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③死のゲーム

『六条院……。望に何をした』


『まだ何もしてないよ。拉致しただけ。今のところ、無傷だよ』


『どこにいる?』


『学校の裏山』


『すぐ行く。待ってろ』


『うん。僕もキミとゆっくり話がしたいからさ』


………………。

…………。

……。


はぁ。

はぁ。

普段の運動不足のせいで、息切れがひどい。


望は、か弱い一般的な女ではない。『闇人』であり、百キロの岩を片手で持ち上げる彼女の身体能力は、常人をはるかに超えている。男の僕よりもはるかに強い女だ。

そんな女を簡単に拉致る六条院。念の為に眼鏡ケースを持参した。


学校の裏手にある先ほどまで僕たちが訓練をしていた山の前まで来た。六条院の近くには黒服が数名。皆、殺気立っており堅気でないことはすぐに分かった。


「意外と早かったね~。そんなにこの女が大事だった?」


六条院の側には、縄で縛られた望が大木にくくりつけられていた。


「大丈夫か?」


「全然平気。眠くなってきたくらいだし」


「そっか、そっか」


涙の跡を残しても尚、僕に余計な心配をかけまいと明るく振る舞う望を見て覚悟を決めた。


「どうしてこんなことをした?」


「そんなに睨まないでよ。僕は、キミの本当の姿が見たかっただけなんだよ。興味があるんだ。キミの全てにね。だからさ、こうなったのは、なかなか本気にならないキミが悪いんだよ」


「僕は、いつだって本気だ」


「天馬君さぁ。キミのご両親は、この世界では知らない者はいないほど有名人だ。魔物討伐の世界ランキングの二位と三位の実力者だったからね。その子供、キミのお兄さん、お姉さんも今はランキング上位者。ほんと素晴らしい一家だよ。尊敬に値する。でもだからこそ、不思議なんだよね~。キミだけ普通なのがさ」


「僕は、落ちこぼれだから仕方ない。親や姉さん達とは違う」


「いやいや、それは少し違うと思うな~。だって、この学校の殺し屋になる為の特別クラス。このクラスに『特待生』として招かれたのは天馬君だけなんだから。そこにいる望さんや一二三君。彼ら一般入学者とは別次元の存在のはず」


「親の七光りってだけだよ。僕は別に何もしてない」


「はぁ……つまらない冗談言わないでよ。特待生になる為には。いや、まぁいいや。この話は。わざわざ、こんな田舎の学校に入学までしたんだからさ。僕をもっともっと楽しませてよ!」


「……藤山君を殺したのは、お前か?」


「うん。そうだよ。どうしてもキミの隣の席に座りたかったからね。仕方のない犠牲だよ」


「クソ野郎……」


六条院が、部下に目線で合図を送ると望の足元に設置した時限爆弾を起動させた。走りだそうとした僕の前に黒服が立ち塞がる。


「下手に動かない方が良いよ。この爆弾は振動に敏感だから、無理に外そうとしたら、すぐにドカンッ! だからね。解除する為の八桁コードは、この森の中にいる可愛い可愛い僕が飼ってる魔物ちゃんの胃袋に一文字ずつ隠してる。望さんを助けるにはキミが森の中に入り、魔物たちを殺して、コードを奪うしかない。ちなみにその魔物たちは全個体Bレベルだからね。普通の闇人でも十人でギリギリってところかな」


僕は、眼鏡ケースから親父のサングラスを取り出す。


「すぐに戻るから。それまで星でも数えててくれ」


望に笑いかけた。


「うんっ! 待ってるね。私、何にも心配してないよ。天馬を信じてるもん」


スチャッ……。


サングラスをかけた瞬間、世界の色が変わった。感覚が研ぎ澄まされ、緊張が吹き飛ぶ。


「好きなの持っていきなよ」


ケースに入った数多の最先端武器を無視して、戸惑う六条院の側を素通りした。


「森から戻って望を助けたら、次はお前を殺す。覚悟しとけ」


六条院の額から冷や汗が流れた。


しばしの静寂――――。


それを突き破る獣のキレた雄叫び。そして、無音。


僕は八枚の紙を見ながら、望の爆弾を解除した。


「遅かったね。五分もかかったけど?」


「ごめん。最近、体がなまっててさ」


「私の弁当屋を住み込みで手伝えば、自然と鍛えられるよ。ママも天馬なら良いって言うと思う」


なぜか少し頬を染めた望。僕は、サングラスを外すとケースの中に丁寧に戻した。


「嫌だよ。これ以上の早起きとか絶対無理だし」


ゴツ!!


また頭を殴られた。


涙目で頭をさすっている僕の側で、六条院は何かの画像をタブレットで見ながら、興奮しているご様子。きっと、先ほどまでドローンで撮影していた映像を見ているのだろう。ドローンの存在には気付いていたが落とすのも面倒だった為、無視していた。


「凄い……。本当に凄いよ、天馬君。この数の魔物を一瞬で……。しかも素手で鉄より硬い魔物の腹部を貫いてる。こんなに興奮したのは、産まれて初めてだよ!!」


興奮冷めやらない六条院は、僕の前に首を突き出した。


「もう思い残すことはない。ありがとう、天馬君」


「……………」


「………?」


僕は、六条院の頭に軽くチョップだけすると、その場を後にした。


「これ以上、面倒なことはしないでくれ。ほんっと疲れるから」


「天馬君?」

………………………。

…………………。

……………。


超ご機嫌な望に、帰りに弁当屋で余った総菜を大量にもらった。相変わらず、すごく美味かった。



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