・・しってるの?』
怖いけど、聞いてみた。
けれど、何も答えてくれない。
その代わりに・・・。
『いたいの、いたいっ。』
急に痛い事をした。
銀色の棒、すごく痛い。
『やめて、いたいのっ。』
大きな声を上げて逃げた。
追ってきたからたくさん、たくさん走って、もう走れないと思うまで走った。
けれど、駄目だった。
痛い銀色の棒を持った生き物は、追いついてきた。
『まま、さみしいよ・・・・まま・まま・・まま・・・まま・・・・まま・・・・・・・。』
声がかすれるまで叫んだけど駄目で、目の前が真っ暗になった。
「ぎゃぁぁーーー!!!!!!!!!!!」
「こいつ、噛み付いてきやがった!!
止めろっ!!来るな!!!ガァッギャーッ!!!」
それからの記憶はあいまい、山をさ迷った。
(さみしいよ・・・まま・・・さみしい・・・・・・。)
ずっとそんな気持ちが胸の中に溢れてた。
時折、同じように銀の棒を持った怖い2本足の生き物に出会った。
逃げても追いかけてきた、だから、前と同じ様に噛んでやった。
次第にその生き物に出会う度に逃げることはやめ、すぐに噛んでやった、銀の棒を持っていなくても。
もう、何回お日様が昇ったかわからない。