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第八章「桜の木の下で」1

 ――2025年4月

 ――季節は過ぎ去っていき、長い冬は雪解けの時を経て、俺の暮らす(きょう)(みやこ)は再び春の訪れを迎えた。


 地元住民が暮らす穏やかな雰囲気を纏う郊外から、観光地へと向かうと日本家屋が立ち並ぶ歴史的街の景観へと移り変わっていく。

 そこには由緒ある風景に溶け込むように着物で歩く人々が見られ、観光でやってくる旅行客もこぞって着物レンタルを利用していた。


 歴史都市、京都としての景観を守りながら都市開発が進み便利になった都も桜の開花時期を迎え、桜並木の通りや公園でも花見客が多く見られるようになった。


 有名な寺や神社が大変な混雑しているのはもちろんのことだが、過ごしやすい気候へと変わったことで街は一段と明るく活気づき始めていた。


 伝統文化の継承や建築物の高さ制限にまで気を配った都市計画により現在もなお歴史的な景観は守られ、山紫水明(さんしすいめい)と称えられる歴史の息づく街はすっかりインバウンドのおかげもあり人で賑わう観光地となっている。


 前田郁恵と出会ってから一年以上、再会を果たしてから早くも半年が過ぎたことになる。

 幼い頃から描いてきた絵画の方に目立った進展はないが、郁恵をキャンバスに描く内に徐々に頭の中で色が想像できるようになってきた。

 想像が出来たからといって作品の出来にすぐに反映できるわけではないが、モノクロ絵画ばかりにこだわるのではなく、色を取り入れた作品を制作するモチベーションも上がってきている。

 四年前に母が亡くなったショックから失意に堕ちていってからというもの、精神的な喪失感から段々と色を想像できなくなっていただけに、郁恵との出会いで前向きな方向に進んでいるのは喜ばしい出来事だった。


 郁恵がもし筆を()り絵を描いたなら、その絵にも母親のように色が宿るのか。

 潜在的な興味関心はあったが未だ実験をしたことはない。きっと、俺は郁恵のとの関係を重視して慎重になっているのだろう。

 しかし、母親のような立派な芸術的絵画を描いていた画家とは違い、郁恵は目の見えない普通の女性だ。

 俺はそんな都合のいいことはないと思っている。

 

 だからこそ、自分の力でもっと描きたい理想に近づけること、そのことを目標を掲げながら、俺は師匠と暮らすアトリエで絵を描き続けていく。



 立派に咲き誇るしだれ桜が見られる通りのすぐ近くになる河川敷で花見を開催することになり、主催の美桜さんの指令により、男手として俺は駆り出されることになった。

 郁恵とよく一緒に喫茶さきがけにやって来る友人二人も同行して来るそうで、何故か知らない内に俺の師匠も誘われていたようだ。


 桜が見頃の間に開催したいというのは画家である俺や師匠には嬉しい話しであるため、断る選択肢はなかった。


 バーベキューも出来るという河川敷の会場。

 美桜さん的には穴場とのことで、桜の木の下というわけではないが、遠くにあるしだれ桜を花見しながら楽しめるようだった。


 美桜さんの父親であるゴツイ体格をした店長に会場まで車で一緒に送ってもらい、朝から準備を手伝う。陽が昇ると冷たい空気から暖かい空気へと変わり、心地よく準備に取り掛かることが出来た。

 しかし、年齢を感じさせない張り切った様子の美桜さんに早くも身体が重くなり付いていけない。店長は用事があるからとすぐに出かけてしまい、二人で支度をする羽目になった。


「私は深愛(みあ)さんの描く風景画とっても好きよ。好きだったなんて言うつもりはない。今でも敬愛してやまないわ」


 一体何を考えていたのだろうか、テーブルの設営をしている最中、唐突に美桜さんの方から俺の母親の話しを振って来た。

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