第16話 孤児院と病院
教会には孤児院と病院が併設されていた。
子供たちも元気がない子や身寄りがない子など、事情がある子ばかりだった。
「なるほど……」
身寄りがないのはどうしようもない。
「これが、マーリア草、ちょっと高く売れる」
「へぇ、すごい」
「こっちが、クベレケ草。安いけどよく生えているからたくさん採ればそれなりのお値段になるよ。初級回復薬の材料の一つだね。複数レシピがあるんだ」
「すごいすごい」
子供たちに薬草の知識を教えていく。
薬草は別に草原に行かなくても生えている。
そう、例えば孤児院の裏庭なんかにも実は生えていて、ここにはクベレケ草が群生していた。
これだけでもちょっとしたお金になる。
「これ、全部、売れるの?」
「そうだよ。でも全部取っちゃったら、もう生えてこないよね」
「うん……」
「だから、半分だけ、みたいにちょっとずつ取って売るんだ」
「すごいすごい」
私と同じくらいの年齢だろうか。
日本で言えば小学一年生くらい。
そろそろお買い物とかお金が何か、とかくらいは理解している。
そういう子に薬草を採ってきて売ればお金になると教え込んだ。
これで少しは孤児院の食事事情も改善されるんじゃないかな。
「それでこれとこれはハーブにいいよ。ちょっといい匂いがするんだ」
「ほんとだ!」
「どれどれ、ああ、いい匂い!」
ついでに食べられるハーブも教えておく。
こちらでも麦粥が主食だから、ハーブを入れる一工夫は大事だ。
「それで、これは塩もみにして食べると美味しいよ」
「お塩!」
「やってみたい!」
おかずを増やすのも大事だ。
タンポポみたいな葉っぱは塩もみしてお浸しにすると美味しい。
家では大根の塩漬けとか作ってたしね。
それで、ワンポイントでも麦粥に載せて食べると。
こういうちょっとした工夫が食生活を豊かにするんだ。
そして病院。
「我、彼のものに癒しの力を与えたまえ、ヒール」
私の髪の毛がピンク色になり、部屋にピンクの粒子が広がっていく。
……やってしまったのだ。
ケガで入院している人がおり、ヒールをかけた。
「すごい、治った!」
「このケガが治るのか!?」
「ヒール」
他の人にも治療を施していく。
ちなみに、病気にはポーションのほうが効きやすい。
上級のヒールは部位欠損も治せるが、そもそもできる人は少ないんだって。
私のお母さんは普通にできるみたいだったけど。
前に村人で、クマにやられた酷いケガの人がいて、治療したのを見たことがある。
「こ、これは……」
やはり酷いケガの人もいる。
「さすがに治らないだろう、これ」
「我、彼のものに妖精の力をお借りし、癒しの力を与えたまえ、ハイ・ヒール」
上級回復魔法だ。
できない、とは言えない。
私の銀髪はこのためにあるのだ、と思っている。
ある時は火魔法を使う、魔法使いに。
そしてまたある時はピンク髪の聖魔法を使う、聖女に。
必要とあらば、その姿を現す。
なんちって、ちと格好つけすぎか。
病気が治った病院内はそれはそれ、大騒ぎになってしまった。
私は顔が割れる前に、さっさと逃げるに限る。
こうして、謎の聖女様事件は、誰だったかもわからずに、その少女は秘匿されたという。
「銀紙の聖女様だったよぉ、でもこれは秘密だからのう、おほほ」
おばあさんたちも人が悪い。
聖女を悪用しようとする人がいることを知っているのだ。
現に、何十年も前にフレミスに現れた聖女様は、治療の限りを尽くし世界を旅したそうだが、最後には疲れ切って死んでしまったと言い伝えられている。
「聖女は、祝福であり、呪いなのだ」
そう言われているのだ、ここフレミスでは。
だから、このようなかわいい聖女様はそっと置かれて、また来てくださるそのときをジッと待つのみ、というのが年寄たちのせめてもの歓迎だった。
そんなことを数日のうちにしていたんだけど。
そういえば、領主フレミス伯爵と会う約束をしていた。
忘れていた。
急いでお城に手紙を届けて、いつにするか確認をした。
べつに大丈夫だそうなので、後日、吉日にでもやろうという話になった。
私は野菜とかを買いそろえて、カレーの準備をした。
「おお、レナちゃん~。今日は買い物かい?」
「うん、ちょっとお野菜を買いに」
「レナちゃん~。薬草また売らないのかい?」
「また今度~」
私もだいぶ、町に馴染んできた。
フレミスは大きな町なのでバザールも、マクネスみたいに通り一つだけに収まらない。
バザール地区というのがあって、その全体がマーケットになっていて、テントがずらっと並んでいる。
その横には商業地区があり、大きな商会が店を並べている。
あとは下町地区という、工業製品を作っている地区がある。武器防具農具、それから馬車とか料理道具とかそういうのだ。
フレミスは塩と小麦などの農作物を輸入していて、工業製品を地方へと売って生計を立てているんだって。
いわゆる貿易都市だね。
なんだかかっこいい。
そんなフレミスの領主、フレミス伯爵との面会の時が、刻一刻と迫ってきていた。
わわわ、私、大変。どんな格好して会ったらいいんだろう。




