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第十一章後編「サンドアートヒストリー」4

「どうぞ、入ってください。寮の中ですので大騒ぎするわけにはいきませんが」


 寒さに負けずようやく学生寮まで辿り着いたが、ここは女子寮であるだけに、男が入るには相当な覚悟が必要だ。


 結果的にこうなってしまった急展開に俺はまずは心を落ち着かせ、静かに他の誰にも見つからないように慎重に寮室に入った。


「往人さん……ここまでずっと胸が苦しくて我慢してきました。

 二人きりだから……もういいですよね?」


 閉められた扉が施錠され、靴を脱いで寮室に入った途端、郁恵は何か耐えられない感情を押し殺しながらそう言った。


「郁恵……」


「私のこと、軽蔑しないでくださいね。普通はどうするかなんて知らない私に、加減なんて分からないですから」


 我慢できない様子で、切なく一言断りを入れて、リードから手を離すと唐突に抱きついて来る郁恵。


 一緒にいたのに、手を繋いでいたのに、堪え切れない寂しい思いをさせていたことに俺はようやく気が付いて、雪のように柔らかい身体を抱き締め返した。


「我慢してたのは、俺も同じだよ」

「よかったです……お願い、頑張って我慢していたご褒美をください……」


 切なげに声を震わせ俺を求める郁恵。

 俺はマフラーが床に落ちたことも気にせず、その愛くるしい姿に呼応して唇を重ねた。

 そこからはもう、理性を抑えることの方が困難だった。


「はむぅ……ちゅ……ちゅ……んんっ……ダメ…!! 往人さん……ドキドキしちゃうのっ……ちゅ……ううんっ……もっと吸ってっ……あふっ……ちゅっっ……はぁ……はぁ……」


 激しくも切なく、甘く蕩けるようなキスがまた何度も続けられる。

 

 何処からともなく衝動が溢れて来て、舌を絡め合い唾液で口元が汚れてしまうのも気にならないほど、俺と郁恵は強く抱き締め合い、情熱的に身体を求め合った。


「どうしてこんな……好きです……往人さん……ねぇ……欲しくて堪らないです。もっと、私にください……ちゅ……んんっ! はぁ……あふっ」

 

 郁恵は刺激的な部位に触れるたび、初々しく甲高い声を上げ、必死に恥ずかしい行為に耐えているようだった。


 着衣が乱れていくことを気にせず、互いに求め合い、郁恵からの甘嚙みを受けると、俺は痛みよりも強い刺激を受け、愛おしい欲情が増幅した。


 頭が真っ白になり、身体の力が抜けてしまうまで肉体接触を続け、最後には

力尽きたように息を切らし、ソファーに寝転んだ。


「大丈夫か、無理をするなよ……身体に響くぞ……」


 休むことなく触れ合いを続け、心配になるほどに郁恵は息も絶え絶えに興奮していた。

 慣れない作業にも果敢に挑戦して、冬にもかかわらずお互いに汗だくになってしまい、息を整えるだけで時間がかかった。 


 そして、ようやく愛に飢えた行為から覚め、正気に戻ったと思った次の瞬間……郁恵は一気に目が覚めるような大声を上げた。


「ごめんなさい!! 許してください!!

 私が変なんです……胸が苦しくなって、我慢できなくなって。

 往人さんが欲しくて堪らないんです。

 甘えたくなってしまうんです!!」


 もう一度大丈夫かと話しかける前に、人が変わったように半狂乱になった郁恵が叫び声を上げる。

 後悔と反省の言葉を口にしながら脱いだセーターを握りしめて、下着姿を隠して身体を丸くする姿は酷く痛々しく見えた。


「こんなつもりじゃなかったのに……。

 往人さんと別れて、寮室で一人になった時を考えると怖くて……。

 私……耐えられなくて寮室でこんなことを……ごめんなさい!!」


 自分の身体に起きた異変をまだ受け入れられていないのだろう。

 郁恵は何度も謝罪の言葉を続けた。


「そんなに自分を責めなくていいさ……俺はちっとも嫌じゃなかったよ」


「私は……軽率な自分を許せないんです……。

 もっと、誠実なお付き合いをしたいって思ってたのに」


 一度知ってしまった快楽を抑えつけることは難しい。

 そのことを知った郁恵は後悔に苛まれていた。

 これもきっと、少しずつ慣れていくしかないのだろう。

 

「大丈夫だ、焦らなくていいよ。俺は逃げたりしないから」

「ありがとう……ございます。全部、私の我が儘なのに」

 

 今まで見たことのなかった落ち着きのない郁恵の姿。

 俺はそれを目の前で見ながら、それが郁恵の正体なのかもしれないと思った。


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