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Extra Episode 1 玲奈の帰宅

全ての戦いが終わり、1年が経過していた。


静は無事国立付属中学の1年生になっていた。

茜の家庭教師はやめたが、しばらくは茜は我が家に来ていた。

だが静と俺の絆の深さを感じ、徐々に訪問回数が減り今ではほぼ訪ねて来なくなっていた。


うちで預かっている少女には亜寿沙という名前を付けた。


「塾やめちゃったし会う時間が少し減ったかな」

俺は歩きながら静に聞いてみた。


「ちょっと減ったけど絆は深まってるよ。子供の気まぐれで壮太に抱かれたんじゃないよ」

そう、異常なことだが中学に上がる前に二人は結ばれていた。


「それより玲奈さんにまた会いたいな。あの戦争で大活躍だったもの」

静の言葉に俺は緊張した。

一度は恋人でもあった玲奈に一年以上会えていない。理由はあの事件を知ったからだが、付き合ってる間は心の底から愛していた。


「諦めるしかないよ。静にもあの事件を知られたら縁を切られると思っていた。まだ一緒にいてくれてありがとう静。愛してる」

静は照れくさそうにありがとうと小声で言ったが、玲奈には納得できないようだ。


「あがって、静」

おじゃましますと言って、玄関に靴を揃えて彼女は部屋にあがってきた。

亜寿沙は久しぶりに会った静に走って抱き着いた。

ストックホルム症候群のため最初は俺にぴったりくっついて、夜も一緒に寝ていたが最近はロフトに上がれるようになり一人で寝れるようにまで回復した。


「さてと、夕飯の支度をするね。今日はハンバーグよ」

天才だが料理が苦手だった静だが、最近は腕を上げてきている。


「じゃ俺はスープ作るよ。得意なトムヤムクンで」


「助かるわ、いつもとても美味しいもの」

実際に静はこのスープが大好物だった。


「亜寿沙はお片付けやるからね!」

片言だった彼女の言語能力は徐々に成長していた。

三人で夕食を楽しんだ、あの異常な戦争はもう終わったのだ。

食器を洗い亜寿沙は少し疲れたと言ってロフトに上がっていった。


「ロフトに上る亜寿沙さんのパンツ覗き込まなかったね。わたしがいるから?」

性欲に自信はあるがそこまで節操がないわけじゃないと反論した。

「むしろ彼女には一生負い目がある。幸せになって欲しいと心のから願ってる」

「そうだね、わたしも協力するよ」

静が神妙な面持ちで頷いた。


戦争というものの狂気をたっぷり味わった。人が虫けらのように死んでいく。俺は犯してはならない禁忌を犯した。

それが人間の持つ一面なのだろう。怒りと恐怖で悪魔にもなれる。



そろそろ静が帰るので家まで送る準備をしていたら戦士茜が訪問してきた。


「ちょっと遅い時間なので思案したが伝えたいことがあるんだ」


「そうか、静、ちょっとだけ待てるか?」

彼女は親指を立てたので少しだけ話を聞くことにした。


「玲奈について異空間で暮らしてることは想像できただろう?その彼女が敵もいないのに激しい特訓を始めたんだ」

来る時が来たか。その力で俺は死ぬのだろう。


「壮太は本体茜の想い人だ、今でも。だから心配するな、私が守る」

恐らく玲奈の力は茜に肉薄している。万が一だが二人が相打ちになることもありえる。


「それには及ばないよ。俺は大罪を犯した、だから罰を受けるべきだ」


〝パァン〟

静から強烈なびんたをもらった。


「何格好つけてるの?わたしを置いて行って死ぬ気なの?」


「...嫌だ。静とずっと一緒にいたい...」


明日、玲奈のところに行く。みんなも来てくれ。俺はまだ生きたい。


「決まりだな。明日の午後6時に来い」

そう言うと戦士茜は去っていった。

後ろを見ると亜寿沙が異様なオーラを纏っていた。彼女は強い、我が軍もダメージを負った。俺を助けようと考えているのか?


「わたしもありったけの包帯持っていくから思いっきりぶつけてきなさい!」

静も気合が半端ではなかった。


静と送って家に戻ると亜寿沙が抱き着いてきた。まだ甘えん坊だ。

身体をぴったりと寄せられても性欲はまったく沸かない。

これ以上の罪は重ねたくないのと彼女の将来を考えてのことだ。


「壮太が好き」

亜寿沙が唐突に言った。


「俺には静という彼女がいる、気持ちはありがたいが受け入れることはできない」

彼女はとてもがっかりしたようだ。

これは一つの仮定だが、レイプした俺の恋人になればそれはなかったことになるかもしれない。あまりにも自分勝手な考え方だが。

それと気になることもある。玲奈とは同居していた、俺を取り戻しに来る可能性だ。自分から出て行って戻りずらいのかもしれない。


翌日、俺と静そして亜寿沙の三人で久々に異世界に行った。


「揃ったな。あっちはとっくに待っていたぞ」

あっちというのは玲奈のことだった。

見たこともない翼を広げて我々を迎撃するようだ。


「玲奈ちゃん、戦いをやめることはできないの?もう血を見るのは嫌だよ」

静が悲壮な声で訴えても彼女は微動もしなかった。


俺は武器を持ってきていない。ならば茜が負けることもあり得る。


「心配するな。私は無敵だ」

戦士茜が余裕でそう言った。


地上での決戦だった。玲奈はもう誰の声も聞こえないようだった。

バイクに乗り茜が突っ込んでいく。半端ではない蒼いオーラを纏っている。翼を身に着けた玲奈も赤いオーラで一直線に茜に突っ込んでゆく。


「何?私とは戦う意思がないだと」

翼で上昇し茜の上空に飛び去り、一瞬我々を見てから玲奈は急降下してきた。茜の追撃はもう間に合わない。


覚悟を決めていた俺の横で、亜寿沙が異様な緑色のオーラを纏い、俺の備前長船を抜きだし玲奈に対峙した。

こちらも翼を広げおよそ人とは思えない姿で上昇した。


オーラとオーラがぶつかったが、亜寿沙が押していた。反転して間に合った茜が、「亜寿沙の勝ちだ。玲奈は負け」そういって二人の間に割って入った。



内輪揉めだった。だから茜は戦闘寸前で二人の中に割って入った。以前なら勝手にやれと止めなかっただろう。

それでも亜寿沙の勝ちだ。彼女の希望で俺の部屋に玲奈を連れて行った。


「静、悪いが30分待っていてくれ。その間に決着をつける」

彼女は不服そうだったが渋々俺の提案を受け入れた。


玲奈は久しぶりに我が家の敷居をくぐった。


「こんなに手なずけちゃったんですね。もう言葉もありません」

玲奈にどんな罵詈雑言を言われても仕方がない。


亜寿沙は俺を後ろにして警戒を解いていない。確かに俺がここまで調教したと思われても仕方がない。それでも元カノにここまであからさまな敵意を向けられることが辛かった。


「言い訳はしない。でもこれが今の俺の家庭だ」

開き直った発言を玲奈にぶつけた。


「玲奈、決着を付けましょう。今なら茜の邪魔は入りません」

亜寿沙の目が炎を纏っていた。


成層圏まで二人は一気に上昇した。二人の剣使いはとてつもなく大きいオーラと炎と焔を再び身に纏った。

「戦う前に亜寿沙、あなたはとんでもない凌辱をあの男に受けたのよ」

「知ってる。でもわたしは20人殺した」

噛み合わない会話、だがこれが真実だ。

レイプ魔と殺人鬼は本来裁かれる。それをなかったことにしてるのだ。


二人の剣がガキンと激突するが決定打にならない。ならば亜寿沙はどうやってこの場を収めようとしているのか。

「被害者のわたしが許してんだよ。論理破綻したあなたは負け」

亜寿沙がここまで流ちょうに喋れるには知らなかった。

俺の好意を受けやすいようにわざとカタコト混ざりで話していたんだ。



「玲奈帰っておいで」

最後は俺が言うべきだろう。


「今更そんな...」


「決まりなんてないんだよ。だからもう一度言う。帰っておいで。どうしてもイヤなら諦めるけど二度と俺と亜寿沙に関わらないで欲しい」



「もう決着着いたのかな?」

静がうちに入ってきた。


あの異常な戦争で我々は様々な経験をした。敵AIとの対決ということがまずかなり異常だったし、相当な死人も出た。俺は禁忌を犯した。亜寿沙はそれを許してくれた。


「壮太はロフトで寝て。亜寿沙さんと玲奈さんは下で寝てね」

静は強引に決めてふとんを敷いた。



静を送って家に戻ると二人ともパジャマに着替えていた。


「俺は罪の罰を受けるべきだ。だが静がいるからだめだ」

本音を二人の前でぶちまけた。


何が善で何が悪か、それは社会が決めることで俺はとうにそういうことから離脱していた。つまり好きなように生きていくと。



「亜寿沙は壮太さんが好き?」

「好きだよ。一生一緒にいたい」


この言葉を聞き玲奈は安心した。大きな傷を負って生きていくわけではないのだと。

確かに人殺しとレイプはいけないことだ。

でもそれを知っていて二人には絆が生まれていた。


「玲奈ももう社会の常識に捕らわれないで生きていくから。またよろしくね壮太」


俺は親指を立てて返事をした。


もう社会に戻ってきた。だからはみ出さないよう生きようか、そう俺は思った。
























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