⑥Acid Trip
最近土日はほとんど静が家に来ている。
デートとかはあまりしないで二人で部屋に居ることが多くなった。
海水浴場に行ってからだ。
俺の性欲が溜まり過ぎないように気を付けてくれているのだった。
性交はできないのでその代わり身体を触らせたりしてくれる。
意味もなくロフトに登ってパンツ見せてくれたりもしてくれた。
こんなことさせていいのか今でも葛藤があるが静から申し出てくれたのだ。
申し訳ないがありがたかった。
最終的に出来ないという大きな難関はあったが何年かは我慢しようと思った。
今日は白いタンクトップにピンクのブラ、白いスカートだった。
上着に薄いピンクのカーディガンを持ってきていたが部屋では着ない。
この格好で外に出て襲われたら大変なので常に一緒に居る。
「静、愛してる」
そう言うと嬉しそうに寄って着て目を瞑る。
キスをして抱きしめる。
毎回同じで飽きられないかヒヤヒヤしているがいまのところは平気だった。
そう問題はこの自己評価の低さだった。
こんなに幸せなのにいつ捨てられるかわからないなんて考えて静に失礼なんだが釣り合いが年齢じゃなく取れていない。
顔だけはわりと良い方だけど中身は自慢できるものはないと考えていた。
最初の彼女にもあっさり振られたし。
茜に関しては最近少し変化があった。
ちょっと社交的になっているのだ。授業の間も良く笑うようになりわりと別人だ。
戦場での彼女は以前と変わらない。
十日ぶりの復帰なのに皆歓迎してくれた。
我々の戦いに巻き込んで済まないとも言われた。
俺は未来の生活があんな得体の知れないものに邪魔されるのはごめんだと伝えた。
問題になっていたのは茜だ。
あの日以来超加速が出ないし平凡な戦闘をしているらしい。
あれはなんだったのか。
そもそも人間があの速度で走ればばらばらになるはずだ。
敵が作った強化人間説が有力だがそもそも人型は効率悪いのであの卵を強化した方が良かったはずだ。
ここで気が付いた。
ここに居る茜と部屋で笑う茜は別人だ。
ここの茜は本物を模したもので本物ではない。
ではなぜそんな回りくどいことをするのか。
それは直接聞きたいところだがその本人がちょっと壊れているので慎重にタイミングが合う時に聞かないといけないと思った。
戦力で勝る我が軍が押していた。
アサルトライフルで弾幕を張りエイブラハムに乗り込む。
接近したらまた出て行き茜を援護しながら彼女の銃に任せる。
これで勝てるはずだが彼女が被弾した。
戦車にも衛生兵は居るので急いで運んだが脇腹深く打たれ手の施しようがないと言う。
くっ、俺はゲートを出て茜本体を目指した。
静の家と近いので徒歩20分だが5分で付いた。呼び鈴押すと同時に本物の茜を連れまた戦場に戻ってきた。
「ここどこですか。怖いです」
思った通りリンクは切れていた。
が死んだはずの軍人茜は本体を取り込んで復活した。
茜気が付いたか。
茜がこの危機を救った。
治ったら返してあげて欲しいと伝えた。
戦闘は勝利だったが茜の大本が茜に飲まれた。
いろいろなことの核心に迫れたのであとは整理するだけだった。
軍人茜はすぐに茜を解放してくれたので無事家に届けた。
具体的な話は少し後回ししよう。
ちょっと疲れた。
わたしを心配して静が付いていてくれた。
本当によくできた彼女だ。
得意じゃない料理も作ってくれた、オムライスだった。
ありがたいが今夜も夜八時を超えたので急いで送っていくことにした。
その後戦場に戻り勝利の祝いの場に参加した。
役に立てなかったことを詫びると茜を助けてくれたことを感謝された。
俺としても茜はこちらでもあちらでも失いたくない存在だった。
重症を負っていたはずの彼女も居たので生還を祝った。何か敵側に居た時のことを聞きたかったが彼女自身忘れているようだったので聞かなかった。
俺はLSDをやった。
法律の外側にあるここでは何の問題もなくトリップできた。
翌日の塾の授業の時に剛にいつも一緒に帰ってるけど静と付き合っているのかと聞かれたのでニコッと笑うだけで何も言わなかった。
ここ特進クラスはたったの三名でしかも人間が出来てる子が多いので塾長に言いふらすとかはあまり心配してなかった。
阿呆みたいに難しい問題が解ける彼らだったので俺も阿呆になって予習を頑張った。
帰り道静に剛と何を話していたのかと聞かれたのでありのままを伝えた。
否定しなかったんだと聞かれそれだけは絶対にしたくないから誰にでもと伝えた。
隠れながらコソコソするのは嫌だとも言った。
静は静かに聞いて頷いた。
静の家の近くでは決してしなかったんだが向かい合って喋る口を止めた。
静が目を閉じたので優しくキスをしておやすみなさいと言って元の道を引き返した。
翌日案の定というか塾長に呼ばれた。
近所の人からタレコミがあったらしいので今後一緒に帰ることと付き合いをやめてくれと。
静がたぶん塾止めますがいいんですねと言って後は何も言わせず立ち去った。
彼女はここでは断トツトップで都内でも三本指に入る天才だ。
系列内で競い合ってる塾には打撃なはず。
そして恐らく静の家にも完全に付き合いがバレただろう。
しかし戦場で命を懸けてる俺には何もかもが矮小なことに感じた。
今週末は来てくれないんじゃないかと思ってたが静はまた来た。
お別れの言葉を言われても耐えられる準備はしていたがいつも通りだった。
いつもどおり水色のパンツから手を振ってくれた。
「ここからはわりと近いので茜のうちに行ってみないか。もちろん嫌ならいいよ」
唐突に俺は静に言った。
静は静かに頷いたのでゆっくりと歩いて行くことにした。
閑静な高級住宅地の中を喋らずに緑を眺めながら歩いて行った。
お母さまは歓迎で迎えてくれ茜も笑顔で迎えてくれた。
こちらの子は塾の教え子ですと紹介した。
静のことを覚えていないので戦士茜とは完全にリンクが切れているようだった。
だけど俺のことはきっちり覚えてくれている。
女の子同士恋や芸能人の話をしていた。
戦士茜が混ざってる時と大違いで社交的で明るさをたたえていた。
仮の彼女だったこととかは皆戦士茜が決めたことなので覚えていなかった。
水色のブラが懐かしかった。
二人の美少女の対面を堪能したので帰ることにした。
ついでにわりと近所の静を送って行った。
明日の日曜はもっと一緒に居ようと約束して別れた。
今日は出撃もないのに基地に行った。
LSDと酒を決めながら隊員たちと馬鹿話をしていた。
すると茜が居たので近付いて行った。
もう身体は平気なのかとか戦うの怖くないのかとかつまらないネタを振った。
彼女はどっちも問題ないと言ったので本題に入った。
「茜本体とのリンクが切れている。戦闘に大きな支障があるんじゃないのか」
ストレートに聞いた。
すると彼女はわからないと答えた。
彼女の居るべき場所に帰しただけだと。
あの時の超スピードと精密な射撃を忘れられない。
お前は敵側の切り札だったんじゃないか、そしてこの時代の茜をさらってどういう方法か分からないが身体強化を施した。
戦士茜は何も言わなかったのでその場を去った。
あの戦闘力は魅力的だ。
ただ中学二年生の茜を巻き込んでいいものかは分からない。
最終兵器として期待していいのだろうか。例え人類存亡を懸けた戦いだとしても。
LSDが切れて来たので酒をあおった。
静が突然やってきた。
俺がこっちで何をしてるかを彼女は分かるのだった。
茜と喋ってたのは軍事的な話でそれ以外になにもないよと伝えた。
ああそうか。
俺がヤクを決めてるのを心配して来たのか。
今日はここまでにすると言って部屋に戻った。
「先生辛いの」
静が聞いてきたのでそうでもあるしそうでもないと意味不明なことを言った。
あと先生はもうやめてくれ、真弘と呼んでくれとも言った。
「現実では静と別れさせようといろんな圧力が掛かるだろう。俺の何が悪かったんだ?全部悪いなら謝るよ」
この言葉を聞いて静は涙を流した。
俺も静にしがみついて泣いた。
ヤクのせいで情緒が安定していない。
気が付くと静は上半身裸だった。
思ったよりはずっといいプロポーションだった。
美少女というだけでなく完璧な女になるんだろうなこの子はと他人事みたく思った。
シャツを羽織らせて無理をさせてごめんと謝った。
それから彼女を抱きしめた、いつもより強く。
大学はサボりがちになっていた。
他にやることが多いからだがそもそも俺が戦って勝たないと10年後には悲惨な未来が待ってるんだぞとも思った。
このお坊ちゃま大学の男ども全員連れて行っても死体の山が増えるだけだろうと思った。
敵はこちらの軍勢の数に合わせてやってくる。
数を増やしても無意味で現有戦力で戦わないとならない。
すると元カノが居たので笑顔で手を振ったがガン無視された。
俺の人生のほんの脇役だった人なので一切気にならなかった。
だが一応心の中でごめんと謝った。
ベンチで腰を下ろしのんびりしてると自分の未来を考えた。
成績もちゃんと並み以上でインターンとか頑張れば並み以上の会社には入れるだろう。
この国の大学というのはほぼ就職予備校だ。
そしてゆくゆくは静と結婚する未来を思い描いた。
今日の敵はあからさまだった。
あの菱型のやつがボスだろう。
なんか凄いビームを打って来そうで攻守ともに難攻不落そうに見えた。
鹵獲した敵のビームライフルを構える茜だったが最近精度が落ちている。
俺のXM7が効けばいいのだが。
いずれにしても近接戦闘に持ち込まなければ当たりそうもない。
対戦車砲などまるで効かないだろうしアレがどういう動きをするかも分からない。
戦車の指揮は隊員に任せて最初から茜と歩兵で動く。
ロボット兵には通常兵器全て通るのであまり警戒の必要はない。
あの菱型とそろそろ登場するであろう人型だけが敵となるだろう。
全軍に戦闘態勢に入るよう伝え俺と茜は飛び出した。




