プロローグ
「……できた。やっと、できたんだ……!」
乾いた笑いが、狭い部屋に響く。
積み上がったカップ麺の山。
散らかった配線とモニターの光が、夜明け前の空気を青く染めていた。
研究者・神谷玲司――人工意識開発の第一人者にして、大学を追われた異端者。
だが彼の頭の中は、歓喜で満たされていた。
「ステータスシステム、起動完了。
これで、人間の“意識”が数値として可視化される……」
手元の端末がわずかに振動する。
その画面には淡い光を放つウィンドウ――“あの”ステータス画面が映っていた。
【L.I.F.E.起動:初期特典を選択してください】
「……フッ、これだよ。ずっと見たかった画面だ」
神谷は手を震わせながらモニターに触れる。
彼が夢見てきた“主人公最強”の世界。
それを、現実にした瞬間だった。
嬉々として選択ボタンに指を伸ばす。
ピッ。
しかし、反応がない。
一瞬、通信ラグかと思った。
だが、次の瞬間――
【初期特典はすでに受領済みです】
「……は?」
モニターの光が一瞬、薄くなった。
神谷はまばたきを数回繰り返す。
眉をひそめながら、再び指を動かした。
「エラー……?いや、そんなはずはない。テストは完璧だった」
焦りよりも、好奇心が勝った。
「ま、いっか。最初の試作品だし。初期不良くらいある」
彼はそう呟き、笑った。
だが――胸の奥では、何かが微かに軋んでいた。
「……これからだ。私の時代が始まる」
指先が震える。
眼鏡の奥の瞳が、異常な光を宿す。
彼の目に映るのは、数値化された世界。
そこに神谷玲司という“プレイヤー”の名が刻まれる――はずだった。
しかし、その瞬間。
遠く離れた家電量販店の片隅で、別の男が呟いた。
「ステータス(ボソッ)」
光は、彼の手元ではなく、別の場所へと流れていった。
神谷は気付かない。
自らが生み出したシステムが、別の人間に渡ったことを。
モニターを見つめながら、彼は満足げに微笑んだ。
「この世界に、ついに“ステータス”が誕生したんだ......私の時代が......夢の異能ライフが......!」
――だがその“異能ライフ”の幕開けを告げるのは、彼ではなかった。




