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プロローグ「春を待つ坂を上って」4

 未来への希望を乗せた入試が終わり、疲労感でクタクタになりながら坂道を下った。私は駅前に着くとスマートフォンを開き、早速地図アプリ(アイナビ)を開いて現在地を読み込ませる。

 自宅までの経路は登録しているので簡単に案内を表示してくれるが、私は少し一休みしたいこともあり近くの公園を目指すことにした。


 普段は盲導犬を連れて街を歩いている都合上、一人で歩くのは久しぶりのことで新鮮な気分だった。

 ネックストラップにぶら下がったスマホの案内音声を時折聞きつつ、持ち手側にリボンと鈴の付いた白杖片手に初めて歩く道を進んでいく。


 すれ違う人やその気配、通りすぎる車の音などにも耳を傾けて、白杖で障害物がないかを確かめながら慎重に進む。


 太陽の陽射しが差し込んでくるのを感じるとすぐ先に交差点があることを想定しておくと安全性がより確保できる。


 信号のない横断歩道を渡るのは緊張するが、点字ブロックを目印に停止位置を見極め車の走行する音が途切れたタイミングで渡っていく。


 途中で周囲の人の声掛けもあって、正しい道順を教えてもらいながら公園まで無事に辿り着いた。


 私は汗を拭い、ホッと一息付こうと背もたれの付いたベンチに座った。

 リュックサックから水筒を取り出し温かい緑茶を飲んでリラックスする。

 まだ昼間ということもあり、何とか寒さに負けず耐えられそうだ。


 親子連れで賑わっていてもおかしくないが、寒さのせいか静かで人の気配がしない。

 私は上を向きだらんと後ろにもたれかかりながら両手を大きく開いた。


 すると固い物に手が当たった確かな感触がした。それが何か確認しようと私は姿勢を戻して身体を一度起こすと、そっと近づいて手を伸ばしてみた。


 冷たくて固い異様な重量感、それが金属製の頑丈なアタッシュケースだと気付くのにそれほど時間は要らなかった。


「どうしてこんなところに置いてあるんだろう……」


 周りに人の気配はなく、疑問ばかりが浮かぶ。

 忘れ物という可能性が最も高いが、周りの目もなく頼る相手もいない私は興味本位でアタッシュケースを開いてみることにした。


 ずっしりと重いアタッシュケースを震えそうになる手で開く。鍵などは掛かっておらず、あっさりと開かれてしまう。


 中身を確認しようと手を伸ばし、その感触によく覚えがあることに気付く。

 ミツマタの独特の手触り……いや、これはやっぱり諭吉福沢の一万札!

 それも札束となってアタッシュケースの重量感を上積みするほど隙間なく敷き詰められているなんて……。


 まさに刑事ドラマで騒いでしまう時のような状況だ。

 目が見えなくても手触りや大きさの違いでお札の種類は見分けられる。

 だが、そんなことを考えられなくなるくらい、頭が真っ白になる状況に直面してしまった。


「どどどど……どうしましょう。大変な物を拾ってしまいました。

 困りました、こういう時ってどうすればよいのでしょう……」


 夢のようだけどアタッシュケースの中は札束がいっぱい……。札束で頬を叩いてみても、夢が覚めてくれません。これは現実のようです……。


 きっとこれだけの一万円札があれば世界一周旅行に行ってもお釣りが返って来るでしょう。私がどれだけ頑張っても一生掛けても貯めることの出来ない金額、それが今目の前にあります。

 穴があったら入りたい。恥ずかしい訳じゃないけどそんな気分です。


「何か挙動不審に見えるが、面白い物でも見つけたのか?」


 どうしていいか分からず困り果て、パニック状態になっていると頭上から若い男性の声が聞こえた。

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