第9話 想定外の魔物(完全制圧)
ダンジョン内部が、ざわついていた。
足音。
鳴き声。
岩を引っ掻く音。
「……多くないか?」
レオンが、息を飲む。
「多いです」
俺は即答した。
「群れが、完全に起きてます」
弓の青年が舌打ちする。
「昨日の誘導で、警戒レベルが上がったな」
「ええ」
つまり――
中途半端にやると、全滅する。
「撤退は?」
鎧の男が聞く。
俺は、少しだけ考え――首を振った。
「いいえ」
「今回は、全部片付けます」
一瞬、空気が凍った。
「……は?」
「Eランクだぞ?」
「数、十はいるぞ!」
「問題ありません」
淡々と告げる。
「やり方を、変えます」
俺は、地面に簡単な図を描いた。
「このダンジョンは、一本道が多い」
「逃げ場がない代わりに――」
線を引く。
「分断しやすい」
弓の青年の目が、鋭くなる。
「……なるほど」
「前衛は、ここで壁役」
「レオンは、左右を走る」
「弓は、通路の“奥”を撃つ」
「魔法は?」
少女が聞く。
「撃ち切ってください」
一瞬、彼女の目が揺れる。
「……暴発、します」
「構いません」
「暴発しても、位置は固定します」
沈黙。
だが――
誰も、反対しなかった。
魔物の群れが、現れる。
十体以上。
「来ます!」
「前衛、止めろ!」
鎧の男が、吠えた。
だが突っ込まない。
盾になり、通さない。
「レオン、走れ!」
「了解!」
レオンが左右に走り、
魔物の注意を引き裂く。
「弓、奥!」
矢が、通路の奥へ吸い込まれる。
狙いは――
最後尾。
逃げ場を断つ。
「魔法、全開!」
少女が、深く息を吸う。
詠唱が始まる。
途中で止めない。
逃げない。
光が――
通路全体を焼いた。
「……うわ」
弓の青年が、思わず声を漏らす。
魔物が、悲鳴を上げる。
前からは盾。
後ろは封鎖。
横からは牽制。
完全包囲だ。
「押せ!」
鎧の男が、吠える。
今までとは違う。
突っ込まない。
だが、退かない。
「……俺、止まってるだけなのに」
「なんで、勝ってる!?」
レオンが、叫ぶ。
「役割が、噛み合ってるからです!」
俺は答える。
戦っているのは、彼らだ。
だが、勝たせているのは――配置だ。
最後の一体が、崩れ落ちる。
静寂。
通路には、魔物の残骸だけが残った。
「……終わった?」
レオンが、呆然と呟く。
「……全滅だな」
弓の青年が、矢を収める。
鎧の男が、笑った。
「はは……!」
「派手すぎだろ、これ!」
魔法使いの少女は、膝をついていた。
「……撃ち切りました」
「でも……生きてます」
「完璧です」
俺は、そう言った。
ダンジョン最奥。
核となる魔石が、淡く光っている。
「……Eランクで、ここまで?」
レオンが、震えた声を出す。
「普通は、来ません」
俺は答える。
「でも」
「普通じゃないやり方を、しました」
魔石を回収し、
ダンジョンを出る。
外。
陽光が、眩しい。
「……なあ」
鎧の男が、俺を見る。
「俺たち、強いのか?」
「いいえ」
即答した。
「判断が、揃っただけです」
「……それを、強いって言うんじゃねぇのか?」
俺は、答えなかった。
ギルドに戻ると、空気が変わった。
「……あのパーティだ」
「低層を、一掃したって」
「問題児の寄せ集めだろ?」
「なのに、無傷……?」
視線が、集まる。
だが――
俺には、向かない。
全て、仲間たちに向いている。
それでいい。
凡人のまま。
裏方のまま。
だが、この瞬間。
このパーティは――
Eランクの常識を、完全に壊した。




