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第3話 サービス残業に愛の鉄槌 たかし、人殺しを依頼

 オフィスでひとり働くたかし。来週のプレゼン資料の作成で、時計の針は21時を回っている。


 「それにしても何でこんな、夜遅くまで働かないといけないんだ?アマ子ちゃんちの駄菓子屋なら、残業しなくて済むのかな。」


 「おい、たかし。資料できたか?」


隣の部屋のドアが開き、ダブルのスーツを着たオールバックの男性が、たかしに話しかける。


 「いえ、まだ出来ていません。ですが、課長。今日はもう遅いので、そろそろ帰ろうと思います。」


 「何言ってんだよ、まだ終わっていないんだろ?終わっていないのに帰る奴がいるか?」


 「いえ、でも今月も相当、残業時間が積もっているので。」


 デスクを片付け始めようとするたかしを見た課長は、おもむろにたかしのデスクに両手をついて、覗き込むように話しかける。


 「仕事が出来ていないなら残業時間なんてつけなければいいんじゃないか?お前は大した能力もないのに、ここにいさせてもらえているんだぞ?会社への感謝の気持ちというのはないのか?」


 「・・・それを言ったら、ずっと残業代を付けられなくなるんですけど。」


 「お前が仕事ができるようになればいいだけの話だろ?出来なきゃ家に持ち帰るとか、女に手伝わせるとかいろいろとあるだろ?」


 「・・・はい。」


 「返事が小さいぞ。」


 「はい。・・・うわぁ!」


 たかしは課長の後ろに潜む、不気味な影に気がつく。


 「課長!後ろ!後ろに変な奴がいます!」


 「何?後ろ?・・・おい、どこにも変な奴なんていないぞ?」


 「いや、いるじゃないですか!そこに、ほら!赤いしっぽが生えている悪魔が!」


 「は?何言ってんだお前?戯言はいいから、早く仕事を終わらせろよ。油を売っている時間なんてないぞ。」


 課長は悪魔に気がつくことなく、自室に戻っていく。


 「グワッガッガ!心に闇あらば、そこに住み着くのがこの魔狗瓶様よ!こいつの利己的な精神は俺の住処にぴったりなのだ!洗脳している奴に俺の姿は見えん。たかし!お前の上司を操って、お前を永遠のサービス残業地獄を見せてやる」


「またお前か!なんで俺にそんなに粘着するんだ!他を当たれよ!」


 「グワッカ!俺様はしつこいんだ!最初のターゲットを確実に仕留めるのが俺様のやり方なのだ!」


 「面倒くさい奴だな。くそ!こうなったら、ビューティー仮面!お願いだー!助けにきてくれー!」


 「トォーウ」


 静まり返るオフィスに突如として光の輪が現れ、中から例の仮面の男が姿を現す。


 「困っている人がいるのなら、飛んでいこうかホトトギス。」


 「ビューティー仮面!大変なんだ!課長が悪魔に洗脳されて、永遠にサービス残業をさせられそうなんだ!」


 「任せろたかし!ビューティー・ギミック剣山!これを腕に装着するんだ!」


 「ビューティー・ギミック剣山?」


 手の甲から肘にかけて針が外側にぎっしり敷き詰められた、小手のような装備をたかしは手渡され、恐る恐る腕に装着してみる。


 「ビューティー仮面・・・まさか、これで課長に触る?」


 「これを装着すれば、たとえ軽い眠りに落ちたとしても、剣山が内側に入り込んで目を覚ましてくれるという優れものだ!」


 「アホかこいつ!殺す気か?馬鹿じゃねえの?相変わらず。」


 たかしは装着したギミック剣山を床に放り投げる。


 「ビューティー仮面、こうなったら、あの魔狗瓶をやっつけてくれ!」


 「よし!わかった!ビューティー・残業撲滅ビーム!!」


 「痛い!!」


 光線が直に当たるも、悪魔は涼しい顔をしている。うめき声は部屋の外から聞こえてきた。


「グワッガッガ!洗脳が解けない限り、私はダメージを喰らわないのだ!」


 「おい!一体何事だ?」


 課長が肩を抑えながら部屋から出てくる。


「課長!大丈夫ですか?」


「いきなり肩に鉄球が当たったような激痛が走ったんだが・・・って、おい、たかし。誰なんだこいつは?こんな恥ずかしいコスプレ姿をしたやつは?お前の友達か?」


「いえ、彼はビューティー仮面といいまして、世の中の美しくないものを退治してくれるという正義の味方なんです、一応。」


「は?何を訳の分からないことを言っているんだ、お前は。いいから早くこいつをつまみ出して、仕事を終わらせろよ。」


「くっ!どうやって課長の洗脳を解けばいいんだ?このままじゃあ、会社に住み込みになっちまう!」


「よし、わかった!たかし少年!これでゴリラ課長の洗脳を解こう!ビューティー・ノスタルジック・スクリーン!」


壁一面に光が投射され、どこかの田舎の風景が映し出される。晴れ渡った明るい空に、白樺の木が所々に生えている。


「なんだこれは?ビューティー仮面、これはどこの映像だ?」


「おい!これはうちの田舎の風景じゃねえか!あ!あれは、お母ちゃん!」


課長の故郷の風景が映し出されて、母親がカメラ目線でこちらの様子を伺いながら話しかけてくる。


「修七、修七かい?」


「母ちゃん?何これ?テレビ電話?でも、そっちが昼間ってことはないよな・・・」


「修七、元気にし取るかい?」


「ああ、元気だよ。」


「修七、お前は結婚はまだなの?」


「ああ、母ちゃん。今は仕事で忙しくてそれどころじゃないんだよ。」


「そうかい。ほら、友達の裕二君。3カ月前に離婚したらしいよ。」


「ああ、そうなんだ。知らなかったよ。」


「近所のスーパーでよく会うから、今度会ったら何か伝えておくかい?」

「いや、いいよ別に。今度帰省した時に会うだろうから、特に伝えてもらうことはないよ。」


「お前が昔、付き合っていた波奈子ちゃん、まだ独身みたいだよ。」


「ああ、そうなんだ。それも知らなかったよ。」


「今度裕二君に会ったら、波奈子ちゃんのことを紹介してあげようかなと思うんだけど、どう思う?」


「絶対にやめて!母ちゃんにそんな権利ないから!本当にやめて!」


「そうかい。お前も早く結婚するんだよ。」


「わかったよ母ちゃん。わかったから、絶対に波奈子の件は絶対にやめてね。」


別れを告げるとともに、映像も消えていく。何とも言えない雰囲気が漂うなか、たかしが口を開く。


「おい、ビューティー仮面、今のは一体何だったんだ?故郷の映像が流れて、童心に帰って洗脳を解くっていうことじゃなかったのか?全然違う方向に進んでいったぞ?」


「あの晴れた天気のようには行かなかったな!ハッハッハ!」


「グワッガッガッ!何をやろうとしているのかと思えば、お前は所詮、その程度のものだのだグワッガッガッ!よし、これでも喰らえ!ハイパー丸投げビーム!」


悪魔が放つ光線が課長の修七に当たる。


「たかし、とんだ茶番に付き合わせてくれたなあ。罰として東エリアの新規顧客100件に心のこもった手紙を書いておけ。明日の夕方までに終わらせるように。」


「そんなあ、無理ですよぉ~、勘弁してください。」


「それぐらいやって、ようやく社会人の端くれぐらいになれるんだ、お前の場合。じゃあ、やっておくんだぞ。」


課長は背を向けて部屋を出ていく。


「くそ、どうすればいいんだ?」


「グワッガッガッ!こうやってお前は精神的にも肉体的にも追い詰められて、朽ちていけばいいのさア、俺様に逆らうからこうなるのさア。」


「くっ!こうなったら、ビューティー仮面!ここはもう仕方がない!ひと思いに課長にとどめを刺してくれ!世界を守るためには、もうそれしかない!・・・おい、ビューティー仮面!」


「私に人殺しをしろと言っているのか?」


「いや、そうじゃなくて、その・・・世界の平和のためには・・・ね。」


「たかし少年よ、悪魔は私が倒す。しかし、君の仕事は君が考えてなんとかしてくれたまえ。


「そんなあ、ビューティー仮面、助けてくれないのかよ。一体どうすれば・・・」


「たかし君、手伝おうか?」


「え?誰?」


たかしのデスクの後ろの方から声が聞こえる。


「僕が手伝おう。」


 後方の、他の人の席に座っているビューティー仮面2号が、にこやかにたかしに話しかける。


「おお!ビューティー仮面2号!救世主の登場だ!」


「さあ、たかし君、手紙の用紙を渡して。」


「はい!お願いします。」


2号は用紙を受け取るや否や、ものすごい勢いで書き進めていく。


「おお!凄い!なんという動きだ!高速で手紙を書いているぞ!まるで千手観音だ!手が6本くらい生えているみたいだ!」


「さあ、たかし君、これを受け取り給え!少しでも早く終わらせて健康に生きよう!」


「はい!ありがとうございます!これで今日は家に帰れる気がしてきました!」


「グヌ!恐るべし2号め!」


「おい、どうしたんだ?騒がしいぞ?まださっきのコスプレ野郎がいるのか?」


再び課長が部屋から出てくる。


「課長!これを見てください!手紙を書き終えました!」


「なんだと?!一体どうやって・・・」


「この2号さんが手伝ってくれたんです!ほら、見てください!凄いでしょ?!」


「おお、これは・・・なんだこの『たかしをよろしく』と書いた手紙は。お前はこんな手紙を新規のお客様に送ろうとしているのか?」


「え?いや、それはその・・・2号!これはどういうことだ?こんなものを会ったことのないお客様100件に送ることなんか出来ないよ!・・・いや、2号は悪くない。2号を信用した俺が悪いんだ!」


「グワッガッガッ!やはりただの馬鹿であったかア!グワッガッガッ!」


「おい、たかし!ちゃんと明日の夕方までに終わらせるんだぞ。遊んでいる暇はないからな。いつものように22時過ぎたら残業代つけるなよ。」


「ぐ、もう諦めて受け入れるしかないのか・・・」


「大丈夫だクソガキ!”告発”という最終手段を使うんだ!」


「なに?!労基に通報するつもりか?ふん!やれるもんならやってみな!」


「たかしよ!今の課長の発言を全世界に送信するぞ!アメリカの国防省にまで送りつけてやる!」


「やめろ!そんな恥ずかしい真似はするな!!うちの会社がアホだと思われるだろ!もういい!手紙は来週まででいい!プレゼンも明日の午後の会議に間に合わせるようにしろ!もう変なことするな!」


課長は再び背を向けて自室に戻っていく。


「おお!課長!有難うございます!」


「グオ?!こんなことで洗脳が解けるとは・・・こうなったら、これでも喰らえ!疲労蓄積ビーム!」


「ゆくぞ2号!」「おう1号!」


「パワハラ倍返しアタック!」


「グエー!いつか見てろよわが宿敵よ。」


「ふぅ、本当にしつこい奴だった。1号、2号、ありがとう。悪魔が去って、これで課長が普通の人に戻ってくれるといいけど。でも結局はプレゼンの資料を作らないといけないんだよな。まあ、きりのいいところまでやって帰ることにするよ。」


「たかし君、何か手伝おうかい?」


「ありがとう2号。でも、気持ちだけで十分だよ。手伝ってもらっても後始末だけ増えるような気もするし。」


「たかし少年!私が手伝ってやろう!」


 「1号が手伝う?まあ、期待していないけど、一応どんな風に手伝ってくれるか聞いてみようかな。」


 「これを使え!ビューティー鉢巻だ!」


 「ビューティー鉢巻?カッコいい鉢巻を捲いて、気合を入れて頑張れってことか?」


 「鉢巻の中に小石が入っているから、眠くなったらこれで自分を殴るだ!」


 「だから、そんなことやったら、下手したら死ぬって!そういうの手伝うって言わないから!」



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