第5話 フィオ
そんな生活を続けて数日。
冒険者ギルドへ夕方顔を出すと、いつも視線を頂戴する。
お金もちょっとずつ貯まってきて、そろそろ防具か短剣でも買おうかなと思っていたところだった。
アイテムバッグから物を出す風に装って、薬草やスライムの魔石を取り出し、換金を終えて、さあ帰りましょ、というところで、掴まった。
「すみません」
「お、なになに」
私に話しかけてくる勇者はかなり珍しい。
みんな、触っちゃダメ扱いになっていた。ぐぬぬ。
実はいいところのお嬢様なのだ、という噂も漏れ聞こえるが、ハズレである。
さらに視線を集めて、私の白い肌も赤く染まるというもの。
「あなた、えっと、レナ様」
「レナ様!? あ、ああ、まあそうだけど」
いきなり様づけだったので、ちょっとびっくりした。
むしろ私よりも綺麗な服を着ていて、こちらのお嬢様のほうが裕福なご家庭なのだと想像できる。
そんな子が、ボロボロの服装の私を様付けしたのだ。
噂の影響もあるのだろうが、異様ではある。
「レナ様、私を、フィオを仲間にしてください」
「仲間、ねえ」
「はいっ」
おお、と歓声が上がる。
みんな楽しそうに周りを囲んで、ご鑑賞中だ。
おいこら、こっちは見世物ではありませんよ。
「仲間というのは、冒険者仲間のこと? それとも友達ごっこがしたいの?」
「冒険者仲間のほうです」
「友達ごっこではなく?」
「はい。冒険者、仲間です」
「魔法とか使える? 剣のほうかな?」
いいところのお嬢様ならそもそも護衛がいてもおかしくはないが、見当たらない。
それからお嬢様なら普通に魔道具の収納、マジックバッグなどを所持しているので、剣を携帯していないように見えるのも普通だった。
現に、あちらで見てる身なりのいい剣士様たちのグループは全員、武器を携帯していなかった。
収納しているのだ。
腰に下げていると、稀にスリとかで持ち逃げされる危険性もある。
そういう意味ではマジックバッグも持ち逃げされる可能性自体はあるものの、みんなしっかり持ち歩くのがセオリーだ。
肩掛けカバンみたいなのは、けっこう危ない。
腰のベルトの内側につけたりするくらい。
逆に安い肩掛けカバンに見せかけた高級マジックバッグとかもあるんだって。
世の中面白いものだ。
「剣は少しだけ」
「「「おおおぉぉ」」」
周りがやいのやいのと盛り上がる。
「魔法は、その闇魔法が」
「「「おおおおお」」」
さっきより周りの声が大きい。
闇魔法か。影とか毒とかを象徴する、ちょっと変わった属性ではある。
ただ、応用範囲は広く、使えているなら、やりようはある。
私は髪が銀のせいなのか、闇はあまり得意ではない。
教えてくれる師がいなかったのも大きいけれど。
「ほーそれは」
「じゃあまずは、お友達からね」
「え?」
「だから、お友達から。明日の朝、ご飯食べた後、西門前で」
「は、はい! レナ様」
さて約束をしてしまった。
勢いはある。
でも相性が悪かったら、それまでだろう。
逆に相性がいい可能性もある。
そうしたらレクス以外の人間のはじめての、お友達だ。
村を出て一週間。
ただ淡々と薬草採取とよわよわモンスター退治だけでは、ちょっと暇だなと思っていた。
簡単に言えば、刺激が欲しかったのだ。
彼女は、あんな風に言われている私に声をかけるだけの根性がある。
根性なのか憧れなのか、よく分からないものの、つまらない人間には見えない。
一緒に夕ご飯を食べて会話してもよかったけど、すぐ寝る時間になってしまう。
これは幼女だからとかではなく、基本的に夜はロウソクや光の魔道具がもったいないので、寝る時間なのだ。
宿で夕ご飯を食べて、レクスとベッドで眠った。
翌朝、ご飯を食べて西門前に向かった。
「げ」
『人がいっぱいいるな、あはは』
「笑い事じゃないわ」
フィオちゃんだけならまだしも、なんだか見物人が多い。
まあ、最近私はG級冒険者にしては少し稼ぎがいい謎の少女として、注目を集めていた。
貧乏そうな身なりにしてはアイテムボックスを持っていて、モンスター素材や薬草を多く集めてくる。
そこへ声をかけたのがフィオちゃんだ。
こんな面白そうな話題はない、ということだろう。
何人かは実際には護衛かもしれないが、それはそれでいい。
別に監視されていようが、私は何も悪いことはしないので、問題はない。
領主の息がかかっていそうな、騎士風の人もいる。こっちは隠す気がないので、まあ、監視というよりは、私を含めての護衛なのだろう。
領主だって女の子が酷い目に遭いそうなところをみすみす見逃したくはない。
もし噂通りの「いい身分の御令嬢」だったら、助けたほうが得に決まっている。
領主のような人は、自分が動けない分、目となり耳となる人を雇っているのだ。
冒険者ギルドは、ギルド員そのものが噂話が大好きなので、ギルドの一階に酒場を作っているくらいである。
あの冒険者ギルドの酒場、実は許可制になっているエールが飲める数少ない店なのだ。
高級ワインとかは別で、安酒のエールは許可制で、あまり許可は下りない。
こういう地方都市では冒険者ギルドだけなんだと、商人のおじさんがこの前話していた。
あのおじさんもけっこうな酒飲みなのかもしれない。
私がフィオちゃんを認識して、距離が近づいたところで、手をあげる。
人混みから私が顔を出したところで、フィオちゃんのスマイルが決まる。
かわえぇぇ。
私も女の子だけど、女の子の笑顔はプライスレスだ。




