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エピローグ「あなたと」2

 昼休みになり、保育所内で手作りされた給食が各クラスに運ばれ昼食の準備が進められる。

 私も周りの保育士と一緒に準備を手伝い、昼食を迎えた。

 子どもたちと同じ給食を食べながら、食事の様子を見守る。

 目が見えない分、分からないこともあるけれど、自分の得意分野を活かして働いてくれれば大丈夫だと私は教えられた。

 そういう配慮も私はありがたく受け取り、子ども達との時間を一緒に過ごしている。


 午後、お昼寝の時間が始まり、私は保育日誌や連絡帳を書いたりしながら、事務仕事を始める。

 仕事を次の日まで溜めないためにするべきことは沢山ある。

 それだけ多くの子ども達がここにはいるということでもあり、親が大切に育てている子ども達を預かるということは責任重大な仕事だと受け止めている。

 

 お昼寝の時間が終わり、日が傾き始める頃、私は二階にある一室へと向かう。そこは沢山の遊具が置かれ、他の教室よりも静かな穏やかな時間が流れる場所だ。


 私はその日によっても変わるが、多くの時間をこの場所で過ごす。

 ここは大きな音が苦手な子どもやなかなか周りに馴染むことの出来ない子どもが過ごす場所。それに加えて私によく懐いている子どもも頻繁にここを訪れる。

 どこでどんな時間を過ごすか、ある程度その決定権の多くを子ども自身に委ねている、そういった方針にしているのもこの保育園の一つの特徴なのかもしれないと私は思っている。


「いくえおねえちゃん!」

 

 子どもの様子を一人一人見ていると唐突に私は名前を呼ばれ、背中から抱きつかれた。


「聖花ちゃんどうしたの?」

「プリンのおせわをしてきたの! ちゃんとぜんぶたべてくれて、げんきにしてたの!」

「よかったね、聖花ちゃんいつもありがとう」

「どうぶつはたいせつにしないとだめっておかあさんもいってたもん」


 人懐っこく私に報告してくれた女の子の名前は須藤聖花ちゃん。

 聖花ちゃんは耳が不自由で補聴器を付けていて、遠くから話しかけても声が届かないことがあり、密着するくらい近寄って会話をすることがよくある。


 こうして近寄り、女の子らしい可愛い声でおねえちゃん呼びをしてくれるのは聖花ちゃんであることを私は前々から覚えていた。


 近年では保育園で先生呼びをするところも少なくなっていて、私の職場の保育園でも先生呼びをする子どもはほとんど見かけることがない。

 お互いにさん付けをして呼び合うことに統一している保育園もあるが、この保育園では統一された呼び方はなく、私はさん付けされることもあれば聖花ちゃんのように郁恵おねえちゃんと呼ぶ人もいる。

 それは子ども達自身も周りに影響される部分も多いのだろう。

 私はさん付けしてくれる子どもに関してはさん付けで返していて、それ以外では男の子はくん付け、女の子はちゃん付けをして呼んでいる。


 プリンというのはこの保育園で飼育されているカイウサギの仲間であるジャパニーズホワイトラビット。白い毛と赤い瞳が特徴的で大型であるものの昔から小学校などで飼育されているおなじみのうさぎだ。

 医療系など実験動物として利用されている事でも有名で日本で作られた品種のうさぎである。

 一昔前は野外で飼育されていることも多かったが、今では地球温暖化などの影響もあり、動物愛護の観点から屋内での飼育が推奨されている。

 大人しくて人にも懐く可愛いうさぎと触れ合うことができるのは喜ばしいことで、動物を飼育する保育園が少なくなっている中、貴重な体験と言える。


「いくえおねえちゃん! えほんのじかん!」

「分かったわ……絵本を持ってくるわね」


 私が点字の付いた手頃な絵本を手に戻ると、子ども達が自然と集まっていた。

 聖花ちゃんを胸に抱えて、そのまま読み聞かせる。

 絵本を読んでいる間、穏やかな時間が流れる。

 この時間になると、もうお迎えの時刻が迫っていて、どこか一時の別れを惜しんでいるような空気が流れていた。


 絵本を読み終わり、私が聖花ちゃんに絵本を作ったことがあることを話すとすごいすごい! よんでみたい! と即答してくれた。

 まだ小さい子どもが読んで楽しんでもらえる内容なのかは分からないけど、持って来て読み聞かせてみるのもいいかもしれないと私は思った。

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