第1話 銀髪幼女とボーパル・バニー
「うんしょ、うんしょ」
私、レナは桶を動かして水魔法で水をためて、顔を洗う。
田舎も田舎、ラーミ村は辺境の地だ。
私はここで生まれて一人暮らしをはじめた六歳の幼女。
銀髪に赤目のそれは、属性適性が低いことを意味している。
青髪は水魔法、赤髪は火魔法、金髪は土魔法、緑髪は風魔法。
それぞれ得意な属性の髪の毛をこの世界の人はしている。
色が濃いほうがその属性の適性が高いんだそうだ。
でも私は見事な銀。
とても綺麗だけれど、それは属性に染まっていないことを意味していた。
歳を取って高齢になると魔法の行使力も髪色と同じように弱まっていく。
『適性なしの子』
そうみなされていた。
でも、実を言えば生活魔法はすべて使える。
火も水も出せるし、風も使える。
私は水を使う瞬間だけ髪も一瞬青くなる。
すべての属性になれる無限属性だと自分では思っている。
気が付けば父は行方不明に、母も私を置いていなくなっていた。
この前から、それで一人暮らしをしている。
体力はしょせん六歳の子供だ。
それを補うように魔法を多用していた生活を物心ついたころにはしていたので、魔力量にも自信がある。
魔力量は村では一番多いと思うんだけど、実際には大したことがない。
実際にすごいのは魔力効率のほうで、この話をしだすととても長い考察になってしまうので、今は保留とする。
「これから、どうしよう」
私には前世の記憶がある。
女子高生をしていたのは覚えているところだ。
読書が好きで物静かなそんな性格だったと思う。
ある時、事故で死んだ、んだと思う。
「村を出てもっと住みよい場所でスローライフ、したいな」
冒険者とかもしてもいいけど、最終目標はゆるいスローライフ。
テントを張って焚火を眺めたり、簡単な農作業とかをしながら生活していく。
なんというか説明は難しいのだけど、そういうゆっくりした生活。
家の裏に広がる森へと分け入り、手ごろな薬草を摘むと村の薬師のおばあさんの家へと向かう。
「ばあば、薬草、置いておくよ」
「はいよ、それじゃいつもと同じように銀貨三枚ね」
「ありがとう!」
私はこのばあばことエルシール・ドゥ・モリエーナ様の弟子もどきをしていて、少し薬草や調薬の知識がある。
普段必要なのは初級回復薬だけなので、採取も家の周りですぐできる。
中級、上級、熱冷まし、解毒などのポーションも作れる。
ただそれほど頻繁には必要にならないので、活躍する機会は少ない。
それから、回復魔法。
ポーションはポーションとして、回復魔法も使える。
いなくなった母に教わったものだ。
母から直接指導されたことはこれくらいだろうか。
聖魔法はピンク色だ。
だから聖女様の髪の毛もピンクだ。
いわゆる部位欠損も回復ができる。
普通の回復薬では部位欠損は治らないからね。
そんなある日、森で採取をしていたところ、突然素早い白い獣が目の前を横切った。
そっと草木を分けて眺めると、血を流して倒れていた。
「だ、大丈夫?」
「きゅきゅ~~」
ウサギさんだ。
一角ウサギ、ホーン・ラビットにも見えるけれど、どことなく違うような気がする。
血を流していて、死んでしまいそうだった。
「今、ヒールかけてあげるからね」
「きゅぅ」
「我、彼のものに癒しの力を与えたまえ、ヒール」
髪の毛がピンク色に発光して、ピンクの光の粒が周辺に漂う。
そうしてウサギさんに集まってくると、みるみるうちに回復していった。
「ホーン・ラビットかな? ちょっと違うよね?」
普通のホーン・ラビットであれば、私はラッキーと思って晩ご飯にしていたと思う。
でも、この子は違ったのだ。
抱き上げて急いでばあばの元へ連れて帰る。
「レナ、この子はボーパル・バニーだわね」
「ボーパル・バニー」
「そうさね。かなり強い幻獣なのだがねぇ、森に何かいるのかね」
「そうなんだ」
「村人にはホーン・ラビットだと言っておきなさい」
「わかりました」
家に連れて帰る。
よほど疲れていたのか、よく寝ていたが、夜になる前に目を覚ました。
目は真紅で私にも似ている。
『君が僕を助けてくれたんだね!』
『え、なに?』
『念話だよ、僕はボーパル・バニーのレクス』
『レクス君ね、私はレナ』
『レナね』
『レナ・ミーティア』
『ふむ、家名持ちか』
『うん。秘密だよ』
『わかった』
私とレクスはすぐに仲良くなった。
「レナ、またホーン・ラビットなんか連れて」
「そんなウサギ、食べちまおうぜ」
村人からの視線は今日もきつい。
私が余裕もないのに、ホーン・ラビットを連れ歩くようになったからだった。
実際には幻獣のボーパル・バニーで、会話もできる。
『僕はホーン・ラビットとは違う!』
そういってホーン・ラビットを狩ってくることすらある。
また長い耳は周りの音をよく拾い、動物や魔物の気配に敏感だった。
「ばあば、私、村を出ようと思う」
「そうさね、そのレクスとか言ったかね」
「はい。一緒に旅をしようと思います」
「わかったよ。餞別にそうさね、初級回復薬、上級回復薬と毒消し、それからほれ」
そういってばあばは金貨を五枚くれた。
「レナは長いこと、薬草採取を手伝ってくれたしね」
「ありがとう、ばあば」
ばあばと抱擁する。
そっと見送ってくれた。
こうして私レナとレクスは二人で村を旅立つことになった。
滝川海老郎です。こんにちは、こんばんは。
ご覧くださり、ありがとうございます。
新作です。
毎日約2000文字、25話50,000文字まで予約済みです。
よければ、ブックマーク、評価なども、よろしくお願いします。
今作は、主人公レナとお友達フィオ、相棒のウサギのレクスの三人が、冒険したり旅をしつつ、スローライフを目指す、お料理グルメ系異世界ファンタジーとなります。
かわいい女の子がほんわり、ほのぼの、冒険旅ができるといいと思います。
それでは、はじまりはじまり……




