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第七章「fall down」2

 診断の結果、左腕を骨折した私は、ズキズキとする痛みを抱えたままギブスを取り付けられた。


 不注意のせいでこんなことになり、自分が嫌になるが、坂倉さんの気持ちを考えると、そんなことも言っていられなかった。 


 病院を出た私は静江さんの手を借りて家まで送り届けてもらった。日本の病院に入るのは久々のことで、長い入院生活をしていた過去の嫌なことを思い出しそうになり、そのことの方が何か身体に悪影響を及ぼしかねなかった。


 大事には至らなかったが、骨折という大怪我を負った私を静江さんは心配してその日は泊ってお世話をしてくれることになった。 


「ありがとうございます……本当に申し訳なくて……すみませんでした」


 骨折くらいは長い人生するものだと聞いてきたが、実際に経験すると不自由なことが多いことに気付かされる。痛みがまだ身体に響く分、片手で家事などをするモチベーションもなかなか湧いてこない。


 静江さんが隣にいてくれなければ、もっと心が折れてしまっていたことだろう。

 学生サポートスタッフに過剰な支援を受けるのは角が立ってしまいそうで心苦しかったが、今はそんなことを言える余裕もなかった。


「そんなことないわ。もっとしっかりガイドヘルプをしてあげられたら、こんなトラブルだって防げたわ」


 電気の消した狭い寮室で静江さんが答える。

 ベッドは一つしかないので、静江さんには寝づらいソファーを使ってもらっている。それだけでも私は申し訳ない気持ちだった。


「十分すぎるくらい、普段から支援していただいています……だから、そんな風に言わないでください」


 静江さんだけではない。目の見えない私のために多くの人が支援の手を差し伸べてくれている。これは私の我が儘が招いた、自業自得だ。


 不甲斐ない自分が悔しくて、自然と零れていく涙が止まらない。

 仲直りをするつもりが坂倉さんのことをまた傷つけて、自分は怪我をしている。

 静江さんには泣き腫らした瞳は見せられない。私は静かに抱き枕を抱えながら泣いた。


「ねぇ……どうしてそこまで、あの人にこだわるの?

 あの時に走り去っていったのは坂倉さんでしょう?

 こんなこと言いたくないけど、関わるのは止めた方がいいわ」


 言い争っていたのをどこまで聞かれていたかは分からない。

 でも、静江さんには坂倉さんの姿が見えていたようだ。

 咆えたフェロッソの鳴き声で駆けつけてくれたのだと思うが、静江さんからこう言われてしまうのは胸が苦しい思いだった。


「ごめんなさい……諦めたくなくって。


 悪い人じゃないんです……話せばきっと分かってもらえるって。


 ただ、私は信じたくて……本当にごめんなさい……」


 昂った感情が抑えられず、弱音を口にしてしまう。

 きっと私は、自分が間違っているって認めたくないんだ。

 だから、届くまで何とか坂倉さんに訴えかけようとしている。

 でも、それは簡単なことじゃない。それは、静江さんの言う通りだった。


「ごめんなさい……私もよく知らないのにきつく言ってしまって。

 今は早く腕を治しましょう。私も出来るだけ手助けしていくから」


 優しい言葉を掛けてくれる静江さん。

 寒さが増していき部屋の中にいる時まで辛くなる冬の季節に、眠れない悲しい夜が続いた。

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