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エピローグ「あなたと」1

 季節は秋、桜のようなピンク色の花を咲かせる秋桜(こすもす)の咲き乱れる秋風が吹く頃。


 どこにでもあるような保育園の教室に子ども達の大きな歌声が響き渡る。

 元気よく口を大きく開き、背筋を伸ばし、ピアノの伴奏に乗せて。


 瞳を閉じて、子ども達と気持ちを一つにして私は今日もお昼前のひと時にグランドピアノを奏でる。


 『大きな栗の木の下で』『キラキラ星』『どんぐりころころ』、保育の場面で好まれる、簡単で覚えやすいメロディーをした短い曲を私は次々と歌に合わせて演奏する。

 子ども達は想像以上に覚えが良く、私の演奏を始めると自然と歌詞を思い出して、私と一緒になって楽しそうに歌を歌う。


 この保育園にやって来て、もうかれこれ半年近い時が過ぎた。

 初めは本当にやっていけるのか、周りに迷惑を掛けずに保育が出来るのか、不安でいっぱいだったけど、私と一緒に過ごすことを喜んでくれる、小さな小人たちに助けられながら、私は今日も幸せな気持ちで小人たちと歌を歌っている。


 ――かえるのうたがきこえてくるよ クヮ クヮ クヮ クヮ ケケケケ ケケケケ クヮクヮクヮ。


 元気な子ども達の歌声に助けられながら、お昼前最後の演奏を終えて、私は肩の力を抜く。

 慌ただしく過ぎる時間に疲れてしまうこともあるけれど、慣れていくごとに、新しい日常が不安もなくなり楽しいものに変わっていく。


 まだまだ新人保育士の私だけど、新しい発見が毎日のように起きる日々は新鮮そのものだ。


 ここで大好きなチャイコフスキーやベートーヴェンのようなクラシック音楽を演奏することはほとんどないけれど、私は子ども達と一緒に過ごす時間に充実感を覚えている。

 幸せがどこからやってくるのか、それが身体全体で染み渡って伝わってくるような、そんな心地だった。

 本当に勉強もピアノも続けてきてよかったと毎日のように思う。

 だって、夢はこうして叶えられてこそ、苦労が報われて、意味のあるものだから。



 保育士試験に合格を果たし、慶誠大学を卒業して念願の保育士になることができた私は、今は都内にある保育園で働いている。


 保育士試験を受ける上で必須となる実習先を見つけるのが一番苦労をしたけれど、目が不自由でも保育士になった先人たちの礎もあり、私は何とか実習先を見つけて、経験を積むことができた。


 試験勉強だってもちろん大変だったけれど、私としては実習先を見つけて、規定回数分の実習を終わらせることの方が大変な困難だった。

 慶誠大学の卒業は恵美ちゃんと一緒に無事に迎えられ、私は春からここで働いている。


 当然、簡単な事ばかりではないけれど、この保育園には過去に全盲の視覚障がいを持った方が働いていた過去もあり、必要な配慮を受けながら働くことができた。


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