忌み少年と龍少女
「ちかよらないで! あなたもにんげん、これいじょうちかづいたら!」
ボクは怯えていた、目の前の女の子も怯えていた。
まだ10mと近づいていないのに。
思えばなんでこんなことになったんだっけ。
少しふりかえってみよう……。
__出会いから1時間前
「男だ! 男が遂に……あぁこの村は終わりだぁ……災いが降り注ぐ……近いうちにぃ」
「早く送らねば……はやく……」
まただ……ここ6年ずっと耳にしている。
ボクはまだ6歳。
だけど、生まれた時からずっと聞いてる気がする。
ボクは生まれた時から嫌われてるけど、何故か今の今まで生きている。
いや、生かされてるのかな? わからないや。
思えばおとうさんやおかあさんもボクのことずっと嫌いで、冷たい目を向けられてたなあ。
「あなた、そろそろこの子は7の歳になるわ。捨ててこないと……」
「あぁそうだな。渓谷に行こう。龍の餌にするんだ」
どうやらボクは渓谷に捨てられ、龍の餌になるらしい。
生贄ってことなのかな?
__出会いから50分前
ボクは藁で出来た米俵の中に無理やり入れられ蓋をしめられた。
中からは出られそうになく、蓋の上にはおもしがのってるのか、ボクの力ではビクともしない。
そもそも出れたところですぐに戻されるだけだろう。
そうしてようやく着いたのか、ボクを乗せた荷車であろうものが止まり、少しして外でなにやら会話が始まった。
「バルフェルト様! 新鮮な男児をお持ち致しました! 龍酒もお持ちになりました故、ご一緒に」
「また男児か! どうせ忌み子なのだろう? いい加減男児は飽きたと言っておるのがわからぬのか! 先月に妾はこういったぞ! "人間の女児が食べたい"と!」
「でっですがバルフェルト様、ご指定の6歳以下の幼子は男児しか今は残っておりませぬ……」
「やかましい! 貴様ら忘れたわけじゃあるまいな? 貴様らだって人間じゃぞ? 代わりに貴様らをとって喰ってやっても構わんのだぞ?」
どうやらボクはこのバルフェルトという名の龍に喰われるらしい。
随分とわがままで無茶なことを言う龍らしいが、このままの流れなら命拾いするかもしれない。
「そっそれだけはどうかご勘弁を……」
「全く、人間というのはほんとに身勝手なやつじゃわい。妾も大概じゃとは思うが、取引くらい守って貰わないと困る。女児がほしいと言ったら大人しく用意すればいいんじゃよ。月一で」
「それはその……」
「まだ口答えするか!」
そう大声で吠えると、ボクの入った米俵を剛腕な龍の前脚で振り払うようにして飛ばした。
その衝撃で近くの木にあたってボクの後頭部を殴打した、痛い。
パリンっと何かわれた音もしたあたり、龍酒とやらが入ったなにかも割れたのだろう。
「せっかくご馳走が楽しめると思ったのに、これじゃ不完全燃焼じゃ! ええい! よこせ!」
「むっ娘だけはご勘弁を! その子は8歳ですよ!」
「これは罰だ! 人間!」
そうバルフェルトが声を荒げたのを確認した時、1人のおかあさんから女の子を取上げたようで、女の子の泣き叫ぶ声と助けを求める声が響き渡る。
やだ!しにたくない!こわいよ!おかあさんたすけて! そんな声も、やがてブチャッと潰れるような不快な音とゴキッボキッバキッ!と明らかに何かが折れる音と共に、静寂になった。
途端に、その女の子のお母さんは「アリシアー!!」と叫び声を上げ、泣いた。
ボクはなんとも思わなかった、感情移入することすら出来なかった。
幼いからではない、ただただ怖かったからだ。
あの龍がわがままでなければボクがあーなっていたのだから。
そう考えると、服も靴も履いていない着ていないボクの下半身から、暖かい水がこぼれてくる。
やっぱり、怖いんだ……。
「今回はこれで満足して帰るが、次来る時までには必ず用意することだ。でなければ、この村は滅ぶ」
そうバルフェルトが吐き捨てたのを聞くと、耳をつんざくような大きな咆哮と強烈な風圧を感じる羽ばたきと共に、姿を消したのがわかる。
一体どんな姿をした龍だったのだろうか、一部始終は聞いたが、発言だけ聞くととても強い権力を持ってそうだった。
「やっぱり災いが降り注いだ……! 全てあの子供のせいだ! この村であの忌み子が生まれたから!!」
「「「殺せ!!」」」
まるでスポーツ観戦のようにこだまする殺せのコールを聞いたボクは、急いで米俵の蓋を開けて走り抜けた。
あの龍がここまで飛ばしてくれたおかげでボクは生き残れた。
上に乗ってたであろうものは石で、近くにころがっていた。
それを見てすぐ、その場から急いで逃げた。
捕まれば殺される、確実に。
涙をぐっと堪えて走った。
__出会いから30分前。
狼の遠吠え、凍え死ぬかのような冷たい風、月明かりが眩しい夜空、視界が悪い森……あれからどれくらい歩いただろうか、足の裏の皮はむけてしまって歩くのも辛いし痛い、服も着てないから寒いしくしゃみが止まらない。
くしゅん! 言ってるそばから出てしまった。
何か食べなきゃ死ぬ、そう思いながら近くの木の実を食べた。
恐ろしくしょっぱかった。
これは、シャンブルの実……確か料理で塩味をつける時に使うんだっけ……。
あれ? ボクなんでこんなこと知ってるんだろう?
疑問を覚えつつボクはただ歩いた。
走るのは疲れたから歩く。
そもそも村人は誰も追ってきてないみたいだから歩く。
今更、名残惜しくもない別れだ。
__出会いから……
ずっと歩いた、ただ歩いた。
さっきのシャンブルの実のせいでひたすら喉が渇いた。
そうして水を探している時、ボクは歩みを止め、目の前の光景に釘付けになってしまった。
「ちかよらないで! あなたもにんげん! これいじょうちかづいたら……」
目の前の女の子はボクと同じで服を着ておらず、いや……着てはいたみたいだけど破り捨てられているらしいく、近くに布の切れ端が散らかっている。
女の子の体は白い何かで沢山覆われてるみたいで、とても臭かった。
下半身からも溢れてきているのがわかる。
しばらく見たあと女の子の口をよく見てみると、炎を蓄え火球を放とうとしているのがわかる。
よくよく見てみればこの女の子は竜人なのか、角もしっぽも翼の爪も切られてしまってたから分かりにくかった……。
「まっまって、確かにボクは人間だけど……敵じゃない、よ? ほら、ボクも服を着てない……」
「ふっふく……?! みっみないでよ! えっち!」
ボクは結局火球を食らった。
火傷したけど、死にはしなかった。
大慌てで胸と下半身を隠していたあの女の子が、小さな翼と切れたしっぽで頑張って隠そうとするその姿が可愛く見えた。
__出会ってから1分後
錯乱してた所から落ち着いた女の子は、ボクに話しかけてくる。
「ねぇ、キミはどこからきたの? あとふくはないの? その……バニャンク丸見えだよ?」
「っ! ごっごめん! でっでも、ボク服貰ってなくて……」
バニャンク……つまるところバナナのことだろうか? ボクの下半身をみて少し顔を赤くする目の前の女の子は、目を隠しながらも指をさして話しかけてきたのだ。
「へんなの。にんげんなのにふくないなんて」
「あはは、実はね……」
まだ会ってそれほど経ってないけど、ボクは事の経緯を説明した。
ある村から逃げてきたこと、バルフェルトという龍に食べられそうになったこと、1人の女の子がその龍に食べられたこと……。
「バル……フェルト……。あたいのぱぱとおともだち?」
「おとうさんなんだ……? でっでもボクはお友達じゃないよ? そもそも姿見れてないし」
どうやらあの龍、この子のおとうさんみたいだった。
この子のこと探したりしないかな?
「ねっねえ? あなたはおとうさんのところに帰らないの? きっと探してるよ?」
「……あたいは、かえれないんだ。おうちにもさとにも」
「……そっか、ごめん」
「まいごじゃなくて、おいだされたから……」
「……」
じゃあボクと同じだね!なんて口が裂けてもいえなかった。
事実なんだけど、自分も経験してるからこそ下手に口にすると悲しむのをわかってたから。
「キミも、あたいとおなじ。でも、よくみてらにんげんにしてはへん」
「変? なんで?」
「わかんない。でも……なんだか"らしくない"の」
「どういうこと?」
"らしくない"、唐突に女の子はよく分からないことを口にした。
その会話の後少しの静寂が森に広がった。
なにか知ってそうだと思った。
「とっとにかく、キミふくきる。あたいもきる」
「でも、その前に……喉、かわいた……」
ボクはそろそろ喉の乾きが限界だった。
まもなく倒れそうな時……
「め、つむってくちをおおきくあけて……」
「どうして?」
「いいから!」
「わかった……」
「っ、んっ……」
一体何をする気なんだろうと思いながらも、言われた通り口を大きく開けて目を瞑った。
すると次の瞬間、ボクの口内と顔に生暖かい物が勢いよく掛かってくる。
「んぐぐっ! んっ!」
あまりに勢いよく流れてくるので、全部飲み込むのも大変。
少し口から溢れたかもしれない。
でも、喉が渇いてただけあって少しはマシになった。
でもなんだろう、水にしては臭いし……。
「からっぽ……もうでてこない。いいよ」
そう女の子が口にしたので目を開けてみた。
「何を飲ませてくれたの?」
「ひみつ」
ちょっと顔を赤くしながら、モジモジと足を動かしている。
そんな女の子の足の近くには黄色い液体、ボクの周りにも……全てを察した。
でも、ボクは怒らなかった。
「ありがとう、ええっと……」
「あたいはフェレスカ、キミは?」
「ボクは……名前は無いんだ。みんな忌み子だーっていってボクを嫌ってて……」
「おなまえ……んー」
フェレスカと名乗ってくれた女の子は、ボクの為に名前を頑張って考えてくれている。
思えば、フェレスカはボクと歳が近そうだった。
「きめた! アフェリク! りゅうごで"てんせい"っていみだよ!」
「転生? なにそれ」
「あたいもよくわからないけど、いちどしんだひとがなにかべつのものにかわるんだってー」
「でもなんでそれをボクに?」
「なんとなくー!」
どうやらボクはなんとなくで名前をつけられたようだ。
それにしても、この子初対面だというのにボクに親切? なんでだろ。
そういう性格なのかな?
「これから、どうする?」
「あたいもどうしようかわからない! つのもしっぽもつめもなくなっちゃったからおかねにならないし、はえるのまつのたいへんだし……。どこにいってもかわらないから、ここでいっしょいよ!」
「そうしよう!」
フェレスカの言う通りである。
だってボク達は"帰るべき場所"がないのだから……。
「っ!ううっ」
「どっどうしたの? フェレスカちゃん?」
急にフェレスカがボクの前でお腹を抱えて座り始めた。
かと思えば少しおしりを後ろ目にだしてかがむような体制でいる。
「うま、れちゃう……ううっ」
「うま……?!」
フェレスカが苦しいうめき声をだしたかと思うと、息を荒々しくしてりきみ始めていた。
え? もしかしてこれって……? いや考えないでおこう。
「っっ!!」
数分後、綺麗に1つの卵が産まれた。
いつの間に抱えてたのだろうか。
さっきはこんな大きな卵が入ってそうなお腹してなかったのに……。
「どっどうして急に卵が……?」
「あたいね、りゅうじんだけどちょっとめずらしくて……こうびをしてなくてもたまごをうんじゃうんだ。さっきにんげんににみだらなこういをうけたばかりだけど……おなじしゅぞくじゃないとあかちゃんできないから……」
どうやら、よく分からないけど自分の欲を満たすためだけにフェレスカを襲ったらしい。
オマケに龍のアイデンティティまでうばったらしい。
どうしてだろう、イライラが募る。
「だいじょうぶだよ? おこらなくてもいいの。たしかにこわかったけど……あのひとたちきもちよさそうだった」
「ちがうよフェレスカ! それはやっちゃいけない! ちゃんと、ちゃんとなかよくなってからじゃないと!」
「? アフェリク、ものしり? やっぱりへん」
「変じゃないってば!」
ボクはプクッとほっぺを膨らませて抗議した。
結局服らしい服をまだ着てないからくしゃみがすぐ出てくるけど。
「アフェリクかわいい。これから、よろしく! 」
「えっあっうん、よろしくフェレスカ……」
ボクが、この歳で初めて守りたいと思った人だった。
そんな人とこの森の中で暮らすのかと思うと、ちょっとワクワクしている自分がいる。
__出会ってから数年後、両者推定10歳
「フェレスカー! シャンブルの実取ってきたよ!」
「うん! ありがと! そこに置いておいて!」
ボク達はあの日から少し成長して、それぞれ男女らしくなった。
ボクは筋肉が少しついてきた気がするし、フェレスカはすらっとした体つきになって、胸も少し大きくなってきた。
相も変わらず綺麗な片目だけピンクの瞳と短い銀髪が綺麗である。
もう片目は色がないみたいだけど……あの星の形なんだろう。
さっき取ってきたシャンブルの実は、近くのテーブルの上に置いといた。
ここはボクたちの秘密のおうち。
きっと誰も知らない素敵なおうち。
2人で協力してつくった。
ちょっと狭いけど、一緒になって寝るのも悪くなかった。
今でもドキドキするけど……。
「いただきまーす!」
少ししてフェレスカが降りてくると、2人は一緒のテーブルで並んで食べる。
相変わらずシャンブルの実はしょっぱい。
「ぷっあはははっ! アフェリクの顔面白いっ!」
「笑ったな! フェレスカだってお口の周りに種いっぱいくっつけて!」
よく熟れたシャンブルの実はより塩味が増し、直でかぶりつくと口周りに小さな種が沢山くっつく。
正直お髭が生えたみたいで面白い。
「はぁ、はぁ……久しぶり笑った。ところでさフェレスカ、フェレスカの名前も龍語なの?」
「そうだけど……どうしたの?」
「ずっと一緒にいたけど、意味を知らないなって」
「あたいの名前の意味……。えっとね、"貧弱"なんだ」
「……ごめん、聞かなかった方がよかったかな」
「ううん! いいの!知りたかったんなら」
フェレスカは首を大きく横に振って大丈夫だよと必死に伝える。
そういえば……前にこんなこと言ってたっけ……。
__今から数年前
「フェレスカって、どうしておうちに帰らせてくれないの?」
「あたいは、にんげんにかてないよわいりゅうだから……。おちこぼれだからって……」
「そう……」
フェレスカはボクと同じで生まれ故郷から捨てられ、追い出されていた。
理由は違うけど、悲しいという思いは同じだった。
__そして現在。
「それともうひとつ、その目の星はなに?」
「あぁこれ? 追放者の証なんだ。アフェリクと初めて会った時には既にあったんだけど気づかなかった?」
「だってあの時は、フェレスカが見るなって……」
「!そうだった……」
恥じらいのあまり見るなといって見せてなかったことを覚えてなかったらしい。
「痛かったんだよ? 沢山泣いたもん」
「痛かった? どうして?」
「あたい、この目見えないから……」
「それって……もしかして」
「うん、あたいの目を見えなくして魔法でこの星を刻んだの」
歪な星の形、失明させてまで刻むことになんの意味があるのかは今更どうでもいいが、そんなことをする意味がどこにあるんだと心の中でボクは思った。
「さっ、暗い話はここまでにしてさ、一緒にお風呂入ろうよ」
「うんっ」
フェレスカからお風呂に入ろうとお誘いを受けた。
あれから互いに裸を見られてもさほど気にする事は無くなった。
服や靴、下着などを頑張って作るまでの間にどうしても視界に入ってしまうから慣れてしまう。
慣れるまで互いに顔を赤くしてたなあ。
「ボクたち、ちゃんと幸せに暮らせてるのかな」
「もちろん! あたいらがもし出会わなかったらと思うと考えたくないね」
「そっそう、だよね!」
それから会話が進まなかった。
やっぱり女の子と一緒にお風呂にはいるのは、いくら慣れてても生物的に恥ずかしとすら感じるのが本能なのだろうか?
改めて裸体のフェレスのをみると、綺麗な鱗にL字型に曲がった龍の角、鋭い翼の爪に猫のような細くて可愛らしいしっぽ……なんとも魅力的である。
「? どうしたの?アフェリク。お顔真っ赤。あー!さてはえっちなこと考えたでしょ!もう!」
言うが早く、ボクは熱湯を体にかけられた。
熱い。
「あつつ! あついって! そんなこと考えてないよ! と言ったら嘘になるけど……」
「小声でも聞こえてます!! えっち!へんたい!」
えっちだのなんだの言う割には堂々と一緒に風呂に入ってるのに、なかなか理不尽である。
でもそんな彼女は怒ってると言うより、なんだかじゃれてきてるようにも思えた。
「やったなー? ボクもやりかえしてやるー!紅蓮」
大きくなる過程で覚えた炎魔法を使って、水を温めて同じく熱湯をかけ返した。
「あたいは龍だよ? 熱いのへっちゃら……ひぁあ! 熱い! あつあつ! 」
「へへんっ、去年の紅蓮よりもちょっと強くなったんだ!」
「また強くなったんだ? あたいも負けてられない!」
お風呂でリラックスかと思いきや、おうち近くの湖を暖かくしてただ互いにお湯を掛けながら遊んでいるだけだった。
フェレスカも、初めてあった時に比べれば強くなった気がする。
あれから魔物を狩ってご飯を調達するのを2人で繰り返す度に、確実にレベルアップしているような気がする。
「今日はこんなものでいいや。おうち帰ろ」
「うん!」
ありったけ遊んで湖の水を干上がらせかける所まで水を掛け合い、2人はそのままお家に帰る。
炎魔法の応用で体を乾かしながら……。
__出会って推定20歳ころ
「ボクは立派な大人になったぞ!」
「あたいも!」
まだ精神的にどこか幼さを感じつつも、ボク達はついに大人になった。
ボクは髭がぼうぼうに生えたし、フェレスカはより大人の女性のような綺麗な姿になった。
りっぱで大きな翼に太くがっしりとしたしっぽ、角は変わらずL字だけど……トレードマークになっていた。
「大人になって言うのも遅いけど……ずっとフェレスカに言えてなかったことがあるんだ」
「あたいも、今更になって言おうとしていえなかったことがあるんだ」
「ずっと恥ずかしくて」
「あたいもだよ」
「「ずっと好きでした!付き合ってください!!」」
どうして今までいえなかったのだろう。
たくさんの思い出が頭の中を巡りながらの告白、もう少し早い時から言えばよかったかな……とも思うが、やっと言えたと思って……答えは当然。
「「はいっ!喜んで!」」
答えまで息ぴったりだった。
誰もボク達のことを祝福してくれないし、結婚しても変わらないんだろうというのは想像に固くなかった。
でも、小さな結婚式でもいいんだ。
ボクらはボクららしい幸せを掴んだ。
そして、フェレスカがいつか言ってた"らしくない"の意味が今になってわかった。
「ボク、やっぱりこの世界へ転生してきてたんだね。生まれ直しでもしたのかな? だからこの世界のことをよく知ってたんだと思った。6歳の頃からずっと疑問におもってたことだったよ」
「うん、なんとなくだけどあたいも分かってたよ。でも、だからってあたいはアフェリクの傍を離れない。その綺麗な黒髪にはいったメッシュの金色に、魔物に怪我をおわされて付いた片目の傷……そして筋肉質な体……でも顔は堂顔なの可愛いっ」
「褒めてるのか貶してるのかどっちだよ! 全く」
ふふふっと微笑むフェレスカの顔を見てまじまじとみてやる、そして覚悟を決めたようにボクはフェレスカの頬にキスを落とす。
「フェレスカ、一生君を愛するから。だから、ボクと今日一緒に夜を……」
「なにいってんのさ、あたいと寝ようって言われなくったっていつでもばっちおっけーで構えてたのにぃ」
「っ! だって、襲ったらまた君がえっち! ってうるさいだろう? 」
「ふふっ、そうだよ?」
「……だから手を出さなかったんだ」
時間は朝、部屋の中……まだ明るいのに、2人は唇を重ね合い何度も何度も体を重ね、沢山愛しあった。
もうそこに、かつての虐げられて絶望にまみれていた2人の姿は、なかった。