主人公の人生はずっと幸せでいいんだ
一瞬天使の体から奇妙で不気味な魔力波を感じた、今まで感じたことのない魔力波だからなのかエネスとライムは緊張感に任せ警戒もしていた。
「エネス逃げろ!」
突然ユディに逃げろと言われ訳がわからなかった、周りに危険なモノがいるわけでもあるわけでもなく、いったい何故そんな事を言っているのか検討もつかなかったが、ユディが水魔法でエネスを強く吹き飛ばした。
エネスは少し怪我をしたようだ。
「な、なんだよ!」
メニフが何故か優しげな笑顔を見せてまた眠りに付き、ユディが必死に起こそうとしていて、一応エネスも起こしに行こうとした、だがユディに怒鳴られてしまった。
「これ以上近づかず、何処か逃げてくれ!」
「なんでさ!」
考える暇すらもなく簡潔に言おうとし、ユディのは出した言葉が、これだ。
「……もう少しで天使が魔力爆発を起こす!」
「な、なんだよそれ!」
ユディがエネスの中では絶対にありえないような、非現実的な事を言ってきて半信半疑ではあったが、一度この場から離れる事にした。
「エネス!」
メニフが血を口から吐き出しながら無理をして、エネスに伝えようとしていた。
「俺らの事を……忘れないでくれ!」
「は?急になんで」
すると天使の体がとても高熱状態になり、徐々にエネスの方まで熱が感じるようにまでなってきた。
もしかしたら爆発は本当に起きてしまうのかもしれない。
「この世界を、エネスが救ってくれ!」
ユディがそうエネスに願い叫ぶと、天使の体が爆発を起こしたかのようにとても高温な熱を体から出し、大爆発が起き爆風でエネスは吹き飛んだ。
「嘘だろ、またなのか?」
爆発した辺りを見渡したがそれらしき影もなくすぐにこの状況を理解した、エネスはこの世界に来て今日で10歳になった、だがこの歳でこの世界で、こんな悲痛を経験する者はなかなかいないだろう。
だが今は歳など関係ない、ただこの忘れる事のできない一瞬の出来事でありながら、一瞬で人の人生を変えたこの瞬間を忘れようとしていた。
「エネス……仕方ないよ」
ライムはエネスを励まそうとしているが、きっとエネスは仕方ないとは思っていなかった、そんな簡単な事で済ませなかった。
なんせ今2人が死んだ理由は、エネスにあったのだから、だがあの2人はエネスにこうはなってほしくないだろう。
「俺が2人を殺したも同然なんだ、これじゃあ本当に犯罪者だ」
自分のした事に責任を感じ、犯罪ではないが自分の最後の判断で2人を殺したのは、どうしても許せないようだ。
すると森の方から、強面な獣人の死体を食べ歩きながらこちらに近づいてくる、人?であるはずの何かが近づいてきた。
「初めまして!僕の事は知ってるかな?」
「いや、」
「そりゃそうさ!知らないよね、僕だって自分がなんなのか分からないよ!自分が何を言っているのかすら、君の前では何が何だか分からないよ!」
狂気じみた笑顔で長文を話す、エネス程の身長をした何者かがズイズイとこちらに近づいてきて、一歩後退りしてしまった。
「なんだよ、俺を捕まえにきたのか?」
高笑いしながら、死体を地面に捨て地面に座りこちらをニヤニヤと見ている」
「んなわけないじゃないの!あり得ないですよ!僕はただ君を幸せにしてあげたいだけなのにさぁ」
今のエネスに幸せという字は似合わず、そもそも今のエネスは逆に罰を受けたいと、そう願ってしまっていた、だが仲間の世界を救ってくれという言葉には応じなければリーダーとしての尊厳がなくなってしまう、いや尊厳というよりかはただの友情のようなものなのかもしれない。
「どう幸せにするってんだよ」
「キヒャヒャッ!それかい?そこだよね、普通そうだもん!僕達の教会、つまり君は僕に信徒になる条件を満たしていたから勧誘しにきただけだよ?いや、皮肉みたいじゃないか!ギヒャハハ!」
うざったらしくもあるが、エネスもこんなガキに構っていても仕方がないと思っていた、だがあんなに強そうな獣人を殺したような図が少し引っかかったが、今はこの嫌悪感という言葉が当てはまってしまう少年から逃げたかった。
「すまないが、俺はそんな所には入りたくないんだ」
不思議そうな顔をしエネスを少し見つめながら少年は言った。
「あんなに力を手に入れられるのに?」
「お前みたいなのと一緒にはいたくない」
きっと現代人なら心の中で思っている事をエネスは少年に言い、少年はショックを受けたような顔をした。
「今回は下見程度に来ただけさ、またね!」
元気よく気色悪い挨拶をし、森の中へ去って行った。
「あいつはなんだ?」
「もう、何がなんなのか分からないよ」
エネスが生意気にも涙を流した、死人が涙を流していいはずなのに、殺した側の人間が泣くなんて事もかなり狂気じみている、仲間であった者が死んだとしても殺したのはエネスであるのに。
だが法や常識と、離れたような考えがエネスを襲い泣かせたのかもしれない、もしかすると自分に対する無力さと、殺してしまった事に対する涙であるかもしれない。
「エネス……魔物から言わせてもらうと、きっと森に入ってもこっちに来ても2人は……」
ライムが言いたい事は分かっていた、どうせそんな事あの狂人を見た頃から気づいていた、でもそれじゃあエネスのリーダーとして駄目なところがないという事になってしまいそうで怖かった、今のエネスは自分を責めなければいけないような立場でそんな感情しかなかった。
「分かってる、でも俺はリーダーだ」
「エネス、こんな姿ネヴェアやメニフ、ユディに見せられる?」
何かに気づけたが、エネスはもう立ち直れないに違い、そんな立ち直れないような姿すらも見せたくはないが、もう諦めたかった全てを投げ出して逃げたかった、でもエネス自身が起こした戦争も物語の結末も見れていない、そんな状態じゃまだ死ねない。
「分かってるけどもう、俺は戻れない」
「皆んなは、きっと許してくれてる……軽率な判断だったかもだけど、まだあの死に方なら良かった方だよ」
ライムが言った通りなのかもしれない、森の中に入ればあの少年に殺されていたかもしれない、だがそれを受け入れれば憶測と言い訳で殺してしまったにすぎない。
「死に方に良いも悪いもないだろ!死に変わりはないんだ!」
「仕方ないだろ、モンスターの戯言と思ってくれて構わないからさ」
エネスとライムが喧嘩をしたのは、これが初めてなのかもしれない。
するとエネスが涙を流しながら、何かを決断したかのような顔をし、ライムに言った。
「なぁ、契約を……解く方法はあるか?」
「あるけど?」
「ならもう、ライムにこれ以上俺の惨めな姿は見てほしくないんだ、契約を解いてくれ!」
エネスが笑顔で、辛そうに言うとエネスは最初は驚いていたが、今じゃエネスの立場に立ち契約を解く事にした。
「……分かったよ、これでさよならかもね」
魔物が涙を流すなんて話、神話でしか聞いた事がなかったエネスはそれにも驚いていたが今はただそんな事より、この正しいはずの別れがとても辛かった。
ライムは笑顔で何かをし、契約を解いたのだろう、ただ契約が解かれてもエネスとライムの友情は消える事はないだろう、もしかしたらこの2人でいた時間のおかげでエネスの決断がさらに良くなるかもしれない、それに契約が解かれただけでエネスがこの世界で苦しむ事はきっとないだろう。
「今までありがとう」
涙を流してライムに伝えると、ライムは森へ去ってゆく。
エネスも夢の国エンゼルトへ向う……いや向かおうとしたが、一歩踏み出そうとした所で踏み止まりライムの去って行く方を向き悲しそうに、そして嬉しそうに叫んだ。
「もし、俺がこの戦争を止めたら!俺達の契約の地に集まろう!」
「分かったよ、僕はエネスを応援してるよ!」
2人は笑顔を見せ、エネスは夢の国に1番近い王都へ、ライムは森へ行った。
何故だか、心が大きく揺れ壊れてしまいそうなくらいに悲しく泣きたかったのに、泣く事すら今のエネスにはできないようだ、だがそれでいて何故か満足そうにもしていた。