第7話 遠征の始まり
ギルド長たち首脳部がギルド会議を開き、検討している間、すでに斥候がラーミ村へと派遣されていた。
一方の私たちは、ギルド会議の行方を考えながら、のんきに薬草採取とスライムをしばいて魔石を回収して時間をつぶしていた。
夕方、ギルドに戻ったら結果を聞くつもりだ。
どちらにせよギルドからの討伐の本体は早急に派遣するとしても斥候が戻ってくるまでお預けらしい。
「なんだか大変なことになっちゃったね」
「そうですよ、レナ様」
「う、うう……」
薬草採取の間に、青空を見上げる。
さて、私たちはこの後、どうなるのか。
夕方、早めに切り上げて冒険者ギルドへ行く。
斥候の人は馬で飛ばして往復したので、そろそろ帰ってきているはずだ。
さすがにワイバーン・ライダーみたいなのはいない。
ワイバーン空挺師団とかあったら、超かっこいいのにね。
「こんにちは」
「あらレナちゃん、話まとまったわよ」
「そうですか」
「先、換金よね」
「はい」
薬草は先に薬屋さんに納品してある。
スライムの魔石を提出してお金をもらう。
ギルドのドッグタグも出して、記録をつけてもらう。
こうやって支部に情報が集まって、だんだんランクアップしていくのだ。
「はい、完了です」
「レナちゃんとフィオちゃんは、今日付けでFランク、アイアン級に変更になります」
「えっ!」
「毎日続けていますし、ワイバーンの報告の重要性とかいろいろ考慮してそういうことになりました」
「ありがとうございます」
「いいのいいの、はい、新しいドッグタグ」
今までのドッグタグは木製だったのだけど、新しいのは鉄製だ。
名前の掘り込みがしてあり、ちょっとだけかっこよくなった。
「えへへ」
「にひひ」
フィオちゃんと一緒に見せ合って、笑いあう。
レクスは冒険者登録をしていないので、見ているだけだけど、うれしそうにしていた。
「ほらほらレクス見て~」
「わわ、レクス様、私のも~」
フィオちゃんまでレクスに見せびらかしていた。
「それで、明日の遠征なのだけど」
「は、はい」
襟を正す。
「ギルドをあげて本格的な調査、場合によっては討伐をすることになったわ」
「え、そうなんですか」
「早いほうがいいでしょ」
「そうですね」
「今いる上級冒険者、それからレナちゃん、付き添いで悪いんだけどフィオちゃんも、道案内を頼みたいの」
「いいですけど、持ってる情報以上のことは何も知らないですよ」
「一応、地元の子だし、何か思い出したらと思って、念のため連れていくそうよ」
「そうですか」
「もちろん正式な依頼だから何もしなくても報酬が出るわ。馬車に乗って後ろをついていくだけでいいから」
「はい、了解です」
こうして私たちも同行するらしい。
まあ、ワイバーンと言っても、レッサー・ワイバーンらしいからワイバーンの中でも最弱である。
ただ群れる習性があり、一匹いたら何匹も見つかる可能性がある。
小型とはいえ、火も噴く。
よくあるファンタジーだと尻尾に毒がある種類とかいるみたいだけど、レッサー・ワイバーンにはそういうものはない。
手は翼になっており、足は二本の亜竜の一種だ。
色は茶色、赤、青、とか何種類かいるものの、特に違いはない。
今まで、遠くや上空を飛んでいることはあっても、地面近くで見たことはない。
ワイバーンそのものは、この地域では最上位の捕食者で、生態系のトップに君臨する魔物の一つだ。
「油断は禁物だね」
「はい、レナ様」
「頑張ろうね」
「うん!」
今日はそれぞれの家と宿に帰って、寝る。
集合は明日の朝、朝食後ということになった。
翌朝。宿を一度清算して、冒険者ギルドへと向かう。
状況によっては一週間以上かかる可能性もあるので、宿の部屋は返してきた。
「やっほー」
「レナ様、おはようございます」
「おはようございます、フィオちゃん」
「はいっ! 頑張りまっしょい」
「頑張ります!」
いそいそと馬車の荷台に乗り込む。
この前の商人のおじさんのような簡易馬車ではなく、ちゃんとした幌馬車だ。
二頭引きの立派な作りで、何人もの冒険者が乗っている。
一番奥には、渋い顔をしたギルド長が腕を組んで座っていた。
馬車は全部で三台、けっこうな大所帯である。
「ギルド長さん、おはようございます。レナです。よろしくお願いします」
「フィオです。よろしくお願いします」
「二人とも、よろしくなぁ、まあ座って座って。もうすぐ出発だ」
「はいっ」
和やかな雰囲気ではあるものの、大人たちの顔には緊張が見える。
私は旅の準備として、昨日のうちに簡易防具の革鎧とお料理で使う調味料などを補充しておいた。
きっと旅の途中で、料理をする機会もあるだろう。
冒険者ギルドや騎士団とかだと、簡易的な料理や携帯食料だったりするんだって。
でも私は転生者だし、美味しいご飯毎食食べたいよね。
「ご飯はお任せくださいね」
「いいのか?」
「もちろん」
「携帯食料にしようと思っていたのだが」
「ずっとそれだと飽きちゃいますもん」
「そ、そうだな」
ギルド長が笑う。
他の人も、料理が食べられるのか、といううれしそうな顔をしていた。
「では、出発する」
「はーい」
「はーいです」
ガタンと一度揺れた後は、すいすいと進んでいった。
門を出て、いよいよラーミ村への遠征がはじまった。
本当はあんまり帰りたくはないんだけどね。
村人に何言われるか分からないし。
でも、ばあばには会いたいから、また挨拶しよう。




