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第十三章「共に支え合い、歩んでいくために」3

 次の日、目を覚ますと恵美ちゃんからの着信が入っていた。

 静江さんの卒業式へ一緒に挨拶に行く約束をしていたから連絡をくれたみたいだ。

 

 往人さんが一度起こしてくれた記憶がまだ僅かに残っていて、寮生にバレないよう朝早くに帰宅してしまったのだろう。

 私はなかなか寝付けず夜更かししたせいもあって、疲れのあまり二度寝してしまって、起きるのが遅くなってしまったようだ。


「うぅ……目を覚まして恵美ちゃんに連絡しないと」


 私は掴む往人さんの身体もぬいぐるみもないまま、身体を起こして朝支度を始めた。フェロッソは朝食の時間を待っていたのか、起きたばかりの私の身体にずっと付いてきて離れなかった。


 のんびりと休日気分で過ごす時間はなく、朝食を摂り、化粧をしている間に恵美ちゃんは寮室にやって来て、私は慌てて準備をして寮室を出た。


 春風がそよぐ慶誠大学まで続く桜並木。話に聞くと恵美ちゃんはボブカットにして髪を短くしたようだった。

 私は華鈴さんの助言により一度キャラメルブラウンに染めたくらいであまりこの在学中大きく雰囲気を変えたことはなかった。


「ちょっと寝不足な感じ?」

「うん、引っ越し作業をしてたら、ついつい夢中になっちゃって」


 ずっと寮室で昨日は過ごしていたこともあり、重い真実も惚気話もしたくなくて、私は少し嘘をついた。


 恵美ちゃんは特に態度を変えることなく、静江さんの晴れ姿を楽しみにしていた。

 大学の卒業式は学部ごとに日程が分かれていて、私は事前に知っている情報をもとに恵美ちゃんと同時視聴会場に向かって、静江さんの卒業式が終わるのを見守った。


 2025年度秋学期卒業式・学位授与式が挙行され、多くの卒業生・修了生が出席し、学長より学位受領者代表および博士学位受領者へ学位記が授与された。新たな門出へと向かう姿に恵美ちゃんは自分達は再来年だねと口にして、想いを馳せているようだった。


 卒業式会場の外まで出迎えに向かうと、紫色の学位記を手に同じく卒業生の友人と記念撮影をしている袴姿の静江さんの姿があった。


 私は恵美ちゃんが様子を説明してくれるのを聞きながら、卒業の日を迎えてしまった無情な時の流れを実感して胸が苦しくなった。


 静江さんは今日を最後に地元の宮崎で働くことになる。

 お姉さんの事情が絡んでいて、関西での就職を諦めて地元に帰ることを選んだと話してくれた。

 

 ――二人とも来てくれてありがとう。せっかくだから一緒に写真撮りましょう。


 恵美ちゃんが先に声を掛けに行ってくれたおかげで、静江さんがこちらを向いて優しく声を掛けてくれた。

 どことなく緊張の入り混じった高揚した声。


 次にいつ会えるのか分からない、これが最後かもしれない。

 そう思いながら静江さんを中心に私は隣に並んだ。


 ――郁恵さん、笑って笑って! またきっと会えるから。この街は私にとって大切な場所。きっとまた帰って来るわ。


「はい……すみません、つい感傷的になってしまって」

「そうよね、その気持ちはよくわかるわ」


 名残惜しそうに静江さんも口にする。それでまた切なさが込み上げてくるが、私は静江さんの明るい声を思い出して笑顔を浮かべ、撮影を終えた。


 静江さんはフェロッソにもお別れの言葉を告げて、友人達と遠く離れていった。

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