第25話 陛下の要望
さて、のんびり王都で観光とかしていないで、とっとと南国へ旅立っておけばよかった……。
というのも、カレーを食べた陛下は、もちろん添えられたレシピを使って再現して何度か食べてみたそうだ。
『それがな、このカレー、どこか物足りないのだ』
『そうおっしゃられても』
『ワイバーン肉がないのが、問題なのでは』
『そ、そんな! あれほどの肉、手に入れるのは並大抵ではありません』
『狩ってこれないだろうか』
『……』
というような話があったとか、なかったとかでしてね。
なんとかしてワイバーンを討伐してきて、また美味しいカレーを作ってくれないだろうか、という話がメレーナ商会に来ているという。
「頭痛い」
「ですよねぇ。ワイバーンなんてその辺、飛んでませんし」
基本的には山岳地帯に生息していて、人里に降りてこない。
凶暴であるがゆえに、人に遠ざけられた彼らは独自の生態系の頂点だ。
「えっと『できればレッド・ワイバーンの肉が食べたい』だそうですが」
「レッド・ワイバーンなんてどこにいるんだよ」
「知りませんわ」
レッド・ワイバーンは「伝説」では、ワイバーン肉の中でも美味しいという噂だった。
しかしワイバーンの中でも最強クラスで、レッサー・ワイバーンの倍くらいの体格があった。
ここからやや東のほうに山がある。
マクライア山からみて北側にあるのだけど、エステーナ山だったっけ。
「エステーナ山にいるんでしょ、知ってる。知ってるけどさぁ」
そこは魔境と言われる、魔物の住処で、人間がほいほい立ち入る場所ではないらしい。
もちろん、上級冒険者は何名も活動していて、そういう意味でも有名なのだけど。
それでもワイバーンの討伐なんて、国中で年に一回あったらいいほうだ。
「パパ様」
「オーマイガー」
「しっかりしてよぉ」
「かたじけない。どうしても、と念を押された」
「もう、人がいいにもほどがあるんだから」
私を連れて歩くのも、人がいいからだけども。
それとこれとは危険度が違う。
「カッパー級に、無理だよぉ」
「ですよね。レナ様」
「でしょ~」
私たちは、あきれてものが言えない。
でも、私たちの魔法と剣があれば。
武器も新調した。
防具もいいものに変えたばかりだ。
ほんのちょっと、できる「気がする」のがいけない。
完全に無理なら「無理です」と言うしかない。
拒否して首が飛ぼうが、どうせ死ぬなら一緒だ。
しかし、私たちには、騎士団の護衛などがついたとして、それで狩りに行けば「もしかしたら」という可能性があった。
前回も、闇魔法で拘束して、上級火魔法で仕留めるという、テンプレートがある。
「どうしよう」
「行くだけ、行くしかないでしょ」
「ふふふ。私も一緒に行くぞ。どうじゃ」
「わわ、妖精様。どこから出てきたんですか」
「仮契約している。距離など妖精族には関係がない」
「そうなんだ……」
「きゅぴぴぴ」
「どうしたの、レクス」
『ワイバーンのやつめ、今度こそ、この手で』
「オーやる気だ」
「あははは、面白いではないか」
レクスも俺がいるぜと主張している。
しょうがない、ちょっと行ってくるか。
負けたら負けて帰ってこよう。
どうせ、私たちより騎士団のほうが強いとも思えない、魔法に関しては。
そうそう、この世界の魔法使い。
というかこの国では魔法使いはあまり数もいないし、それほど重用されていないのだ。
魔法使いのほうが、一騎当千とかできそうなのにね。
変な国。
国軍では騎士道がすべて、みたいな剣技での実力が重視されるそうで、魔法使いはその補助なんだってさ。
私たちみたいな特殊なタイプの魔法使いがさらに少ないこともあって、そうやって魔法使いの肩身は狭いのだ。
まあ、一番美味しいといわれる「ドラゴン」狩ってこい、と言われなかっただけ、マシということにしよう。
ちーん。
結局騎士団とも相談の上、三日後に出発と決まってしまった。
三日後。
なんということはない、騎士団が馬車の列を作って門を出ていく。
こういう出陣は、訓練や道の補修の時にもたびたび発生しているので、町の人は普通だと思っている。
でも、今回はレッド・ワイバーンの討伐任務なのだ。
「エステーナ山へ、出発する!」
「「「おおおおお」」」
思ったよりやる気だ。
まあ、士気が低いよりはマシか。
私はこれをプラス評価だと思うことにして、先に進む。
「結局来ちゃったね、フィオちゃん」
「レナ様も、人がいいんだから」
「まあね、誰に似たんだか」
一瞬、父親と母親を思い出す。
父親は確か、青髪だったと思う。そして母親はピンク髪だったことは覚えている。
一緒にいたころは、よくしてくれたし、小さいながらも世話をしてもらったので、感謝もしている。
でも、どこ行っちゃったんだろう。
ギルドには死んだと報告してあるけれど、実際には行方不明というか、なんか用があるみたいで、死んでないかもしれない。
その辺、あちこちいけば、もしかしたら会えるかも、みたいな軽い気持ちもある。
会えたら会えたで、うれしいけどね。
でも、どうなっちゃってるか分からないし。
幼い子供をばあばがいるとはいえ、残してくかね、普通。
きっと大変な事情があるに違ない。
そう思っているけど、もしかしたら髪の色のせいかもしれないんだよね。
銀髪で生まれた私。そしてピンク髪の聖女特性のある、お母さん。
自称レベルでよければ聖女なんて何人もいる。
それほど気にはされていない。
全国にも、有名な聖女様が今も数人はいるはずだ。
その中の一人にすぎない、とは思うんだけどね。
まあ、こうやって親のこと考えるだけ、余裕が出てきたのかもしれない。
さあ、やってやるぞ。レッド・ワイバーン退治。
待ってろよ。




