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流れ星  作者: ふみりん
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後継ぎ

「まあ、可愛い女の子ね」

一人目を無事に出産した千里は病室に面会に来た姑の言葉に含みを感じた。

千里は予定日が近づいても里帰りしなかった。結婚した時有村家の人になると心に決めていた。妾の子として窮屈な思いを捨てたかった。

「新しい人生がここから始まる」

悠治さんとの結婚は千里にとって女として、母として、輝きたいという願いを満たしてくれると信じていた。


姑はハッキリ言わないが、私に男の子を産んで欲しいと思っている。いや、産むのがこの結婚の絶対条件のような気さえする。

何故なら千代は後継ぎとして育てていた長男を戦争中に亡くしている。その後も8人の子供を子育てしてきた。四男である悠治が後を継ぐ事が叶った時はどんなに嬉しかった事だろう?

今では更にその後を孫が繋いでくれることが姑の願いであるのは女として痛いほどわかる。

千里は産んだばかりの我が子を抱き締めて話しかけた。

「生まれてきてくれてありがとう」

「あなたが後を継いでくれても良いのにね」


女は大変である。好きな人と結婚して、その人の子供を産み、育てるだけではない。後を継ぐものを残さなくてはならないのだ。


次の年に2人目が産まれた。また女の子。千里は姉妹で遊べるのでどちらでも嬉しかったが、悠治さんが少しがっかりしているのがわかった。気持ちはわかるが顔には出してほしくなかった。

同じ時期に悠治さんの兄たちに男の子が産まれた。千里は羨ましく思ったが、こればかりは仕方のない事だった。


歯科医院で仕事しながらの授乳は大変だった。一人目は胸が張ってくると家に帰っておっぱいをあげていたが、タイミングが合わずに泣き出している事もあった。2人目は最初からミルクにした。日中は悠治さんの妹達にも育児を手伝って貰って仕事に集中した。夕方からは家事をやるという目まぐるしい毎日が続いた。


実家の母にもたまに来て手伝って貰った。しかし千代さんの顔を見ると余り機嫌が良くないのがわかる。2人目はベビーシッターをお願いした。嫁は色々と気を遣う。


欲しいものは何でも買って不自由なく育てていた。経済的には余裕があり、自分が幼い頃我慢していたこともあって甘く育てたかもしれない。義妹も子供達と一緒に食事をしたり、遊んだりしてくれた。悪いことや危ない事をすると「だめよ」と注意はしてくれていた。

しかし母親でなければ厳しく躾られない事もあったろう。二人とも我の強い娘に育っていった。


1つのものを二人で仲良く使うのは難しい。相手が持っているものが欲しくてけんかになることはいつもの事だった。

「我慢する事を覚えた方が良いね」

と姑からは言われたりすると自分の子育てに自信がなくなった。


「子供達には自由に自分の好きなことをやらせたい」

これが悠治さんの願いだ。戦争で我慢ばかり強いられていた反動なのかもしれない。


数年経って悠治さんに言われた。

「もう一人頑張れる」

そう言われて無理とは言えなかった。結婚する時悠治さんの望みは叶えてあげようと心に誓っていたからだ。

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