第2話 ハイキングで愛を叫ぶ
「いやあ、本当にいい天気だね、アマ子ちゃん」
「本当だね、たかし君。こんなに天気がいいのは、たかし君の日頃の行いがいいからだね、きっと。」
「いやあ、アマ子ちゃんの日頃の行いがいいからだよ。絶好のハイキング日和だね。」
「うん、たかし君のために特製のおにぎりを握ってきたんだよ!」
「え?本当に?なになに?特製のおにぎりって」
「じゃーん!特製、麩菓子入り焼きおにぎりだよ~!」
「ええ~?!美味しそうじゃん!いただっきまーす!」
「だーめ!ご馳走は山頂についてから!」
「ええ?いいじゃんここで!まだ山頂まで遠いしさあ、まだまだ斜面が続きそうだし、ここは腰を下ろすのに丁度ぴったりな場所じゃん!」
「もう仕方がないわね。じゃあ、やまびこで決めましょうか。素敵なやまびこを響かせた方が勝ちね。」
「よし!わかった!ヤッホーー!」
(ヤッホーー!)
「あたしだって負けないんだから!ヤッホーー!」
(ヤッホーー!)
「大好きだー、アマ子ちゃーん!」(大好きだー、アマ子ちゃーん!)
「わたしも大好きだよー、たかしー!」(わたしも大好きだよー、たかしー!)
「僕は、世界で一番好きだよー!」(僕は、世界で一番好きだよー!)
「わたしは、この星で一番好きだよー!」(わたしは、この星で一番好きだよー!)
「俺は、宇宙で一番好きだー!」
「ボーン!」
背後から何者かがアマ子を捉える。
「きゃ~!」
「グワッガッガー!悪しき心に悪魔アリ、嘘つきの心にたかしアリだなあ。」
「お、お前は!あのときの化け物!」
前回、公園で遭遇した悪魔が再び登場する。顔つきが元に戻っており、以前にも増して醜く見える。
「グワッガー!たかしよ!お前の悪の心が再び俺様を呼び寄せたのよ!この女を宇宙で一番好きだという、わかりやすい嘘をついて俺様を召喚してしまったのさア!」
「何を言っているんだおまえー!嘘なんか言ってねえよ!アマ子ちゃんを返せよ!クソ、誰か!誰か助けてー!」
「グワッガッガー!こんな山奥で助けに来るもんなんていないんだよ!俺様は狙った獲物を必ず仕留めるのさア」
「トォーウ」
晴れた日差しから太陽の風が降り注ぐかのように赤いマスクの男が再び登場する。
「雲間に光が差し込むように、悪しき心にも救いの手が舞い降りる。正義のヒーロー、ビューティー仮面、参上!」
「おお!ビューティー仮面!またあの悪魔に引っ掻き回されているんだ!あいつを追い払ってくれ!ほら!この前みたいに!」
「何を言っているんだ?!たかし少年よ!これでも喰らえ!」
ビューティー仮面はたかしの両肩をポンと叩いて、谷側の崖へと突き落とす。
「え?!うそ?」
たかしは宙吊り状態で岩にしがみつき、落ちないように必死に耐える。
「何するんだビューティー仮面!お前は正義の味方じゃなかったのか?どういうことだ?!」
「たかしよ!この手を掴め!」
ビューティー仮面は膝をついて手を差し出す。たかしは何が何だかわからないまま、差し出された手を握る。
「ファイトー!」
「い、いっぱーつ!」
仮面はたかしの手をを引いて、安全な場所へと引き上げる。
「ビューティー仮面・・・なんで俺を谷へと突き落としたんだ?危うく死ぬところだったぞ?!」
「たかしよ。なぜ礼を言わないのだ!」
「いや、確かに助けてくれたけど、その前に突き落とそうとしているからさあ、礼を言うっていうのもどうかと思うんだけど。」
「何を言っているんだたかし!崖から助けられる場面が世界で一番カッコいいシチュエーションだろうが!それが出来て礼を言わないんなんておかしいだろ?」
「それはお前目線の話だろうが!ふざけんじゃねえよ!・・・もう、いい。ありがとう。お礼を言うから、早くあいつをやっつけてくれよ。」
「グワッガッガー!仲間割れをしているようではどうしよもないなア。この女ことはどうでもいいんだな?たかしよ!」
悪魔はアマ子の首を絞めていく。
「やめろー!ビューティー仮面!今度こそなんとかしてくれ!」
「任せろたかし!ビューティーおにぎりだ!」
「ビューティーおにぎり?まさか美味しいおにぎりを出すとでも言うんじゃないだろうな?変態仮面」
ゴゴゴッという山音と共に、山頂から巨大な三角形のおにぎりがゴロゴロと転がってくる。
「グォ?!なんだありゃ?」
後ろを振り向いた悪魔は巨大な転がってくるおにぎりに驚き、身をかがめる。おにぎりは山道を不規則に跳ねながら悪魔の頭上をかすめてたかしの方へと転がっていく。
「おい!俺のところに来るぞ?!」
巨大おにぎりはそのままたかしにぶつかり、たかしは山道を転がっていく。
「たかし君!大丈夫?!」
15mくらい離れたところで転がり止まったたかしであったが、アマ子の心配する声にまったく動く気配の無いたかし。
「たかし少年!大丈夫かー?!」
ビューティー仮面の問いかけにも反応の無いたかしであったが、暫くして起き上がり、ゆっくりと仮面の所に近づいていく。
「おい!人を殺す気か!全然ダメじゃねえか、お前!」
「ハッハッハ!大丈夫かい?たかし君!」
たかしの後ろの方から声がする。
「おにぎりが喋っている?」
ぶつかった巨大のおにぎりの割れ目から、ビューティー仮面と似た姿の緑色のマスクをした者が姿を現す。
「紹介しよう。彼はビューティー仮面2号だ。」
「ビューティー仮面2号?」
「ハッハッハ、地球を愛し、平和を愛し、自然を愛す。私がビューティー仮面2号だ!」
「はあ、そうですか。なんか全身に米粒ついてますけど?回転していたせいか、体もよろけているみたいですし、登場の仕方はそれで合っていたんですか?」
「ハッハッハ、たかし君。君たちを助けるために僕は登場したんだ!これしきのことはなんともないのさ!」
「じゃあ、僕にぶつからないでくれませんか?死ぬかと思ったんですけど?ちゃんとあの化け物にぶつかってもらわないと困るんですけど!」
「まあ、細かいことは気にするなたかし君!そういうこともあるものさ。」
「たかし少年よ!せっかく2号が来てくれたのだ!仲間割れをしている場合じゃないぞ!」
「こっちのセリフだよ!倒すのは俺じゃなくてあの化け物だ!」
「グワッガッガッ!馬鹿が一人増えたところでどうしようもあるまい!お前たち、この女の命が欲しければ、そこから一歩たりとも動くなよ!」
「よし!2号、二人で挟み撃ちをするぞ!」
「応!わかった!」
「おい!ちょっと待て!動くなと言っているだろうが!この娘の命はいらないのか?」
「ビューティー・ダブルビーム!」
「グェー!お前らは正義の味方なんかじゃねえ~」
悪魔は遠く彼方へ星になるように消えていった。
アマ子はようやく解放され、たかし達のところへ戻ってくる。
「アマ子ちゃん!大丈夫だった?」
「うん、あいつの手が気持ち悪かったけど、大丈夫。」
「ビューティー仮面1号、2号、色々あったけど、ありがとう。」
「いやあ、当然のことをしたまでだ!」
「何かお礼を・・・そうだ!この特製、麩菓子入り焼きおにぎりを食べてください!」
「アマ子ちゃん!それは僕のじゃないの?」
「大丈夫!4個も作ってきたんだから!はい、これはたかしの分!」
「ありがとうアマ子ちゃん!ああ、美味しいよ!おにぎりの中にお菓子がはいっているという背徳感がたまんないよ!」
「はい、1号さんもどうぞ!」
「ありがとう、アマ子君。では早速いただこう。」
1号は焼きおにぎりを食べ始める。中に入っている麩菓子が出てきたところで、麩菓子を口ではさんで地面に吐きだす。
「甘いものは苦手なのだ。許せ。」
「別に吐きださなくても・・・。はい、じゃあ2号さんも良かったらどうぞ!美味しんですよ!」
「ありがとう、アマ子さん。有難くいただく事にしよう!」
美味しそうに焼きおにぎりを頬張る2号だったが、突然で顔が険しくなる。
「え?大丈夫ですか?お口に合いませんでしたか?」
「そういえば俺、おにぎりは梅じゃないとダメなんだわ。」
「お前ら二人ともさっさと帰れ!」