第23話 騎士候補の日常は、地獄
騎士候補科の朝は、早い。
いや――
朝という概念がない。
「起床五分前!」
鐘が鳴るより先に、
怒号が訓練場に響いた。
「遅れた者は、昼食抜き!」
ログスが、白目を剥く。
「……まだ、夜だろ」
「ここでは」
「動ける時間が昼だ」
アレンは、すでに立っていた。
訓練内容は、容赦がない。
・全装備着用での長距離走
・連続模擬戦
・判断試験(睡眠不足状態)
「……死ぬ」
ミーナが、膝に手をつく。
「ええ」
アレンは、淡々と言う。
「死なないように組まれています」
「それ、慰めにならない……!」
午前の模擬戦。
相手は、
騎士候補科・正規組。
全員が、
「実戦経験あり」。
「新人が来たって?」
「噂のEクラス?」
露骨な敵意。
その中心にいたのが――
カイ・レインフォード。
粗野。
剣士。
実力は本物。
「なあ」
カイが、アレンに声をかける。
「お前が、例の“頭で戦うやつ”か?」
「はい」
「気に入らねぇ」
即答だった。
開始。
正規組は、力で来た。
速い。
重い。
容赦がない。
「来るよ!」
ミーナの声。
だが。
「問題ありません」
アレンの判断は、冷静だった。
「全員、三歩下がる」
「は!?」
「今です」
次の瞬間。
正規組の前列が、
完全に前のめりになる。
「……っ!」
カイが、舌打ちする。
「罠かよ!」
だが、止まらない。
結果――
正規組が、先に息切れ。
「……くそ」
カイが、膝をついた。
「負けだ」
見ていた教官が、目を細める。
「……新人」
「いや、指揮官向きだな」
昼休み。
ボロボロになりながら、
食堂へ向かう。
そこで。
「……あなた」
凛とした声。
振り返ると、
赤髪の少女が立っていた。
小柄。
だが、眼差しが鋭い。
リィナ・クロウェル
補助科出身・回復専門。
「さっきの模擬戦」
「見てた」
「はい」
「……怖い戦い方ね」
一拍。
「誰も、無理をしてない」
アレンは、少し考える。
「それが、一番早いので」
リィナは、
なぜか頬を赤らめた。
(なに、この人……)
(戦場を、命として見てる)
一方。
離れた場所で。
ヴェイン・クロスフォードが、
拳を握りしめていた。
「……ふざけるな」
「数値も、剣も」
「俺の方が上だ……!」
隣にいた男が、囁く。
「……上が、注目してるらしいぞ」
「何?」
「アレン・フィルドを」
ヴェインの目が、歪んだ。
「……潰す」
夕方。
セシリアは、
訓練場の端で剣を振っていた。
そこへ、アレンが来る。
「……今日の動き」
彼女が、口を開く。
「わざと、私を前に出さなかった?」
「はい」
「……理由は?」
「セシリアさんが前に出ると」
「全体の損耗が、上がります」
沈黙。
「……正しい」
彼女は、剣を下ろす。
「でも」
「それを言われるのは、初めてよ」
視線が、重なる。
「……嫌いじゃないわ」
小さく、そう言った。
その夜。
アレンは、寮の部屋で考えていた。
(訓練強度は、想定内)
(敵意も、想定内)
(……だが)
(個人で潰しに来る踏み台が、動き始めている)
成長補正スキルが、
静かに回る。
知識が、経験に変わる速度が――
また、一段階上がった。
騎士候補の日常は、地獄。
だが。
この地獄は――
無双のための、最適環境だった。




