茜
大学に入ってすぐに独り暮らしを始めた。特に裕福な家庭ではないがなんとか仕送りも出来るというので躊躇わずに家を出た。流石に額はそれほど多くないので塾の講師と家庭教師のアルバイトをした。彼女もわりとすぐに出来た。部活には入らなかったがお遊びテニスサークルには入っておいた。経済学部に入ったのだが銀行員だけは絶対になりたくないと思っていた。仕事が忙しいことではなく金貸しというものがどうも気に入らなかったからだ。学校の近くに家を借りれば安かったのだが結局高円寺にした。そのお陰か家庭教師の依頼はけっこう来ていた。今日は新規の生徒で中学二年生の女の子の初授業。だいたい挨拶や授業の進め方の話しでほぼ終わってしまう。それより女の子を教えるのは初めてだ。だいたい異性の教師だと親が警戒して嫌がるものだが。T大とかK大医学部は逆だ。親が異性の教師を指名して子供に逆玉を狙わせようとするからだ。そんなこと考えながら歩いてると目的の家に着いた。吉祥寺から歩いて15分弱のところで閑静な住宅地の中にあった。20分前は少し早いので10分ほど近くを散歩することにした。緑が多い家が多く庭師にきちんと手入れさせてる家もけっこうあった。都内にしては坪数も多く高級住宅地であることが伺えた。
気が付くと5分前になっていたので慌てて呼び鈴を押した。マイクから母親と思われる声がしたのでしっかりと挨拶をした。「城北家庭教師センターから派遣された坂田真弘と申します」
一階のリビングで親御さんにセンターの規約を話した。一通りそれが済んだ後で生徒の部屋に向かう。階段をあがりすぐの部屋が彼女の部屋だった。お邪魔しますと言って入ると白いTシャツと青の短パンの女の子が居た。こくりと頷いただけの挨拶をされた。今までのテストの結果やドリルなどを見たがセンターからの連絡通り頭がいいとは言い難かった。これから強化すとところなどを伝えて自作の英単語ドリルをやってもらったが正解率は三割を切っていた。私は答え合わせをしながら偏差値50前後のの普通高に入れられるように頑張らなくてはと思った。授業が終わると親後さんと二人で玄関まで来てお辞儀をされたのでこちらも丁寧にお辞儀を返した。仕事中は緊張するので木々を見てリラックしながら駅まで歩いた。
その夜奇妙な夢を見た。俺は追われていた。なんで追われているかの理由はまったくわからないのだが追って来るのはロボット又はアンドロイドの類で武器も持っている。俺はアサルトライフルで対抗するがなかなか有効打が放てないで居た。ロボット三原則無視していないかと思いながら夢から覚めた。目が覚めると目玉焼きとパンとサラダ、牛乳という朝食を摂った。学校はないので今日は彼女とデートだった。彼女は大学の先輩からの紹介だった。新宿あたりをぶらぶらして昼食を摂って買い物をした。夕方は泊まり込みで家に来てもらい夕飯を作ってもらった。夜は一緒のベッドに寝た。一学年上で最初簡単に俺のものが入って行ったので処女ではなかったようだ。俺は彼女が初めてだった。それでも美人の部類に入るので彼女を連れて歩くのは優越感もけっこうあった。
週2回、火曜日と金曜日に家庭教師の契約をしていた。月水木曜は塾に行くのでわりと忙しい日々を送っていた。火曜日、先週の女の子の授業前に思い切って親御さんに聞いた。男である俺を選んだ理由を。すると意外な答えが返って来た。女子教師を二人頼んだのだが辞めてしまったのだそうだ。なんでも授業が終わった日は酷い悪夢に二人とも襲われたそうで。それで男子である俺にお鉢が回って来たらしい。授業を始める前俺はきちんと挨拶したが彼女は先週動揺こくりと頷くだけだったので教材を丸めて頭を叩いた。「挨拶をきちんとしなさい。名前も直接は聞かされてないから自己紹介をしなさいと」彼女は叩かれた頭を抑えながら本田茜と答えた。社会に出たら挨拶は当たり前なのできちんとするよう伝え授業を始めた。見た目は相当というかとんでもなくかわいいのにコミュ障はかわいそうとだから積極的に話しかけてあげた。授業でのことだが。1時間立つとお母さまが飲み物とお菓子を差し入れててくれた。すると珍しく彼女の方から口を開いた。
「先週夢を見たでしょう。あまり良くない夢」当たっていたがそんなことはないよと無視をした。夢で嫌な思いしたってどうってことないしなんで彼女が知っているかを除けば気にするに足ることには思えなかった。数学を終えると授業を終えることにした。帰ろうとすると彼女の母が寄ってきて夕飯を食べていかないかと聞いて来たので断る理由はないのでお辞儀をしていただくことにした。肉じゃがとみそ汁を茜ちゃんも食べたのだが相変わらず喋らない。彼女は食べ終わるとさっさと部屋に戻って行った。その代わりお母さまといろいろ喋ったのだが茜ちゃんは無口なのでいじめられないか小学校から気にしていたそうだ。いじめなんて陽キャの馬鹿がやることなのでそういうことが起きたらすぐに警察に通報したほうがいいと伝えた。学校は揉み消そうとするから絶対にダメだとも。なんなら俺にも連絡くださいとLINE交換をした。両方の二の腕を見せ中学生5,6人なら問題ないと。
そしてこの夜も変な夢を見た。敵は同じようだったが戦車っぽい何かを乗り攻撃してきた。宙に浮いたりしてたのでなにかオーバーテクノロジーのようだった。わたしは銃で応戦していたが歯が立ちそうもない。戦車かなにかないのだろうか。歩兵は嫌過ぎる。すると俺の腕を誰かが掴んで車のようなものに乗せた。茜ちゃん?謎のスーツに身を包んでいてが彼女であることはわかった。
「なんで夢の中にいつまでもいるの」いつまでもここに居たら命落とすかもしれないので早く目覚めるように伝えてきた。俺は拒否した。ここに興味があるんだと。彼女はアンドロイド又はロボットらしきものと交戦していたが銃をうまく使って敵を倒していた。わたしもアサルトライフルで反撃した。俺が持っていたのXM7は最新型でアメリカ軍に採用されたものだった。狙いを付けるというよりも敵に向かって乱射するように使った。敵軍への打撃は成功したようで逃げ切ることが出来た。
「茜ちゃんはなんでこんなことしてるの」私が聞くと「戦わないといけないから」と答えた。その意味は分からなかったが勉強を教えてる時とは別人のような彼女が居た。そして俺は目を覚ました。
あれが夢がどうかわからなかったが白スーツに青ラインの茜ちゃんがとてもかわいかったので自慰しようと思ったがやめた。そもそも彼女に好かれてる印象ゼロだったのでそれはどうかと思ったのだ。やけに夢っぽくないけど起きたらいつもの日常だった。今日は学校終えたら塾だった。こちらの方は進学塾なので事前準備がけっこう大変だった。その中でも最近小学校の特進クラスを受け持ったのでこれが難解だった。一生使うことのない故事成語とかを教えなければならなかったのだが生徒の方が全然知ってたりする。数学はXを使わないで池の周りの総距離を測る問題だったり狂気の問題が多かった。塾講師の間でよく言われてるのが中学受験が最難関だと、大学受験よりよほどきついらしい。ギブアップするのは癪なので予習を本当に頑張っていた。この時間は時給に入らないのでコンビニの店員アルバイトの方が稼げた。
「次は静ちゃんお願いします。前に来てホワイトボードに書いてみて」簡単に解いてみせた。俺は勉強になるなあと見ていた。きつい特進クラスの授業を終え俺は自宅に帰った。
何才から飲んでいいのかよくわかんないけどサークルではしょっちゅう飲んでいたのでビールを買ってきた。ちなみにまだ18才である。ビールとつまみで今日の夕飯を済まそうと考えていた。Lineに今週末合コンとメッセージが入っていたので彼女居るからパスと返信した。お遊びテニスサークルからだがそもそも自分は公式テニス部出身なので先輩も私には歯が立たない。胸を開きながら腕を伸ばし手首を曲げ思い切りフォアハンドを叩き込むと掠ることもないでウィナーが決まる。ここにはそもそも彼女探しに入ったのでもう居る自分にはほぼ用がなかったが別れたりした時の保険で居るようなものだった。それよりは今は茜ちゃんの夢に興味があった。また次の授業の日の夜同じ夢を見るのだろうか。
「なんでこの間はあんなに居たの。危ないから今日夢見たらすぐに起きてよね」先手を打たれ茜ちゃんが言って来た。あれは現実なのか。なんで茜ちゃんが(エロいスーツで)戦っているのか、聞いてみたが前と同じ戦わなくてはならないからと返事が来た。
「君が戦わなければならないなら俺も戦いたい」自分でも思っても居ないことを口走っていた。興味はあるが俺を特に必要としてないなら戦う意味はない。なんでそこまで拘っているのかの理由はわかっていた。好奇心ではなく茜ちゃんが気になるからだ。
「この間ののアサルトでの援護はダメだったかな。もっと言ってくれれば手伝うよ」授業をそっちのけで夢の中の出来事の話をしていた。
「あれは夢じゃないよ。だからあそこで死んだら実際にも死ぬの。仲間がもう随分死んでいる」衝撃的なことを話し出した。ごく近未来の戦争だと彼女は伝えた。それが何故か夢の中で起こっている。近未来と言ったけど現在と繋がってるんだ。電波なことを言い出したが実際に二度もそこに行ってる俺は信じざるを得なかった。一応授業もやらなければなので問題を解かせた。そして飲み物を飲み終えた頃言い切った。君があの場所で戦うなら俺も行く、行かせてください。近未来とか死ぬとかひとまずどうでもいいや。君の役に立ちたいんだと言った。彼女はしばらく考えていたが提案を受け入れ、あなた用の機材を用意すると言った。それにしても変わってるねと言ったので、君のような美少女が居たら誰でもそうなると心の中でつぶやいた。