第21話 評価の逆転
沈黙は、敗北より重い。
訓練場に残った空気は、
勝敗が確定した後も、しばらく動かなかった。
「……本演習をもって」
主任教官が、ゆっくりと言葉を選ぶ。
「特別選抜チームの評価を終了する」
それは、
敗北の公式認定だった。
ざわめきが、遅れて広がる。
「マジで……」
「Eクラスが、正式勝利……?」
ルーファス・ヴァルディオは、
立ち尽くしたままだった。
拳は、震えている。
「……納得できない」
掠れた声。
「数値は、こちらが上だ」
「理論も、配置も――」
「結果がすべてだ」
主任教官が、遮る。
「君は、負けた」
それ以上、
何も言わせなかった。
一方、Eクラス。
誰も、すぐには喜ばなかった。
勝った実感が、
現実に追いついていない。
「……終わった?」
ミーナが、小さく言う。
「終わったな」
ログスが、深く息を吐く。
「……生きてる」
ハルドは、椅子に座り込んだ。
「アレン・フィルド」
名前が、呼ばれる。
視線が、一斉に集まる。
「前へ」
アレンは、静かに歩み出た。
「君に、質問がある」
主任教官は、真正面から見据える。
「君は」
「学園の評価基準を、否定するのか?」
一瞬、
空気が張り詰める。
「いいえ」
アレンは、即答した。
「使っていません」
「……何?」
「評価基準は」
「戦う前の指標です」
一拍。
「戦場では」
「結果しか、意味がありません」
ざわっ、と空気が揺れた。
「……なるほど」
主任教官は、ゆっくり頷く。
「ならば――」
一枚の書類を、掲げる。
【通達】
Eクラスの解体案を白紙とする
アレン・フィルドを
**特別観察対象(戦術適性)**に指定
どよめきが、爆発する。
「特別……?」
「昇格じゃないのか?」
エルナが、小さく言う。
「……昇格より、重い」
セシリアは、
その通達を静かに見つめていた。
(評価されないわけじゃない)
(でも――)
(“枠に収まらない”)
彼女は、
初めて確信した。
(この人は)
(追い抜く相手じゃない)
(……並び立つ存在だ)
その日の夕方。
中庭。
フィオナが、アレンに駆け寄る。
「ねぇ!」
「もう有名人だよ!」
「そうですか」
「反応薄っ!」
笑いながらも、
真剣な目になる。
「……でも」
「目、つけられたでしょ」
「ええ」
アレンは、頷く。
「次は――」
「使われます」
夜。
教官会議室。
主任教官が、静かに言った。
「このまま放置はできない」
「同感だ」
別の教官が、腕を組む。
「才能があるなら」
「正しい場所で使うべきだ」
「……学園」
「いや」
一拍。
「騎士候補科だ」
その情報は、
翌朝、正式に通達された。
【特別通達】
アレン・フィルド
騎士候補科・特別編入試験への参加を命ずる
ざわめき。
「え、いきなり?」
「Eクラスから!?」
ログスが、舌打ちする。
「……引き抜き、か」
ミーナは、不安げに言った。
「……離れちゃうの?」
アレンは、少し考えた。
「いえ」
首を振る。
「一緒に、上がります」
Eクラスの全員が、目を見開いた。
評価は、逆転した。
最下位は、
“問題”から“戦力”へ。
だが――
それは、
より大きな舞台に立たされるという意味でもあった。




