出会い
恋愛はいつでも突然はじまる。
大学を無事に卒業した千里は郷里に戻り就職した。都会で働くことも考えたが、年老いていく母を一人には出来なかった。
暫くして若い人の集まる会に参加した。こんなときはいつもより化粧が念入りになる。
「アイライン濃かったかな」
お気に入りの香水も少しだけ…
「ああっ、タイプ」
背の高い男性が目に留まった。
瞳がとても優しそうだった。
「どうしよう」
暫く下を向いて迷っていたが、勇気を出して声をかけてみた。
「こんにちは、一緒にお話しませんか?」
千里の胸の高まりは止まらない。今にも口から心臓が飛び出してきそうだった。
学生の乗りとは違って社会人は言葉を選びながら会話する。素の自分を最初から出さずに相手に気に入られるよう気を遣う。
携帯のなかったこの時代、紙に相手の名前と家の電話番号書いて貰った。
「有村悠治 09……」
「何て綺麗な字を書く人なのだろう」
「ご職業は?」
「歯科医師です」
千里の恋は始まっていた。
穏やかに話す悠治さんの言葉には嘘はないと思った。彼の事をもっと知りたくなった。
悠治さんにも自分の名前と電話番号を渡した。その日別れてから彼からの電話を待っていた。
「かかってくるだろうか?」
心配で眠れない日が続いた。
学生の頃はその時が楽しければそれで良かった。相手のふとした仕草や言葉で傷ついたり、別れたり、また付き合い出したりした。特にクリスマスイブは一人で過ごすには辛すぎた。
「クリスチャンでもないのに、世間はバカ騒ぎしている。恋人がいない人も楽しくイブを過ごしたいのに」
一週間位して悠治さんから電話あった。
「次の休みにドライブ行きませんか?」
「はい喜んで」
千里は嬉しくて足をバタバタさせていた。
心の中で誓った。
「この恋は遊びではない。出来るなら一緒になりたい」
「でも初めからそんな感じ出すと嫌われちゃうかな?」
「何を着ていこう?」
清楚な服で奥ゆかしさをアピールなんてどうかな…
「何処に連れていってくれるのかな?」
「サンドイッチ作ろうかな」
ワクワクが止まらないとはこの事だ。
夜になって星空の中に大きなお月様を見つけた。お月様は何でもお見通しって顔をしている。
この恋がどうなるのか知ってたら教えて欲しかった。