第5話 戦闘指示で無双
林の中は、思ったより静かだった。
風が葉を揺らす音。
遠くで鳥が羽ばたく音。
「……静かすぎないか?」
レオンが小声で言う。
「出ます」
俺は即答した。
「三体」
「正面一、右奥二」
弓の青年が、わずかに眉を動かした。
「……見えてたのか?」
「足音と、枝の折れ方です」
説明はしない。
「前、出すぎるな」
鎧の男が、すでに一歩踏み出しかけていた。
「止まってください」
短く言う。
「……チッ」
不満そうだが、止まった。
その瞬間、
草むらから低級魔物が姿を現す。
小型。
数は、三。
「前衛、引きつけるだけ」
「レオン、左を牽制」
「弓、右奥を先に落とす」
「魔法は――」
少女を見る。
「詠唱は、半分でいい」
「止めます」
少女は、一瞬だけ目を見開き――
小さく頷いた。
魔物が動く。
鎧の男が、一歩前へ。
「来い!」
だが、突っ込まない。
引きつけるだけ。
「今です」
弓が鳴る。
右奥の魔物が、倒れる。
「……は?」
弓の青年が、思わず声を漏らす。
「当たりすぎだろ」
「距離が、固定されていました」
俺は答える。
レオンが左へ動く。
「牽制だけでいい!」
レオンは、深追いしない。
――初めてだ。
彼が、引き際を守ったのは。
「魔法、今」
少女が短い詠唱を終える。
光が走り、
中央の魔物が怯む。
「止め」
俺が言うと、
少女は即座に詠唱を切った。
暴発はない。
「前衛、押しすぎるな」
「半歩、下がって」
鎧の男が歯噛みしながら下がる。
その隙を、レオンが突く。
「今だ!」
剣が振るわれ、
最後の一体が倒れた。
――終わりだ。
一瞬の静寂。
「……あれ?」
レオンが、きょとんとした声を出す。
「終わった?」
「はい」
鎧の男が、剣を下ろす。
「……楽勝じゃねぇか」
弓の青年が、矢を拾いながら言った。
「いつもなら、もう一体くらい暴れてたぞ」
少女が、恐る恐る口を開く。
「……私」
「ちゃんと、撃てました」
「ええ」
俺は頷く。
「途中で止めたからです」
「……止めて、よかったんですね」
「はい」
少女の表情が、少し明るくなった。
「なあ」
レオンが、俺を見る。
「俺、いつもなら突っ込んで囲まれてた」
「ええ」
「でも」
「今日は、余裕があった」
それは、錯覚だ。
強くなったわけじゃない。
判断が、揃っただけ。
だが――
「……俺、強くなったのか?」
鎧の男も、腕を回しながら言う。
「動きやすかった」
「前に出すぎてないのに、戦えてた」
弓の青年が、鼻で笑う。
「連携って、こんなもんか?」
違う。
こんなもんじゃない。
だが、今は言わない。
「続行します」
俺は淡々と告げる。
「まだ、終わってません」
全員が、自然と配置につく。
――誰も、指示を疑わない。
それが、一番の変化だった。
二戦目も、同じだった。
三戦目も。
派手さはない。
だが、危なげもない。
「……なあ」
帰り道、レオンが呟いた。
「これ」
「俺たち、相性いいんじゃないか?」
鎧の男が笑う。
「違いねぇ」
少女が、小さく手を握る。
「……また、組めますか?」
弓の青年は、何も言わない。
だが、歩調は揃っている。
俺は、内心で息を吐いた。
――始まったな。
誰も、俺が強いとは思っていない。
だが、全員が「勝てた」と感じている。
それでいい。
凡人のまま。
問題児だらけのまま。
だが、このやり方は――
確実に、効く。




