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視えない私のめぐる春夏秋冬  作者: shiori@


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第四章「summer treasure」1

 週が明けて次の土曜日、講義が午前中までだった私は日頃お世話になっている歩行訓練士の資格を持つガイドヘルパーの川崎翠(かわさきみどり)さんを連れて外出に出掛けることにした。


 喫茶さきがけで晶子(あきこ)さんと呼ばれていた天才的なピアニストの不思議な女性。

 その方に紹介されて、ピアノの演奏会もあるとのことで、障がい者の方々の芸術活動を応援する年に一回のノーマライゼーション絵画展にやってきたのだ。


 現地で一緒に同行してくれることになった静江さんとも合流を果たして私達は三人でピアノの演奏を聞くことになり講堂へと入っていく。


「へぇ……郁恵さんもピアノ演奏が出来るんだ。目が見えないと演奏するのは難しいって聞いているのに、頑張ってるのね」


 三人で並んで座り、演奏が始まるのを楽しみにしている中、静江さんは尊敬の眼差しを感じられるニュアンスで言ってくれた。静江さんには気を許しているので、多少はピアノが弾けることも抵抗なく話すことが出来た。


「それはまぁ……保育士を目指していますので。

 人並みに難しいことにも挑戦したいなって思ってオーストラリアにいた頃に頑張りました。

 ありがたいことに子ども達の前で演奏する機会も与えて下さって、その時にみんなとても喜んでくれたので、見えない私でも音楽で繋がることが出来るのは大きな経験になりました」


 二人の前で懐かしい思い出話を披露する。

 オーストラリアで過ごした四年間はまさに異文化交流が詰まった四年間そのもので、新鮮な経験を多く得て生きる力と勇気をくれた。

 だから、これからは少しでも自分が出来ることで恩返しがしたいと私は思っている。


 それから演奏会が始まると、車椅子を利用している方や私のように視覚障がいを持った方が次々に素敵な演奏を披露してくれた。

 クラシック音楽ばかりではないが、私の好きなチャイコフスキーもあり、ショパンやベートーヴェンの定番曲も聞くことが出来て、退屈することのない充実した時間を過ごすことが出来た。


 途中、私はお手洗いを我慢できなくなって川崎さんと一緒に席を立った。

 人が密集した講堂から離れていくと、演奏の音も連動して遠ざかっていく。

 お手洗いを済ませ、少し気になって静けさに包まれている絵画展の方に足を向けた。


「少しだけいいですか?」

「絵画展に行きたいの?」

「はい、ちょっと気になって」


 川崎さんにそう断りを入れて絵画展の方に向かって白杖片手に歩いていく。

 私の寮室には砂絵を置いていることもあり、川崎さんは芸術にも関心があるのだと察して疑問を口にすることはなかった。

 

「こんなところで会うとは驚きだね」


 絵画展に入りすぐに声を掛けられ私は足を止めた。そこで再会したのはミスコン委員会のメンバーしている医学生の坂倉井龍(さかくらいりゅう)さんだった。


 思いがけない場所で思わぬ再会をしてしまい警戒心が高まる。だけど、どうしてかこんなところで再会した偶然に惹かれるものを感じた。


「あなたはここで何をしているのですか?」


「俺は画商の真似事をしていてね、未来の画家に投資をしているんだよ」


「どうして、わざわざここで?」


 ここは障がいを持った人達の作品が展示又は寄贈されている場。

 画商というものが画家の絵画や版画を買って売ることを商売にしている人のことを指していることはもちろん知っているが、坂倉さんがここにいる本当の目的が気になるところだった。


「生まれた才能を発掘するのが画商の仕事さ。障がいを持っているか否かは関係ない。ただ俺は気に入った絵画を引き取っているだけさ。


 金に物を言わせて名画と分かっているものを買うのは、只の金持ちの道楽だよ。


 俺がここにある絵を買うことで才を持った若い画家の助けになる。

 将来有名になってくれれば、俺も価値のある名画を持つことになるわけだからな。 

 だからさ、俺にも得があって、この絵画を描いた画家にも得られるものがあるということなのさ」


 饒舌に説明をしてくれる坂倉さん。その声のトーンからするに、彼はここに来るのを楽しんでいるようだった。


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