最終章後編「明日への誓い」2
お父さんから預かっていた入院費用を会計で支払い、この病院ともお別れする時が来た。
「それでは、奈美さんお世話になりました」
病室にやって来たナースウェアを着た奈美さんに、着替えもして帰り支度を済ませた私は往人さんと並んでお辞儀をした。
奈美さんは「せっかく可憐で思いやりのある綺麗な郁恵さんと再会できて嬉しかったのに、もう寂しくて堪らないわよ!」と過剰なまでの褒め言葉を口にしながら泣きついてくる始末で、それくらい私との別れを惜しんでくれた。
きっと奈美さんは奈美さんでとても苦労しているのだろう……。
それは看護師として長年、この病院で高齢者が多い入院患者と毎日接しているのだから、その心労は私の想像よりも大変に違いない。
この前も「若い大学生と触れ合う機会なんてめったにないから、一緒にいるだけで癒される」なんて口にして品性も節操もない調子だった。
涙を零すほどに私と往人さんの進む未来を応援してくれる奈美さん。
まるで嫁に行く姿を見送るみたいだなんて余計な想像も働いてしまうほど、奈美さんは私との別れを惜しんでくれて、私も涙を流して奈美さんと別れを済ませ病院を出た。
久々に二人、手を繋いで歩く外の世界。
それは新しい始まりを感じさせてくれる瞬間だった。
「苦労させちゃってごめんね、往人さん」
「平気だよ、言ってただろ? 二人でいれば、悲しみは半分、喜びは二倍だって」
「ふふふっ……往人さんが言うと、何だか照れくさくなっちゃうね」
自然と笑みが零れて、繋いだ手の感触を強く感じる。
あぁ……何も変わらない毎日を繰り返していくような日常だけじゃない、こんな特別な気持ちを味わうこともあるのだ。
そんな当たり前で不思議な感覚も覚えながら、私達は家路に着いた。
家に着いて一緒に洗濯物をして、荷物の整理を済ませた。
そうして一息つくと、私は退院して最初にしたかったことを、往人さんにお願いして叶えてもらうことにした。
それは、喫茶さきがけで往人さんに料理を振舞ってもらうことだ。
「本当に行くのかよ?」
若干の臆病風を吹かせて往人さんは言う。
もちろん私はそんな訴えを聞くはずはなく、真っすぐに往人さんの肘をがっちりと掴んで「もう華鈴さんとも約束してるし、逃がさないから」と言葉を返した。
そんな私の反応に観念したのか、往人さんは「あそこに郁恵と並んでいくと見世物にされてる気分になるんだよなぁ」と愚痴をこぼした。