家族
家族と軽い言い争いをした。最近イライラすることが多くて、情緒不安定である。家族の笑い声ですら耳に障る。
『早寝の家族で良かったですね。真夜中はあなたのものですよ』
それはそう思う。早寝なので、夜は静かだ。昼間は家の中もそうだが、隣の家もなかなかに煩い。芝刈り機を庭でかけるのである。
『芝刈り機って、どうしてあんな音なんでしょうね』
本当に。あの金属が草を刈る何とも言えない音が苦手である。エンジンをブンブン言わせるのも嫌だ。
『もっとポップな音にしてしまえば良いのに。下敷きをぽわんぽわんさせる音はどうでしょう』
可愛いが、それはそれで煩い。
『でしたら、マーブルチョコの容器の蓋を開けるときのあの音は?』
ッポン!! ってやつだ。いいや煩い。
『難しいですね。快適な音とは何でしょう』
無音しか無い。昼間も真夜中のようにしんとなれば、皆ストレスフリーだ。
『無音ですか。太陽が出ているのに音が無かったら、不思議な感覚になるかもしれませんね』
洗剤をシャワーで洗い流して、掃除を終える。脱衣場へ行ってタオルで濡れた足を拭いた。
『それで、家族と言い争いになったんでしたね』
そうだった。そういえばそんな話だった。
何に関しても腹が立つのだ。せっかく作ってもらった夕食だが、少しでも想像していた味と違うと箸を置いて「もういらない」と言う。
楽しそうにテレビ番組を見ていると、リモコンの電源ボタンを押して消してやりたくなる。
この行動をしたら困るだろうな、怒るだろうな、ということをやってやりたくなる。そして、ストレスでそんな奇行に走るのだと理解させたくなる。
『究極かまってちゃんですね』
やはりそうなのか。
『でも気持ちは分かります。辛い時って、誰かに慰めてもらったり、何かしら気にかけてもらいたいですよね。言葉にせずとも、満足のいく行動を相手に求めてしまうんです。でも人間ですから、100%自分がしてもらいたいことを理解されるのって難しいんですよね』
そうなのである。
例えば、リモコンでテレビを消したら、きっと家族は黙ってしまう。そのまま寝る用意をして、そそくさと寝室に籠るだろう。そこでスマホやら何やらで番組の続きを見る。
その行為が嫌である。
テレビを消したら、自分に対して何かアクションをして欲しい。ただ、そのアクションもまた難しいのだ。慰めるとか、何か機嫌を取らせるアクションはいらない。
どんなアクションを欲しているのか、自分にもよく分からない。
それをピタリと当てることができる人が居たら、ノーベル賞でも何でも良いから、物凄く賞賛する。
『まあ、そのための私ですから。ご機嫌を損ねて家族の当たり散らす前に、私を呼び出してくだされば、最高の真夜中をお届けしますから』
その通りだ。
明日家族に謝ろう。
『その方が良いですよ』
足を拭いたタオルをカゴに投げ入れる。
『さあ、風呂に入りました。次は歯磨きですね』