第25話 再挑戦者の立ち位置
騎士候補科の訓練場は、
ここ数日、妙に落ち着かなかった。
理由は一つ。
アレン・フィルドという存在が、
「新人」ではなくなったからだ。
「……完全に、空気変わったな」
ログスが、汗を拭いながら言う。
「ええ」
アレンは頷いた。
「敵意が」
「評価に変わっています」
それは、歓迎とは限らない。
訓練場の端。
ヴェイン・クロスフォードは、
黙々と剣を振っていた。
以前のような、
派手さはない。
だが――
無駄も、ない。
(……あの日)
(俺は、負けた)
力でも、理論でもない。
“戦場の見方”で。
「……まだ、やるのか」
声をかけたのは、教官だった。
「はい」
ヴェインは、即答する。
「俺は」
「騎士候補を、降りません」
教官は、しばらく彼を見てから言った。
「……再挑戦枠に回す」
「条件は、厳しいぞ」
「構いません」
それは、
“敗者に与えられる最後の椅子”だった。
同日午後。
特別模擬演習が、告知される。
【再評価演習】
再挑戦枠 vs 騎士候補科混成部隊
指揮:固定
判断変更不可
ざわめき。
「……再挑戦枠って」
「ヴェインだろ?」
「無理じゃね?」
演習前。
ヴェインは、アレンの前に立った。
「……一つ、聞かせろ」
「はい」
「お前は」
「俺を見下してるか?」
アレンは、即座に首を振る。
「いいえ」
「なら、なぜ負けた?」
一拍。
「勝ち方が、違っただけです」
ヴェインは、目を伏せた。
「……そうか」
演習開始。
再挑戦枠のヴェインは、
以前とは違った。
前に出ない。
突出しない。
だが――
折れない。
結果。
勝敗は、つかなかった。
だが。
教官は、静かに告げた。
「……合格だ」
「ヴェイン・クロスフォード」
「再挑戦枠、継続を認める」
ヴェインは、深く頭を下げた。
演習後。
教官が、アレンを呼び止める。
「君の存在は」
「騎士候補科の“基準”を壊した」
「だが――」
一拍。
「必要な破壊だ」
「上には、まだ報告しない」
アレンは、目を上げる。
「……なぜですか?」
「早すぎる」
教官は、はっきり言った。
「今、君を“国家案件”にすると」
「君が、潰れる」
その夜。
リィナが、ぽつりと言った。
「……王都って」
「まだ、遠いんだね」
「ええ」
アレンは答える。
「今は、騎士候補です」
それだけで、十分だった。




