第4話 即席パーティ結成
Eランク掲示板の前には、いつも同じ顔ぶれがいる。
理由は単純だ。
誰も、彼らと組みたがらない。
「……また、一人で失敗か」
背後から聞こえた声に、レオンは肩をすくめた。
「仕方ないだろ」
「誰も、俺と組んでくれないんだから」
レオンは、俺と同じEランク。
だが、俺とは違う意味で“有名”だった。
――一人で突っ込んで、依頼を失敗する男。
腕は悪くない。
判断が、壊滅的だ。
「前に出たら、下がれなくなる」
「だから、必ず囲まれる」
それが、レオンのいつものパターンだった。
「……今日は、どうする?」
俺が聞くと、レオンは苦笑する。
「正直、もう一人じゃ無理だ」
「でも、誰も来ない」
それを、周囲の冒険者は遠巻きに見ている。
「またあいつか」
「巻き込まれたくねぇ」
完全に、敬遠対象だ。
「……それ、行くのか?」
声をかけてきたのは、鎧の男だった。
大柄だが、動きが雑。
剣は重く、扱いきれていない。
「前に出る役がいないなら、俺がやる」
「後ろは、知らん」
――典型的な単独突撃型。
「下がれと言ったら、下がってください」
俺が言うと、男は眉をひそめた。
「は?」
「前に出る役に、下がれだと?」
「死にたくなければ」
男は、しばらく黙り――
やがて、舌打ちした。
「……チッ」
「分かった」
だが、その返事に自信はない。
次に近づいてきたのは、ローブ姿の少女だった。
「……あの」
「私、魔法使いなんですけど……」
声が小さい。
視線も、定まらない。
「詠唱、途中で止まる癖があります」
自分で言うくらいだ。
集中力が、致命的に足りない。
「だから、今まで全部ソロでした」
「パーティだと、迷惑かけるので……」
それも、敬遠される理由だ。
「無理をしないでください」
俺が言うと、少女は戸惑った。
「え?」
「詠唱が乱れたら、止めます」
「責任は、こちらで取ります」
少女は、少しだけ安心したように頷いた。
最後に、柱の影から現れたのが弓の青年だった。
「俺は、好きに動く」
「指示されるのは、嫌いだ」
距離を取る癖。
報告をしない癖。
――情報共有が、致命的にできない。
「位置だけ、教えてください」
「……それだけ?」
「それ以上は、求めません」
青年は、しばらく考え――
肩をすくめた。
「変な条件だな」
「まあ、いい」
こうして集まったのは、
・突っ込み癖のある前衛
・一人で依頼を失敗し続けたレオン
・詠唱が止まる魔法使い
・連携を拒否する弓使い
そして――
戦わない俺。
「……なあ」
レオンが小声で言う。
「これ、地雷パーティじゃないか?」
「ええ」
即答した。
「間違いなく」
全員が、微妙な顔をする。
依頼内容を確認する。
「低級魔物討伐」
「数は、三から五」
「地形は、林」
「楽勝だな」
鎧の男が言う。
「勝ちに行きません」
俺は、淡々と告げた。
「今まで失敗した理由は、全員同じです」
全員の視線が集まる。
「無理をした」
「判断を、共有しなかった」
一拍、置いて続ける。
「今日は、役割だけ守ってください」
「それで、成功するのか?」
弓の青年が聞く。
「失敗は、減ります」
魔法使いの少女が、小さく呟いた。
「……それなら」
鎧の男は、鼻を鳴らす。
「チッ……」
「まあ、死なねぇならいい」
街を出る。
歩調は、まだ揃っていない。
だが、誰も先走らない。
「……なあ」
レオンが言う。
「今まで、一人で全部やろうとしてた」
「ええ」
「でも」
「今日は、楽な気がする」
「それが、普通です」
俺は答える。
実際、俺自身も感じていた。
成長補正の恩恵で、
同じ距離を歩いても疲れが残らない。
だが、それ以上に――
「無理をしてない」
それが、大きい。
林の手前で足を止める。
「ここから先は、慎重に」
誰も、反論しなかった。
この問題児パーティは、
まだ信頼はない。
だが――
失敗する条件だけは、消えていた。
「……行けるか?」
レオンが聞く。
「生きて帰るだけなら」
そう答え、俺は林へ視線を向けた。
凡人のまま。
問題児だらけのまま。
それでも、
噛み合えば、勝てる。




