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19-03

「その『鬼穴』というのは、結構あるものなんですか?」

「うん、実は結構あちこちにあってね。『鬼』自体が出てくることはかなり稀なんだけど、悪い気を出す場所だから本当は管理してる神社が定期的に見ないといけない場所よ」

 凛子の言葉に、和都は現状を思って内心息をついた。出てくることが稀だという『鬼』が、今この学校に二体もいるというのは、実はかなり危ない状況なのではないだろうか。

「それでもこれまで大きな災厄が起きてないってことは、管理されてたお家の方はかなり信仰深い方だったのかもしれないわね。うちは和都くんたちが調べに来るまで、祠の存在を認知すらしてなかったし」

「神社そのものを、秘匿にされていたようですしね」

「そうなのよねぇ。戦争でうちの蔵も一つ壊れちゃってるらしいから、白狛神社の資料はそっちにあったのかもね、なーんて言ってたんだけど、まさか残ってた蔵の二階に隠されてたなんてね。だから今回、君達が調べてくれて助かっちゃったわ」

 あはは、と凛子が明るく笑う。

 蔵の二階には、強力な魔除けのほかに人避けの札も貼ってあったので、やはり凛子たちも二階に上がることは出来ていなかったようだ。

 ──()()()()()()()入ることが出来たんだろうな。

 仕事の傍ら、仁科は三人の話に耳を傾けながらそんなことを考える。

 安曇家の当主と凛子には、白狛神社を調べるにあたり、和都が狛犬の生まれ変わりで、(つがい)だった元狛犬のハクが憑いていること、そして、自分や安曇神社から霊力(チカラ)を分けてもらって、かなり強いチカラを得ていることまでは話していた。

 ──色々終わったら、『安曇』に入れろって言われちゃいそうだなぁ。

 仁科は全てが片付いた後のことを思って、なんとも言えない気持ちになる。

「あ、そういえば、『護衛くん』の名前聞いてないね」

 凛子にそう聞かれ、春日は確かに名乗るタイミングがなかったな、と気付いて改めて自己紹介をした。

「二年の春日祐介です。……その『護衛くん』て、なんですか?」

 校門で会った際にも言われた、妙な呼び方が気になる。

 学校では色々と問題の多い和都について回っているせいで、一部の生徒──主に菅原などから『番犬』と揶揄されることはあったが、けれどそれを凛子は知らないはずだ。

「ああ、和都くんの『護衛』ってことよ。和都くんて、多分、何でも惹き寄せちゃうタイプの子でしょ?」

 凛子の言葉に、一瞬だけ室内の空気が止まる。

「……俺、お前にその話してたっけ?」

 作業の手を止めた仁科が、横目で凛子を見ながら言った。

 あらゆるものを惹き寄せてしまう『狛犬の目』。

 その本当の正体については、慎重を期す為、今は仁科と春日だけが知っている。

「聞いてないけど、それくらい分かるわよ。和都くんがうちにいる間、神社の周りがずっとザワザワしてたから」

「そうだったんですね。すみません」

「ううん、大丈夫。うちの神社はその程度じゃどうってことないわ。寧ろうちにいた方が安全よ。うちにいる間は、怖いこと起きなかったでしょ?」

「あ、たしかに」

 安曇神社にいる間は、嫌なものに遭うことがなかったし、知らない人とも普通に接することが出来たので不思議だったが、やはり神社のチカラのおかげだったのか、と和都は納得した。

「マサくんの時もそうだったから、なんか懐かしくなっちゃった。たまにいるのよね、そういう子」

「そうでしたか……」

 雅孝が和都と同じように惹き寄せる人間だったということを、和都は仁科の実家へ寄った際に初めて聞かされたので、なんともいえない気持ちになる。

「それでその、強い『護衛』というのは?」

 春日の問いかけに、凛子はああそうだった、とそちらを向いた。

「惹き寄せちゃう子って色々大変だから、生存率ってすごく低いって言われてるの。それでも無事に生きてる子って、だいたい『護衛』になる子が近くにいるのよ。ものすごく強い守護霊とかがついてて、色んな悪いことを一緒に回避してくれる」

「……なるほど」

 言われて和都が春日を見ると、戸惑っているような何とも言えない顔をしている。確かに春日は、事故に巻き込まれても一人だけ無事なうえに無傷で済むような、妙に運の強いところがあったが、そんなことを凛子が知っているはずもない。

「和都くんには、マサくんみたいにヒロ兄がついてるからだと思ってたんだけど、普段は祐介くんのほうが一緒にいるんじゃない?」

「あ、はい。中学からずっと、同じクラスで……」

「へー、すごいね!」

 実の父親が亡くなるまでは、ずっと父が守ってくれていた。その後に引っ越してきたこの街では、春日が中学の時の保健委員だったこともあり、よく倒れる自分の介抱のために、その時からずっと近くにいる。

 ──ユースケが色んなことに間に合ってたのは、そういうことか。

 視えることも、惹き寄せてしまうことも話していなかったのに、知らないうちに守られていたらしい。

 凛子の話に、やはり難しい顔をしたままの春日を見ながら、和都は小さく笑った。

「それだけ強い守護霊がついてるなんて、家系なのかしら? 神社とかお寺とかに関わりが深いとか?」

 よほど強力な守護霊に守られているらしく、凛子が興味津々で春日に聞き始める。

「いえ、普通の家です。母は美容室を営んでいて、父は消防関係の仕事をしています」

「あらそうなの」

「……ああ、でも」

 ふと春日が何か思い当たるような顔をしたので、凛子が「なになに?」と身を乗り出した。

「親戚周りのほとんどが、自衛隊やレスキュー隊といった、人命救助を担う仕事についています」

「なーるほど、人を助ける家系なのかぁ、ステキ。その辺は関係ありそうね。じゃあ祐介くんもそういう仕事するの?」

「いえ、俺は弁護士になろうかと」

 なりたい、ではなく、なる予定な辺りが春日らしいな、と和都は横で聞きながら思う。

「すごいねー! 頭いいんだ。大学はどこ受ける予定? 決まってる?」

「白鷹大です」

「名門じゃん、すごいね。あ、和都くんは決まってるの?」

 突然話を振られて、和都は慌てた。残念ながら、まだ将来云々が決まっていないのも悩みの一つである。

「えっ、あ、いや、おれはまだ……」

「そろそろ決めたほうがいいぞ」

「分かってるよ」

 話がだんだんと普通の話になってきた辺りで、やれやれ、と仁科が椅子から立ち上がった。

「なんだかんだ、おしゃべり出来ちゃうもんだね、お前ら」

「あ、ヒロ兄のお仕事おわり?」

 息を吐く仁科に、凛子が待ってました、と立ち上がる。

「終わりっていうか、終わらせたの。じゃあ、行こうか」

 そう言って仁科は保健室の出入り口近くにある、私物入れのロッカーを開けて身支度を始めた。凛子も談話テーブルに置いた、大きなリュックを背負って準備する。

「あ。せっかくだし、お前らも来る?」

「行っていいなら、見学したいです」

「あっ、お、おれも!」

 仁科がロッカーの扉を閉めながら、使っていたマグカップを片付ける春日と和都に向かって聞いた。珍しく春日が先に答えたので、続くように和都も答える。

「じゃあ、みんなで行きますか」

 そうして四人揃って保健室を後にした。

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