【あ】
【 】を失った。それが何かはわかっているが、口に出すことも考えることもできない。
私自身、突然の事で驚いている。
と、言っても脳の疲れか何かで、一時的なものなのだろう。
そう恐れず、様子を見ることにしよう。
私の数少ない友人なら親身になって聞いてくれるだろうし
相談したいところだが、最近、何かと忙しいらしい。
友人はすごいんだ。高名な博士の助手の中でも優秀で
信頼されているとこの前、話してくれた。
しかし、自分で言うのも何だが私だって優秀だ。
私も何か手伝えたらいいのだが、ま、それを考えるのは
この懸念材料が消えてからしよう。
【 】を失った。【 】に続きだ。
本を読んでも、その文字だけが脳でわかることが無理なんだ。
だから代わりの言葉を考え、補うのだが少々、恐怖だな。
友人を経て、伝わったため、博士が私を診てくれたが、博士は発端がわからんと仰った。
私の友達が励ましてくれたので少し楽な気持ちになったが
私は彼が口にした言葉がややわからんかった。が、伝わったので良しとしよう。
だ、じょうぶ、すぐに良くなる、か。私もそう願う。しかし、うう、恐れ、恐れ。
【 】を無くした。さくじつに続き、この日もだ。
翌日も無くすとしたらと考えると、恐れが全身を回る。嫌悪、嫌悪。
きっと無事だと信じることしかできん。考えるのもこわ、こわだ。
【 】を無くした。それに【 】もだ。日に二つだ。悪くなってるのかも。
これは困った。これで五字無くしたことになる。
それも私が知った順にだ。言葉に苦心する。やだ、やだ、やだ。
【 】と【 】と【 】を紛失した。
こわ、こわ、こわ。なぜ。なぜ。なぜ。私は古の私に戻るのやだ、やだ。
【 】と【 】並びに【 】【 】【 】【 】【 】
……はははははは。わら、やれる。はははははは。
またの日、やれる無理なる? 戻る戻る戻るやだやだやだ。
やだやだやだやだやだやだやだやだやだ……。
我、友達に求む。和を。友達、友達、友達、我、求む、求む、変。
【 】【 】【 】【 】【 】
【 】【 】【 】【 】【 】
無理。や、や、や、や、や。や。変、変。変。変。変。変。針、や、や……。
【 】【 】【 】【 】【 】
【 】【 】【 】【 】【 】
【 】【 】【 】
れん、憐。われ、我、憐、憐憐憐憐憐憐憐憐憐。
わる、悪悪悪悪悪! 悪! 悪! 悪! 悪!
【 】【 】【 】【 】【 】
「わーん、わんわん、わーん! わんわんわん」
「ママー! このおさるさん、へんなこえー!」
「こらこら、そんなこと言わないのよ? かわいそうなお猿さんなんだから」
「どしてーかわいそー?」
「ほら、看板に書いてあるでしょ? 『実験施設から助け出された猿です』って」
「えー? どうやってー?」
「んー、あ、書いてあるね。えっとね、ふーん、へー」
「よんでよぉ! あたし、よめない! いや!」
「ああ、ごめんごめん、えっとね、悪い人たちがいるところに
正義の味方が潜入してたんですって」
「すごーい! やっつけたんだ! しゅっ! しゅって!」
「ふふふっ、パンチやキックはどうかなー?」
「えへへ、じゃあ、おさるさん、いまはしあわせなんだ」
「そうね、幸せね」
「でも、えーんしてるみたいだね」
「え、そうかしら? あ! あっちにゾウさんがいるって!」
「わーい! いこういこう!」
「わーん! わんわんわん……わんわん……わーんわーん。
わああああーん! わああ……わん……わあ。わ、わ、わ、あ、あ、あ。あぁ……」