第6話 訓練法を教える
討伐の報告を終え、ギルドを出たところで、
レオンが足を止めた。
「なあ」
振り返ると、全員が立ち止まっている。
「今日のやつ……」
「たまたま、じゃないよな?」
鎧の男が腕を組む。
「俺は、あんなに楽に戦えたのは初めてだ」
弓の青年も、珍しく口を開いた。
「位置取りが、やたら安定してた」
「風読みも、楽だった」
魔法使いの少女は、控えめに言った。
「……私」
「途中で止めても、怒られませんでした」
全員の視線が、俺に集まる。
期待ではない。
だが、答えを求めている。
「理由は、簡単です」
俺は言った。
「皆さん、今まで“上手くやろう”として失敗してました」
「……は?」
レオンが首を傾げる。
「上手くやろうとすると」
「無理をします」
「突っ込みすぎる」
「詠唱を続けすぎる」
「情報を出さない」
鎧の男が、少しだけ視線を逸らした。
「……耳が痛ぇ」
「なので、訓練法を一つだけ教えます」
全員が身構える。
秘伝の剣技か。
魔法の極意か。
――違う。
「疲れない距離で、同じ動きを繰り返してください」
沈黙。
「……それだけか?」
弓の青年が聞く。
「それだけです」
俺は頷く。
「一回で上手くやろうとしない」
「昨日と同じことを、今日もやる」
「それ、意味あるのか?」
「あります」
断言する。
「上達しない人は」
「毎回、違うことをやるからです」
レオンが、ぽつりと呟く。
「……俺、それだ」
翌朝。
ギルド裏の空き地で、簡単な訓練を始めた。
内容は、拍子抜けするほど単純だ。
・前衛は、三歩出て二歩下がる
・弓は、同じ距離から同じ角度で撃つ
・魔法は、詠唱を途中で止める練習
・レオンは、牽制して戻るだけ
「なあ、これ」
「弱くなってないか?」
鎧の男が言う。
「今は、それでいいです」
一時間後。
全員が、思ったより疲れていないことに気づく。
「……あれ?」
レオンが、腕を振る。
「いつもより、楽だ」
弓の青年も、矢を見つめる。
「……外れてない」
魔法使いの少女は、驚いた顔で言った。
「詠唱、途中で止めても」
「怖くない……」
俺は、内心で小さく息を吐いた。
――俺自身も、同じだ。
同じ動き。
同じ負荷。
それなのに、体が覚える速度が早い。
成長補正の恩恵だ。
だが、それを口にするつもりはない。
三日後。
再び、同じ討伐依頼を受ける。
結果は――
「……また、無傷だな」
鎧の男が呟く。
「しかも、前より楽だった」
レオンが、興奮気味に言う。
「俺、強くなってないか?」
違う。
だが、否定もしない。
「再現できた」
「それが、重要です」
弓の青年が、少し笑った。
「悪くないな」
「このやり方」
魔法使いの少女は、はっきりと言った。
「……また、やりたいです」
ギルドに戻る途中。
レオンが、小声で言う。
「なあ」
「俺たち、このまま行けるんじゃないか?」
「行けます」
俺は即答する。
「ただし」
「調子に乗らなければ」
全員が、苦笑した。
問題児たちは、
まだ問題児のままだ。
だが――
失敗しにくい問題児になった。
それだけで、世界は変わる。




