第11話 進路変更(学園・騎士候補編への入口)
ギルドの奥にある応接室は、場違いなほど静かだった。
「……改めて確認します」
年配のギルド職員が、依頼書を机に置く。
「君たちは、Eランク」
「だが、C相当の魔物を討伐した」
鎧の男が、肩をすくめる。
「事実だ」
「偶然ですか?」
その問いに、全員が一瞬黙る。
レオンが口を開きかけたが、
俺は、先に言った。
「再現可能です」
部屋の空気が、わずかに変わった。
「……それが問題なのです」
職員は、ため息をついた。
「君たちの戦い方は、冒険者としては――異質だ」
「力で押さない」
「連携を崩さない」
「撤退と進軍の判断が、異様に早い」
弓の青年が、静かに言う。
「褒めてるんですか?」
「いいえ」
職員は、首を振った。
「危険視しています」
レオンが目を丸くする。
「は?」
「君たちは、育成過程を飛ばしている」
その言葉に、魔法使いの少女が息を呑んだ。
「本来、騎士や上級冒険者が学園で学ぶ内容を」
「現場で、独学している」
俺は、内心で納得した。
――来たな。
「そこで、だ」
職員は、一通の書状を差し出した。
封蝋には、王都の紋章。
「王立士官学園」
「騎士候補生課程」
鎧の男が、吹き出した。
「……はぁ!?」
「推薦ではありません」
職員は、きっぱり言う。
「招集です」
レオンが、青ざめる。
「断れないやつか?」
「ええ」
「拒否すれば」
「ギルド登録は、事実上不可能になります」
沈黙。
完全に、詰んだ状況だ。
「俺たちは、冒険者だぞ?」
鎧の男が、不満そうに言う。
「学園なんて、ガラじゃねぇ」
「だからです」
職員は、俺を見る。
「特に――君」
視線が、集まる。
「君は、剣も魔法も平凡」
「だが、判断力が異常だ」
「学園側は、こう言っています」
『戦場を壊す可能性のある人材は、
管理下に置くべきだ』
弓の青年が、低く笑った。
「……監視、か」
「その通りです」
宿への帰り道。
空気は、重かった。
「なあ」
レオンが、俺を見る。
「これ、面倒なやつだよな?」
「ええ」
即答する。
「かなり」
魔法使いの少女が、不安そうに言う。
「……私たち」
「大丈夫でしょうか」
「大丈夫です」
それも、即答した。
「学園は」
「想定外に弱い」
全員が、きょとんとする。
「基準が、古い」
「数値と才能で、人を測る場所です」
弓の青年が、口角を上げた。
「……つまり?」
「凡人は、底辺扱いされます」
鎧の男が、ニヤリと笑った。
「最高じゃねぇか」
王都へ向かう馬車の中。
書状を、改めて読む。
・士官学園 基礎課程
・騎士候補生としての仮登録
・能力測定、再実施
「……また測るのか」
レオンが、うんざりした声を出す。
「ええ」
俺は、窓の外を見る。
「ですが」
「今回は、もっとズレます」
成長補正。
現場経験。
問題児パーティでの無双。
それらを積み上げた今――
学園の尺度では、測りきれない。
王都の城壁が、見えてきた。
巨大で、堅牢で、
そして――時代遅れだ。
「……ここが、学園か」
鎧の男が、唸る。
俺は、静かに言った。
「ここからは」
「冒険じゃありません」
「戦場は、教室です」
凡人として。
騎士候補として。
だが――
一番厄介な生徒として。




