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第二章「dear my friend~砂絵のある部屋で~」1

 肌寒い春風から少しずつ暖かい風薫る季節へと変わり、短い桜の開花は終わりを迎え夏の気配を漂わせる。

 マスクを着けて花粉症対策をしながら、私もようやく新しい日常生活に慣れてきた。


 そして、最初の大型連休であるゴールデンウイークが迫ったある日、私は仲良くなった学生サポートスタッフの静江さんと同じ社会福祉学科の恵美ちゃんを寮室に招待することにした。

 日頃の感謝を込めて、カレーライスを調理して二人に振り舞う。それが私なりに出来る範囲で考えた恩返しの形だ。


 限られた寮室のスペースを圧迫させていた段ボール箱も無事に片付けてすっかりさせたので、二人を招待しても窮屈させなくて済みそうで一安心である。


 前日に訪問看護と一緒に苦手な部屋の掃除を行い、程よい汗を掻いて準備に必要な買い物を終えると、連休初日はあっという間に通り過ぎて行った。


 ―――そして、二人を招待する日がやって来た。

 

 休日ともなればより長い春眠に導かれていく。

 朝起きて気が付くと抱いていたはずのイルカのヌイがフローリングの上に転がっていた。

 イルカさんをフローリングの床から救出して再び胸に抱き入れ、スマホを掴んで時刻を確認すると、すっかりいつもの起床時間を過ぎていた。

 二人がやって来るのは午後からなのでここは焦ることなく、フェロッソの散歩に繰り出すことにすると、私は焦ることなく身支度を済ませた。


 昼間になっていくにつれて暖かくなっていく穏やかな日常。

 技術的な進歩によって雨の予報は正確になり、雨雲レーダーを事前にしっかり調べていれば雨に打たれることも少なくなった。

 安全に歩ける散歩コースも確立して急ぐ時やまったり公園で過ごす時などバリエーションも豊かになって来て、散歩に出る楽しみは増えてきたところだった。


 フェロッソと一緒の一人と一匹の暮らし。


 入学前の興奮と緊張は段々と今の習慣に慣れていく日々の中で払拭されつつある。


 父のいない生活に今だって不安はあるけど、自己管理することで得られる成長を実感することも出来る大切な機会だ。今を大事に過ごさなければならない、これから続く長い将来のためにも。


 寮生活といっても門限が決まっていること以外、月二回の寮会に出席することと共有スペースの清掃など当番をこなすことを除けば自由な風潮だ。


 郵便物も管理人さんが一旦預かってくれて私の部屋まで持って来てくれる。

 手紙の中身までは管理人さんも忙しいのでなかなか確認を手伝ってくれることは少ないが、その場合でもガイドヘルパーや訪問看護が来た時に郵便物の内容を代読してくれる。


 学生アパートで暮らすよりも仲間同士の交流はあるが、そこまで密なやり取りはない。

 そもそも目の見えない私は夜に出歩くような用事もなく、これ以上周りに迷惑を掛けられないから大人しくしている。

 完全に自由であることよりも、こうして管理が行き届いている方が、私にとって安全で快適であるという思いに間違いはないと思う。

 

 ゴールデンウイーク中ということもあって、寮生は実家に帰省している人や外に出掛けている人が多く寮内は実に静かだった。

 

 やがて、メッセージアプリに二人が合流したという連絡が入り、それから間もなく寮室にやって来て二人のおかげで一気に賑やかに変わっていった。

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