⑪玲奈
真弘が居ない生活が一週間続いた。
その間玲奈の世話するために静は彼の部屋に来ていた。
最も家事全般すべてこなせるようになっていたが。
茜も忽然と姿を消し真弘とともに捜索願が家族から出ていた。
家が近いこともあり犯罪グループの犯行が疑われていた。
部屋を掃除していると真弘のと思われるノートがあった。
見てはいけないと分かっていたけど寂しさのあまり開いた。
初めての彼女にすぐに振られたこと。
茜と仮恋人になりやがて恋人同士になったけど彼女の感情の無さに底なしの沼に落ちていきそうになったこと。
静はあまりにも若過ぎてただの教師への憧れだと断定していた。でも彼女の愛に触れた気がしたので恋人になったこと。
俺はおかしいだろうか。
否きっと狂っている。
この短期間に何度も彼女を変えてることが証拠だ。
基地に行きLSDを決め酒をあおる。
なんで疑問に思わないんだ麻薬取締法なんてくそったれだと。
俺なりに頑張ってるつもりだが誰もがそう思ってるわけじゃない。
今日静をレイプしようとした二人を射殺した。
裁判なんてまったくあてにならない。
私刑を擁護するつもりはないがあれは間違ったことだった。
ただの間違いで二人殺したってなんか興奮するな。
気分は最高だよまったく。
そこまで見て静はノートを閉じた。
真弘の心の闇を知ったが気にしなかった。
そして何故か玲奈に抱きついた、無垢な彼女がかわいかったから。
「ここはなんか無機質で食い物も味気ない。なんとかならないのか」
俺は茜に聞いた。
お弁当食べたいと聞くので頷いた。
ロボットたちは優しくアンドロイドは性的に施しをしてくれようとしたが断った。
退屈だったが元の世界でやらなきゃならないことをしなくて済むので楽で良かった。
「茜はここが好きなのか」
俺が聞くとわりと気に入っていると。
出来れば二人でここで暮らしていきたいとも言った。
洗脳的ななにかはあまり感じなかった。
俺が遊園地や温泉がこっちにもあるといいなと言うと、それはあちらの世界を奪ってなんとかすると言った。
二人でここに来てから一週間。
分かっちまったことがある。
あっちの世界を滅ぼすのは我々二人だと。
すごく遅かったが菱型、卵、正方形の生産が行われていた。こちらに急襲を掛けても茜のシールドを破ることは絶対に出来ない。
今日はそろそろ戦闘しようと茜に伝えた。
敵として戦う初めての戦闘だった。
丸型の難攻不落型ロボットが居たのでこれを使おう。
俺はかなりの防御力があるスーツがあったのでボディアーマーはやめてこっちにした。
戦線布告はこれまでしたことないのでやらなくていいな、量産型のロボット兵で守りながら丸形を前進させて攻めていこう。
茜に全滅させないようにと言ったら了承を得た。
あと玲奈も生かすよう言った。
これまで何の戦術も持たなかったこちらの軍は統率を取って動き出した。
茜は装甲車っぽいものがあったのでその上に立って居る。
彼女が出たらあっという間に殲滅してしまうのでただの威嚇だ。
わたしは後方に待機し指示のみだった。
「敵の圧力が強いです。援護しながら玲奈に丸形を攻撃してもらいます」
新隊長が命を出した。
こちらは丸型を取って置きたいので止むを得ず茜の出撃を許可した。
前の戦闘のように宙で対峙する二人。
翼と結界を張れるようになったことで実力は接近してるはずだ。
俺がバイクで今度は前とは逆に茜を援護に行く。
玲奈は結界を俺のXM7で攻撃されて苦しんでいる。
その隙を見て茜が左肩を砕くパンチを加えた。
勝負は付き玲奈は地上に落下した。
丸型はエイブラハムを10台やつけたので撤退支持を出した。大勝だった。
まったく歯が立たないのは司令官も想定していた。
味方だった二人があっちに行ってしまった。
唯一の決戦兵器玲奈も茜の前には分が悪そうだ。
静は玲奈の破壊された左肩を見たがかなりの重症だった。
三ヶ月は出動できないと皆に伝えた。
わたしたちを守るために自ら投降した真弘を攻めることは出来なかった。
というより玲奈&真弘のコンビが本気を出せば茜に勝てたかも知れなかった。
だが彼はそうせず茜に従った。
茜一人を殺さなかったために大きな被害がこちらに出ている。
これが正しいことなのか静は考えるのをやめている。
正しさとかそういうものは存在しない。
無理矢理茜から真弘を奪い取ったわたしが悪いのかも知れない。
でも結果的に一番愛されたのはわたしだ。
そうしなければいけない理由があった。
「隊長さん、白旗あげませんか。あの二人に勝つのは今は不可能です」
従軍看護師の身でありながら静は進言した。
その看護服に付いた夥しい血を見れば撤退したい。
しかしそうなると十年後の敗北が確定してしまう。
長考した後隊長は立て直しまた進軍すると言って出て行った。
静はなんとか二人を引き戻す策を思い描こうとした。
真弘の部屋のベッドで横たわる玲奈を見ながら小さな声でありがとうと静は言った。
起死回生の方法はかなり楽だと思われそれは静が握っていた。
小学生でこんな修羅場に合うってわりとレアケースかなって小声で言った。
「今回は戦闘ではない。交渉で糸口をつかむ」
そう隊長が言った。
ついては静看護長が護衛付きで茜に交渉する。
前に鹵獲したアンドロイドからのスーツがようやく完成していた。
エイブラハム三台とともに最前列に装甲車に乗った静が居た。
敵側には茜と真弘が居た。
交渉なので誰も武器は出さない。
「真弘をあなたにあげる。だからこっちに二人とも戻ってきて」
この静の一言を聞いて茜は考えた。
既に手に入れてる真弘は交渉に使えるのかと。
だが真弘はこの10日間まったく心を閉ざしている、静のせいだ。
なら静がもう手に入らない状況ならどうか。
受けて見る価値がある。
静と付き人を基地に通した。
公的に近い書類を用意して二人は正式に別れることと今後一切静は真弘に近づかないことと記された書類を用意して来た。
迷うことなく静はこの書類にサインした。
当事者の一人なので真弘もサインした。
解放されてまずしたことは玲奈の治療を茜にさせることだった。
それは簡単に了承した。
静はそれを見届けると笑顔で去って行った。
玲奈がまだベッドに横たわっているのに俺は部屋の壁を破壊した。
やはりいいことなんてあるはずがない。
静との未来が絶たれた俺は破壊を続けた。
静には僅かな勝算があった。
人の心を本当に操る催眠術はないと言うこと。
今回は書類だが紙切れで真弘をものに出来るかお手並み拝見だった。
茜と真弘は謎の組織に誘拐されたということになった。
家庭教師はいろいろあったので解約を伝えた。
塾の方では茜との約束を守るため静は特進クラスをやめた。
同時に真弘も塾をやめコンビニエンスストアの店員を始めた。
玲奈は相変わらず俺の部屋にいる。
最近ロフトに登る時の俺の視線に気が付き始めたようで隠しながら登っていた。
ドアが開き茜が夕飯用弁当を持ってやってきた。
「静が居なくなって寂しい」
と無神経なことを聞くので黙っていた。
弁当は玲奈にあげたので横でおいしそうに食べていた。
この茜をまだマインドコントロールしているのは誰だったんだ。
敵基地に居てもわからなかった。
それともこの茜に取り込まれた戦士茜なのか。
「お前は俺と付き合うとか結婚することとかいう条項つけなくて良かったのか。俺がフリーになっただけなんだが」
と言うと流石にそれは自分で勝ち取らないと意味ないでしょうと言った。
まだ玲奈は弁当を食べていた。
静とは絶対禁止、後は自由なんてザル契約でいいなんてほんとにいい奴だよお前は。期間も書いてなかったしな。
「あとは茜が頑張るから見ててね。悪いイメージを変えて見せるから」
自信を持って茜は言った。
「敵に寝返って前回多大な損害を与えましたが戻っていいんですか」
と隊長に聞くと問題ない。
玲奈という決戦兵器を救ってくれたことを感謝すると俺に伝えた。
静との戦闘での会話は許されていた、茜監視下で。
茜、今日の敵は丸型だけだ。
こいつを玲奈と一緒に頼む。
戦車隊は真っ直ぐ進み敵を殲滅する。戦車隊の殲滅は早く、丸形も玲奈のビームサーベルが簡単に葬った。しかし二人は降りてこなかった。
「二人とも馬鹿なことしてないで戻れ」
と言ってもお互いを警戒したまま動かない。
進化している玲奈が茜に肉薄してるのは確かだが同士討ちは避けたい。
玲奈に今夜飯抜きと言ったら凄い速さで戻ってきた。
だが二人は睨み合っていた。
やめてくれ。
人型のシェルターを確認してるからあれがラスボスかもしれないのだから。
毎日静が来てた日々が懐かしかった。
そんなに日時が経ってるわけではないが。
その代わりと言ってはなんだが玲奈が毎日居る。
それは大きな癒しになっていた。
見た目なら茜と静に負けないが子供っぽさがあってそういう目では見れない。
会話もあまりないが戦闘のことは聞きたくなかった。
あれは静のためだ。
茜を倒し静がまたここに来れるようにという思いで茜と対峙している。
あまりに危険なので今度しっかり注意しとかないと。
もうそういうのは見たくないんだ。
俺の運があまり良くないから仕方ないと言ってやらないと。
ベッドに寝かせ自分もロフトで寝ようとしてた時にめずらしく玲奈が俺に言ってきた。
「静の代わりにはならないけれどもわたしと付き合わないか」と。
この手があるのは知っていた。
ただ付き合うって恋愛感情があるべきだと思う。
それでも疑心暗鬼に襲われるのにただの友達の代わりっていうのはダメだ。
玲奈が壊れてしまう。
「玲奈には恋愛感情を感じない。ただ友達のためっていうのならお断りだ」
きっぱりと断った。
玲奈は考えていたがそうではなく真弘が好きだと言ってくれた。
戦士だった頃の茜と同じだ。
不器用過ぎて気持ちすらちゃんと伝えられない。
玲奈にも近い部分があるのなら本気なのかも知れない。
すごくすごく長考した後で私は玲奈に言った。
「分かった。付き合ってみよう。ただしお試しで」
俺は彼女に言った。
間違っているかもしれないけれど寂しさがもう限界だったのだ。




