第13話 王立士官学園・入学測定
王立士官学園は、想像以上に整っていた。
白い石畳。
均整の取れた建物。
掲げられた王国旗。
「……すげぇな」
レオンが、素直に声を漏らす。
「城より、城っぽい」
「見せる場所ですから」
アレンは、淡々と言った。
ここは戦場じゃない。
序列を見せる場所だ。
入学者は、すでに整列していた。
貴族の子弟。
名家の次男三男。
地方騎士団の推薦者。
装備も、立ち姿も、洗練されている。
「……場違いじゃねぇか、俺たち」
ガルドが、小声で言う。
「その通りです」
アレンは、即答した。
「だから、都合がいい」
意味が分からない、という顔を
全員がした。
最初に行われたのは、能力測定だった。
剣技。
体力。
反射。
魔力。
そして――
総合評価。
「次、リリア・フェルミア」
名前を呼ばれ、私は前に出た。
正直、緊張した。
でも――
ダンジョンでの感覚が、体に残っている。
魔力計が、安定して光る。
「……魔力量、B相当」
「制御も、平均以上」
ざわり、と周囲が揺れた。
「地方出身で、これは優秀だな」
教官が、淡々と記録する。
私は、ほっと息を吐いた。
「次、ガルド・バルハルト」
鎧の男が前に出る。
剣技測定。
力は、文句なし。
「筋力、A寄りのB」
「耐久、A」
「……さすがだな」
周囲から、感嘆の声。
ガルドは、少し照れたように頭をかいた。
「次、カイン・レイヴァス」
弓の青年。
動きは静か。
だが、射は正確。
「命中率、A」
「状況判断、B以上」
教官が、わずかに眉を上げた。
「優秀だ」
「次、レオン・クラウス」
レオンが前に出る。
剣は、派手じゃない。
だが、無理がない。
「……反射、B」
「戦闘継続力、B」
「総合、B下位」
レオンが、目を丸くする。
「……俺が?」
「安定している」
教官は、それだけ言った。
レオンは、呆然と戻ってきた。
「……なあ」
「俺、落ちこぼれじゃなかったのか?」
「今は、違います」
アレンが、静かに言った。
そして。
「次、アレン・フィルド」
空気が、わずかに変わる。
アレンが前に出る。
剣技。
平凡。
体力。
平均以下。
魔力。
弱い。
数値は、正直だった。
「……筋力、E」
「魔力量、E」
「反射、D」
ざわつきが、隠れなくなる。
「なんだ、あれ」
「付き添いか?」
教官は、記録用紙を見下ろし――
淡々と告げた。
「総合評価、E」
「最下位相当」
静まり返った後、
小さな失笑が漏れた。
「よく、ここまで来たな」
「推薦枠の穴埋めか?」
アレンは、何も言わない。
ただ、立っている。
測定終了後。
教官たちが、別室で話し合っていた。
「他は優秀だ」
「だが、あの男だけが――」
「明らかに不釣り合いだな」
一人の教官が、首を傾げる。
「だが」
「不思議なことに」
記録を見つめて、呟く。
「彼が測定を受けている間、全員の数値が安定していた」
「……何?」
「緊張によるブレが、異様に少ない」
別の教官が、眉をひそめた。
「偶然だろう」
「かもしれん」
だが、
誰もはっきり否定できなかった。
その頃。
「……最下位か」
レオンが、気まずそうに言う。
「問題ありません」
アレンは、いつも通りだった。
「学園は、数値を見る場所です」
「数値しか、見ません」
ガルドが、ニヤリと笑う。
「最高だな」
「また、底からか」
カインは、短く言った。
「……面倒が増える」
私は、アレンを見た。
悔しそうでもない。
怒ってもいない。
ただ、
「予定通り」という顔をしている。
(この人は――)
(最初から、こうなるって分かってた)
教官が、全員を前に告げる。
「本日より、お前たちは騎士候補生だ」
「クラス分けは、明日発表する」
「そして――」
一瞬、視線がアレンに向く。
「最下位評価者には、特別監督がつく」
ざわっ、と空気が揺れた。
アレンは、小さく息を吐いた。
「……監視ですね」
「そうだ」
教官は、否定しなかった。
その夜。
寮の部屋で、
私はベッドに座りながら考えていた。
数値は、最下位。
評価は、最低。
でも。
ダンジョンで見た背中。
指示の声。
全体を見渡す目。
(学園のほうが、危ないかもしれない)
そんな予感がした。
彼にとっても。
この場所にとっても。
凡人判定の生徒が、一人。
だが――
一番、学園を壊す可能性のある存在。
それが、
アレン・フィルドだった。




