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東の森へ.3

 そこから歩きながら他愛のない話をしていると、気がつけば東の森、その入口まで到着していた。中央都市から歩いてもそこまでの距離じゃない。


 森の入口であろう整地されている場所に人が立っており、その人は俺達を見つけると手を上げてくれた。


「オーガキラーだね。私はギルド職員の一人だ。迷わなくなっているとはいえ、無闇に冒険者が入らないよう現在交代で見張っている。ジェシカから話は聞いているよ、君達で調査をしてくれるんだろう?」


「調査、になるかは分からないですけど、俺達で何か出来ることがあればと思って。ジェシカさんや、ギルドの皆さんにはお世話になっていますし」


「嬉しいことを言ってくれる。今日は天気も良いから、視界はそこまで悪くならないはずだ。道は整備されているから、外れなければ基本的には一本道のはずなんだけど……何があったのか不思議でしょうがない」


 私は入っていないから、分からないんだ。あ、入口はそこからだよ、と職員さんが指差してくれた場所は、言われた通り木々の間を人が通れるように整地してあった。


「ありがとうございます」


「夜までに成果が無い場合は、一度森から出たほうが良い。獣もそうだが、ウィッチに眼を付けられると厄介だからね」


 この職員さんも聞いているみたいだ。ウィッチによる被害は、今でこそまだ出ていないらしいけど、森の中心にある大樹、その周辺に住んでいると言われるエルフが懸念していると。元々、ギルドはその調査へ乗り出して今の迷えない森に困っている状況ということだった。


 そうします、と職員さんの助言に従い夜までには一度戻ろうと決め、俺達は森へと歩みを進めた。



「なんだか……薄暗い、ですね」


「やっぱり、天気の良い日にして正解だったな」


 森の中は、空を覆うようにして伸びる木々により太陽の光が遮られ、日中なのに既に夕方と思う位に薄暗かった。


 今の所、整地されている所を直進できており、後ろを振り向くと入ってきた所が何とか見える位。これ、道の無い場所へ入った瞬間迷うの確定じゃない? 周りの景色も全て同じ様に見える、おっかないぞ……。


 俺は、進路を凝視して道を誤るまいとした。


「あの、カイルさん」


 アメルから声が掛かる。道に気を取られすぎた、俺が堂々としてなきゃアメルを怖がらせちゃうな、いかんいかん。


「ごめんアメル。この道を間違えなければ問題ないのは分かってるんだけど、つい力が入っちゃって。もし外れちゃっても、俺達にはアルクからの御守りもあるからね」


 もしもの時は、マジで導きの羽頼りだ。何事もなく生きて戻るまでが大前提だしね。俺は導きの羽をちゃんと持ってきているか再確認した。


 だが、アメルは違うんですと言い、話を続ける。


「ここからもうちょっと先、なんですけど。進路もそうですが、森を覆うようななんて言ったらいいのかな……うっすらと膜? の様なものがあるんです」


「膜? 俺には何も見えないけど。ライム、見えるか? なんか薄い皮みたいなの」


「んー、みえないなー」


「そ、そうなんですか? じゃあ、あれは何なんでしょう?」


 アメルは不安そうに呟く。とりあえずそこまで行ってみようと告げて、アメルが言う膜の場所まで向かった。


「ここです。ここから先全体に、膜が張られているように見えます」


「んー……」


 眼を凝らしてもやっぱり見えないし、分からない。でも、アメルはこういう場面で冗談を言う事はない。とすると、アメルの職業【射士】によるスキルで見えているとみるべきだろう。恐らく、この見えざる膜が迷いの森が迷えなくなった正体、それをギルドが発見出来てない原因だな。


「アメル、この膜? にはトゲみたいなものとかある? 痛そうなやつとか」


「トゲ、ですか? 無いように見えますけど……」


「じゃあ、ちょっとやってみるか。ライム、いいか?」


「おー!」


 肩に乗っているライムに確認を取って、従魔融合を発動する。これで俺は、魔法以外に耐性が付いた。膜のようなものが、仮に外部からの侵入を許さないものだとすると、無理に入ろうとした者へ攻撃がくるかもしれない。程度は分からないが、余程じゃない限り俺は、死なない。魔法だった場合は、知らない。すぐに逃げよう。


「アメル、何が起きるか分からないから警戒して」


「は、はい!」


 アメルは腰のホルダーから、鬼銃セロシキを取り出す。アプサラスもスキル顕現を発動し、水鳥から水の精霊ネレイスへと姿を変えた。


 俺はそれを確認してから、ゆっくりと膜があると言われた方向へ手を近付ける。手を伸ばしきった先はーーーー痛みはおろか、何も起きなかった。


「あ、あれ?」


 俺は、痛みが来ても耐えられるように気合を入れていたもんだから、肩透かしを食らってしまっていた。


「ア、アメル。俺の手、その膜ってのを触ってる状態かな?」


「は、はい。触ってるというか、貫通しています」


 これ、貫通してんの? じゃあ……いけるか。俺はゆっくりと前へ進み、膜の内側へ全身を入れたつもり。やはり、痛みは無かった。アメルの方を振り向き、伝える。


「アメル、痛くないからアメルも来て大丈夫だよ」


「え、なんですか? カイルさん、声が。あの、ちょ、え? なんで?」


 アメルが宙に手を置き始めた。見たことあるぞ、あれだ、大道芸のやつだ。俺は少し面白いと思ってしまったが、アメルは焦っている様だった。あの焦り様、どうやらあそこに膜があって、アメルは入れない様子だった。何か条件があるのか?


「なんで! カイルさん、カイルさん!」


 見えない膜を叩き始め、パニックになりつつあるアメルを宥めようとしたら、今度は俺が、ある場所を境にそれ以上先へ進めなくなっていた。


 ……え、嘘だろ? 出れなくなってる?


 ーー逃さないよ。頭の中で、そう聞こえた気がした。


(カイルー、なにかいるぞー!)


 ライムの声に俺は周囲を見渡す。その中で人影らしき影を発見した。俺はこの現状をなんとか出来るかもと思い慌てて駆け寄ろうとするが、人影の全容が見えた瞬間足を止めざるをえなかった。


 ーーいや、人じゃない。あれは……鬼?


 人じゃないのはすぐに分かった。額から立派な角が生えていたから。疑問が出たのは、その鬼? であろう魔物の肌色。それが限りなく俺達に近い色合いをしている。


「オーガ、じゃない……? なんだ、あれ」


 恐らく魔物なのは間違いない。が、人肌に近い鬼のような魔物なんて見たことがない。ギルドの文献にも無かったはずだ。ここにしかいない魔物なのか? 俺は正体不明な魔物を警戒する。


 魔物もこちらをしばらく見つめていたが、やがて一本の樹に手を置いた。その様子を眺めていた俺は、次の瞬間驚愕する事になる。


 樹齢何年になるか分からない立派な樹に、魔物は触れていた指を食い込ませーーーーそのまま握り潰していく。あり得ない光景を呆然と見つめる中、魔物はその行動を繰り返していき……やがて、半分以上抉られた樹は、とうとう自身の重量を支えきれなくなり、周りへ寄りかかるように大きな音と共に倒れた。


 今度は倒れた樹を握り、この辺だなと言わんばかりに自身の力でへし折った。小さくなったとはいえ、丸太位の大きさがある。それに再び指を食い込ませ持ち上げていった。……馬鹿みたいに力があるな、赤いオーガと同等かそれ以上だ。この魔物はそれに加えて知能がある、赤いオーガより余程危険だ。


 丸太を片手で持ち、ゆっくりと俺達の方へ歩いてくる鬼の魔物。俺は警戒を強めてスキルを発動した。


「……なんだか知らねぇが、熱い歓迎ってやつか? 中へ侵入した奴は排除するって事だよな、それ」


 俺は聞こえていないアメルに下がってろ! と手を振って伝え、アメルまで危害が出ない様、迫りくる脅威にこちらから向かっていった。

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